ドローン用バッテリーのバランス充電端子や、3Dプリンタ基板のモーター配線。こうした白い小型コネクタを指して「JSTコネクタ」と呼ぶ場面は多い。ところが、「JST」というのは規格の名前ではない。日本圧着端子製造株式会社という一企業の社名の略称だ。海外の技術系メディアHackadayも「JST Is Not A Connector」という記事で、同じ「JSTコネクタ」どうしがはまらない経験を例に、シリーズまで特定するよう呼びかけている。同社だけでもXH・PH・ZH・EH・VHなど性格の異なるシリーズがあり、「JSTのコネクタください」という発注は、極端に言えば「家電メーカーのテレビをください」と言っているのに近い。
もう一つの混同がピッチだ。同じ記事はXHの2.5mmピッチを、ブレッドボードの0.1インチ(2.54mm)ピッチと「実質的に同じ」と紹介している。しかしJSTのXHデータシートでは公称ピッチは2.5mmで、基板の穴ピッチも2.5±0.05mm(累積しないこと)と規定されている。両者の差は1ピッチあたり0.04mmで、指先では判別できないが、極数が増えると無視できなくなる。「似ているようで違う」という感覚を手がかりに、JSTの製品体系を見ていこう。
JSTとは——「JST」は会社の名前であって、規格の名前ではない
JST(日本圧着端子製造株式会社)は1957年9月9日設立、大阪市に本社を置く端子・コネクタのメーカーだ。端子・コネクタだけでなく、それらを電線に圧着するための自動圧着機・アプリケータ・手動圧着工具も製品として揃えている(JST「圧着機器」カタログ)。
社名の由来にも、この会社の性格がよく表れている。日本語の正式社名「日本圧着端子製造株式会社」は、英語では「J.S.T. Mfg. Co., Ltd.」と表記される。JSTの会社沿革によると、1957年に倉吉工場を建設して国産第1号の圧着端子・接続子を製品化している。米国販売会社の公式沿革も、これを国産初のSolderless Terminals(はんだ付けを要しない端子)と記しており、1975年に設立された米国法人の当初の社名は「J.S.TERMINAL CORP. OF AMERICA」だった。電線と端子をはんだ付けせず圧着だけで接続する——この技術思想そのものが、日本語でも英語でも社名になっているわけだ。
製品体系——ピッチ規格の見取り図
JSTのワイヤー・トゥ・ボード(電線対基板)コネクタは、ピッチ(隣り合う端子の間隔)で大きく分かれる。下表の5シリーズでは、ピッチが小さいほど省スペースだが定格電流と使える電線は小さく、ピッチが大きいほど電流は大きくなるがサイズも大きくなる。数値は各シリーズのJST日本語データシートの一般仕様による。
| ピッチ | シリーズ | 定格電流(使用電線) | 定格電圧 | 適用電線 |
|---|---|---|---|---|
| 1.5mm | ZH | 1.0A(AWG#26) | 50V | AWG#32〜#26 |
| 2.0mm | PH | 2A(AWG#24) | 100V | AWG#32〜#24 |
| 2.5mm | XH | 3A(AWG#22) | 250V | AWG#30〜#22 |
| 2.5mm | EH | 3A(AWG#22) | 250V | AWG#32〜#22 |
| 3.96mm | VH | 10A(AWG#16、標準形ポスト) | 250V | AWG#22〜#16 |
同じ2.5mmピッチでも、XHはトップ型の実装高さ9.8mm、EHは厚さ3.8mm・実装高さ8.1mm(トップ型)の薄型で、適用電線はEHのほうが細い側(AWG#32)まで広い。両者は別シリーズなので、ピッチが同じでも互いに嵌合する前提で選ばない。VHはばね性のあるリーフ形接触子をボックス内に収めたコンタクトと強ロック機構を持ち、データシートでは電源系回路に使われるシリーズとして紹介されている。AWG#18でボックスタイプのポストを使う場合は定格7Aになる点にも注意する。
コネクタ以外にも、JSTは裸圧着端子などの圧着端子を製造している(会社沿革では、裸圧着端子が日本で最初のJIS表示許可を受けたと記載)。この記事ではワイヤー・トゥ・ボード系コネクタを中心に扱う。
