外したセンサーヘッドの側面に、白いインクで「IL-S065」と刻印されている。予備品として棚に置いてあったのは「IL-065」。基準距離の欄を見比べると、どちらも65mm。ここまで一致しているなら、Sの有無は防塵仕様か何かの違いだろう、と当たりを付けて予備品を取り付けた。ところが実際に動かしてみると、ワークの反射面が測定範囲の端に近い位置で表示がふらつく。基準距離は確かに合っていたはずなのに、何が違ったのか。
キーエンスのCMOSレーザアプリセンサ「IL」シリーズは、色や材質の違いによる誤検知を抑える判別変位センサーとして、公式サイトで「色・材質の影響を受けない『安定検出』を実現」と説明されている製品群だ。型番を見ると、ヘッド側は「IL-030」「IL-065」「IL-S025」「IL-S065」のように3桁の数字とSの有無で分かれ、アンプ側は「IL-1000」「IL-1050」「IL-1500」「IL-1550」のように4桁の数字で分かれている。今回はキーエンス公式サイトの仕様表・個別型式ページという一次資料に沿って、この数字の並びが何を表しているのかを分解する。
ヘッドの数字が表しているのは、基準距離であって測定範囲ではない
型番の骨格を決めるのは「IL-」に続く数字だ。公式仕様表を見ると、S無しのヘッドは次の6種類が並んでいる。
| 型式 | 基準距離 | 測定距離 |
|---|---|---|
| IL-030 | 30mm | 20~45mm |
| IL-065 | 65mm | 55~105mm |
| IL-100 | 100mm | 75~130mm |
| IL-300 | 300mm | 160~450mm |
| IL-600 | 600mm | 200~1000mm |
| IL-2000 | 2000mm | 1000~3500mm |
030は基準距離30mm、065は65mm、2000は2000mm。数字がそのまま基準距離(センサヘッドから対象物までの標準的な設置距離)のミリ数になっている。ここまでは素直な規則だ。ラインナップも公式サイトの説明文どおり「20mm~3.5mまで」の範囲をカバーしており、実測してみても数字の一致は崩れない。
S付きヘッドが持ち込む、同じ数字・違う範囲
ところが、Sが付くヘッドの仕様表を並べると、この規則がきしみ始める。
| 型式 | 基準距離 | 測定距離 |
|---|---|---|
| IL-S025 | 25mm | 20~30mm |
| IL-S065 | 65mm | 55~75mm |
| IL-S100 | 100mm | 70~130mm |
IL-S065の基準距離は65mm。先ほどのIL-065とまったく同じ数字だ。だが測定距離を見ると、IL-065が55~105mm(幅50mm)なのに対し、IL-S065は55~75mm(幅20mm)しかない。冒頭で交換したヘッドがふらついたのは、まさにこの差のせいだったのだろう。IL-S065は測定できる範囲を狭く絞る代わりに、直線性の仕様(±0.05% of F.S.、基準距離65mmで使用時)をIL-065(±0.1% of F.S.、55〜75mmで使用時)より高くしたタイプで、同じ「065」という数字を、範囲の広い標準品と、範囲を絞った高精度品の両方が使っている状態になっている。IL-100とIL-S100の組み合わせでも、測定距離は75~130mmと70~130mmで、幅こそ近いものの完全には一致しない。型番の数字だけを頼りに、SのあるなしをNPN・PNPのような単純な派生違いとして扱うと、実際の測定範囲を取り違えることになる。
なぜ同じ数字を再利用したのか、公式資料には説明がない。ただ、あとで触れる互換性の脚注を見ると、IL-S025・IL-S065は「2010年12月21日以前に購入されたアンプユニットとはご使用になれません」、IL-S100は「2011年8月16日以前に購入されたアンプユニットとはご使用になれません」という、S無しのヘッドには付いていない期日付きの注記を持っている。S付きの系列があとから追加された経緯を示す痕跡だとすれば、既存の基準距離の数字をそのまま流用したというのは、型番の付け方としてはあり得る話だ。ここから先は推測の域を出ない。
数えてみると、S付き3型式(IL-S025・IL-S065・IL-S100)とS無し6型式(IL-030・IL-065・IL-100・IL-300・IL-600・IL-2000)を合わせてちょうど9型式になる。概要ページに「20mm~3.5mまでアプリケーションに応じて9つのヘッドをラインナップ」とある数と一致しており、仕様表に列挙されているヘッドが漏れなくこの9型式だということが、この一致からも確かめられる。
アンプユニットの4型式は、足し算で並んでいる
ヘッド側とは別に、信号を処理するアンプユニットにも型番の規則がある。公式仕様表に載っているのは次の4型式だ。
| 型式 | 種類 | 親機/子機 |
|---|---|---|
| IL-1000 | DINレール取付 | 親機 |
| IL-1050 | DINレール取付 | 子機 |
| IL-1500 | パネル取付 | 親機 |
| IL-1550 | パネル取付 | 子機 |
数字だけを並べてみる。1000から1500へは500増え、1000から1050へは50増える。1500から1550へも同じく50増える。DINレール取付からパネル取付に変わると500、親機から子機に変わると50。この2つの増分がそのまま組み合わさって、4つの型式が一枚の足し算の表に収まっている。ファイバーセンサーFS-Nのように末尾の記号で親機・子機を書き分ける方式とは違い、ILシリーズのアンプユニットは数字の大小そのものに役割の違いを埋め込んでいる。
子機(IL-1050・IL-1550)の個別仕様表を見ると、アナログ電圧出力の欄は「なし」、アナログ電流出力の欄は空欄、電源電圧の欄は「親機から供給」となっている。子機は出力も電源も親機に依存する構成で、多点計測のためにアンプを増設する場合、実測値をアナログ信号として直接取り出したい測定点には親機を割り当てる必要がある。ヘッド互換性の欄は親機・子機のいずれも「あり」と記載されており、この点はFS-Nの子機(出力線あり・なしで分かれる構成)とは異なる。
現場での注意点——ヘッド互換性「あり」は、無条件の互換ではない
ヘッドだけを交換して既存のアンプユニットを流用しようとするとき、見落としやすいのがこの互換性の期日だ。公式仕様表の脚注には次のように書かれている。
- IL-S025・IL-S065:「2010年12月21日以前に購入されたアンプユニットとはご使用になれません」
- IL-S100:「2011年8月16日以前に購入されたアンプユニットとはご使用になれません」
- IL-2000:「2012年8月8日以前にご購入されたアンプユニットとはご使用になれません」
仕様表の「ヘッド互換性:あり」という一行だけを見て、盤に残っている古いアンプユニットにそのまま新しいヘッドをつなげると考えるのは早計だ。特にS付きヘッドやIL-2000への更新を検討する設備では、アンプユニット側の購入時期まで遡って確認しておきたい。銘板だけでは購入日はわからないことが多く、納入時の書類か、キーエンス側での型番照会が確実な手段になる。
キーエンス製ILシリーズの型番確認・見積りについて
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、制御盤に残ったIL-065・IL-S065といったヘッド型番の識別から、組み合わせるアンプユニットの型式確認、購入時期にまつわる互換性の照会までのご相談を見積フォームで受け付けている。刻印が判読しづらい場合は、現物の写真を添えてもらえると照合が早い。
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