選び方——「ハウジング×コンタクト×圧着工具」の3点セット
JSTのコネクタは、3つの部品・工具が揃って初めて機能する。この理解が抜けたまま発注すると、届いた箱を開けて「電線を圧着する端子が入っていない」と気づくことになる。
- ハウジング: コネクタの外郭にあたる樹脂ケース。極数(2極・3極・4極…)で型番が決まる(XHなら3極はXHP-3)。基板側には対になるベース付ポストを実装する
- コンタクト: 電線を圧着する金属端子。ハウジングに挿入して初めて機能する部品で、適用電線サイズ(AWG)と絶縁体外径が型番ごとに規定されている(XHのSXH-001T-P0.6はAWG#28〜#22)
- 圧着工具: コンタクトを電線に圧着する工具。XHのデータシートでは、SXH-001T-P0.6に圧着機AP-K2NとアプリケータMKS-L(ダイスセットAPLMK SXH001-06)を組み合わせると記載されている。JSTは「ご使用上の注意事項」で指定工具を使うよう求め、指定以外の工具での接続は接触不良・断線の原因になるとしている
ハウジングとコンタクトは別部品として販売されている、という点は特に見落とされやすい。ハウジングだけ発注してコンタクトを発注し忘れると、届いた部品では組み立てられない。既設設備の更新なら、現物の型番をそのまま踏襲するのが最も安全な手順になる。
もう一段深い理解——「似ている」と「同じ」は別物
なぜ0.04mmの差が問題になるのか
XHコネクタの公称ピッチが2.5mmだと聞いても、「2.54mmとどう違うのか、実務上は誤差の範囲では」と感じる方も多いだろう。だが、コネクタのピッチは基板のスルーホール位置と直接連動する寸法で、XHのデータシートは基板穴ピッチを2.5±0.05mm(累積しないこと)と規定している。2.54mmピッチの穴に当てはめると、1ピッチで0.04mm、10極(9ピッチ)では端から端まで0.36mmずれ、公差の±0.05mmを大きく超える。「似ているから互換」という発想が、最も裏切られやすい場面の一つだ。
純正品と互換品を混在させるリスク
市場には「JST互換」を謳う他社製ハウジング・コンタクトも流通している。見た目が同じでも、JSTは「ご使用上の注意事項」で、クロスユースなど自社の端子・コネクタ以外との組み合わせによる使用については責任を負いかねるとしている。片方だけ純正品、もう片方は互換品という組み合わせは、メーカーの性能保証の外になるということだ。既設設備の増設・更新では、現物と同一メーカー・型番で揃えるのが最も確実だ。
この感覚は圧着端子全般の選定にも通じる。電線サイズと端子サイズの適合関係は圧着端子の種類と選び方、絶縁被覆付端子の考え方はニチフ圧着端子完全ガイドにまとめている。
シリーズ別の型番早見表(2〜4極・JST日本語データシートより)
発注は「ハウジング+コンタクト(極数分)+基板側のポスト」の3種類の型番を並べます。表のハウジングとポストは、同じシリーズ・同じ極数で組み合わせます。
| シリーズ | ハウジング | コンタクト(適用電線) | 基板側ポスト(トップ型の例) |
|---|---|---|---|
| XH(2.5mm) | XHP-2/XHP-3/XHP-4 | SXH-001T-P0.6(AWG#28〜#22) SXH-002T-P0.6(AWG#30〜#26) SXH-001T-P0.6N(AWG#26〜#22、嵌合力を低く設定。振動の少ない場所向け) | B2B-XH-A/B3B-XH-A/B4B-XH-A |
| PH(2.0mm) | PHR-2/PHR-3/PHR-4 | SPH-002T-P0.5S(AWG#30〜#24) SPH-004T-P0.5S(AWG#32〜#28) SPH-002T-P0.5L(AWG#28〜#24) | B2B-PH-K-S/B3B-PH-K-S/B4B-PH-K-S |
| ZH(1.5mm) | ZHR-2/ZHR-3/ZHR-4 | SZH-002T-P0.5(AWG#28〜#26) SZH-003T-P0.5(AWG#32〜#28) | B2B-ZR/B3B-ZR/B4B-ZR |
| EH(2.5mm) | EHR-2/EHR-3/EHR-4 | SEH-001T-P0.6(AWG#30〜#22) 末尾Lの3種(SEH-001T-P0.6L・SEH-002T-P0.6L・SEH-003T-P0.6L)は嵌合力を低く設定した品で、振動の少ない場所向け | B2B-EH-A/B3B-EH-A/B4B-EH-A |
| VH(3.96mm) | VHR-2N/VHR-3N/VHR-4N | SVH-21T-P1.1(AWG#22〜#18) SVH-41T-P1.1(AWG#20〜#16) | B2P-VH/B3P-VH/B4P-VH |
※各データシートには、これより多い極数(XHは2〜16極と20極)や、側面型・表面実装型のポスト、ほかのコンタクトも載っています。表は2〜4極の代表だけです。 ※コンタクトは、使う電線が適用電線の範囲に入るものを選びます。たとえばVHの定格10Aは、データシートでAWG#16を使い、ベース付ポストが標準形の場合の値です。SVH-21T-P1.1の適用電線はAWG#22〜#18なので、10A近くを流す配線ではAWG#16に対応するSVH-41T-P1.1を選びます。ボックスタイプのポストでAWG#18を使う場合は7Aです。 ※同じ2.5mmピッチでも、XHのハウジングXHP-□とEHのハウジングEHR-□は別シリーズです。ポストもコンタクトも互いに使えないので、現物の型番の頭文字(XH、EHなど)を見て揃えます。
どこでどう使われているか
| 現場 | 使う製品 | ポイント |
|---|---|---|
| 制御盤内の信号配線 | XH・PHコネクタ | 極数と電線サイズを現物確認 |
| 電源・出力回路の配線 | VHコネクタ | 電流値に対してピッチ・AWGが十分か確認 |
| 小型機器・センサー配線 | ZHコネクタ | 定格1.0A(AWG#26使用時)・50V。指定工具で圧着 |
| 端子台・アース接続 | 圧着端子(丸型・棒型) | 制御盤ソリューション参照 |
どう注文するか——失敗しない発注のしかた
例:「XHP-3(ハウジング)50個と、SXH-001T-P0.6(コンタクト)150個」
「VHR-4N(ハウジング)20個と、SVH-21T-P1.1(コンタクト)80個。電線はAWG#18」
- ハウジングとコンタクトは必ずセットで発注する。コンタクトは「ハウジング数×極数」が必要
- シリーズ名を明記する(「JSTのコネクタ」だけでは特定できない)
- 既設設備の更新は現物の型番をそのまま手配するのが安全
- 型番がわかれば型番検索から見積リストへ追加できます
JST製品の購入・見積りについて
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)でお見積り・ご購入いただけます。
- Web: 見積フォーム(24時間受付)
よくある質問
「JSTコネクタ」という呼び方は、実は正確ではないと聞きました。本当ですか?
その通りです。JSTは社名であり単一の規格名ではないため、シリーズ名(XH・PHなど)と極数まで指定しないと型番が特定できません。
ハウジングだけ注文すれば、コネクタとして使えますか?
使えません。ハウジングとコンタクトは別部品で、電線をコンタクトに圧着してハウジングへ挿入して初めて完成します。コンタクトはハウジングの数×極数を手配します。
XHコネクタのピッチは2.5mmですか、2.54mmですか?
JST公式図面上の公称ピッチは2.5mmです。0.1インチ(2.54mm)のピンヘッダと混同されがちですが、0.04mm異なる別物です。
他社の「JST互換」コネクタを使っても問題ありませんか?
同一の嵌合ペア内での純正品と互換品の混在は避けてください。JSTは、自社の端子・コネクタ以外との組み合わせ(クロスユース)による使用には責任を負いかねるとしています。
JST製品はどこで購入できますか?
松本電業株式会社の見積フォームから見積を依頼できます。シリーズ名、ハウジングとコンタクトの型番、数量を添えてください。
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