本記事の場面・会話・数値は、理解を助ける仮想事例です。実際の事故・取引実績を示すものではありません。製品の適合性は個別の仕様で確認してください。
定期点検のチェックリストに、こんな一項目がある。「安全カバーを開け、機械が停止することを確認する」。ごく当たり前の一文だ。当たり前すぎて、実際に扉を開けて確かめる前から、結果は分かっているような気がしてくる。配線図どおりに安全スイッチがつながっていて、盤面の運転ランプも正常。わざわざ手を止めて扉を開けるまでもない——そう思いたくなる気持ちは、点検する側にも、それを急かす側にもある。
ところが、ある工場の定期点検で、担当者は律儀にその一項目を飛ばさなかった。安全カバーを開ける。モーターは、回り続けた。
1.【現場のやらかし事例】配線は正しく見えた。扉を開けるまでは
盤の中を確認すると、安全ドアスイッチからの配線はきちんと端子台に収まっていた。断線もない。スイッチ本体も新しく、ぐらつきもない。電源を入れた状態で扉を閉めれば、盤面のランプは「正常」を示す。異常を疑う材料は、どこにも見当たらなかった。
疑わしかったのは、配線そのものではなく、配線の「行き先」だった。そのスイッチには、安全回路用のb接点(常時閉路)と、状態表示用のa接点(常時開路)の両方の端子が並んでいた。施工時、安全リレーへの結線は、本来b接点の端子に対して行うべきところを、a接点の端子に対して行っていた。扉を閉めればa接点も閉じ、扉を開ければa接点も開く。だから、電源投入時に扉が閉まっていれば、安全リレー側は「回路が閉じている=正常」という、b接点で配線した場合と見分けのつかない信号を受け取り続けていた。
新品のスイッチが正常に動いているうちは、この違いは表に出てこない。表に出るのは、接点が劣化し、あるいは溶着し、扉を開けても回路が開かなくなったときだ。今回はその手前、定期点検という形で、幸い実害の出る前に見つかった。
2. a接点とb接点——同じ「閉じている」でも、意味が違う
a接点(メイク接点、常時開路)は、ふだん電流が流れておらず、操作したときに初めて電流が流れる接点だ。b接点(ブレイク接点、常時閉路)は逆に、ふだん電流が流れ続けており、操作したときに電流が止まる接点だ。「A接点とB接点の仕組みと、安全を支える使い分けの極意」が防犯センサーを例に説明するとおり、窓が閉まっている間は磁石の力で接点が閉じ、監視盤に微弱な電流が流れ続けるという設計であれば、配線が切れた瞬間にも電流が止まり、異常として検知できる。この「ふだん流れている電流が、止まったら異常」という設計思想が、フェールセーフと呼ばれる考え方の核だ。
安全ドアのインターロックにこの発想を当てはめると、原則は自然に決まる。扉が閉まっている間は電流を流し続け、扉が開く・配線が切れる・スイッチが外れるといった、およそ考えつく限りの異常はすべて「電流が止まる」という一つの結果に収束させる。原因の種類を問わず、結果は必ず停止側に倒れる。これがb接点を使う理由であり、FA・電気制御の技術ノートが「非常停止がb接点である絶対的理由」として整理している論理でもある。
a接点にも役割がないわけではない。扉が開いていることをPLCへ知らせる状態表示、稼働状況を記録するための監視入力など、止めるためではなく知らせるための信号としてはa接点が普通に使われる。問題は、この「知らせるための接点」と「止めるための接点」を、盤の配線段階で取り違えてしまったときに起きる。
3. なぜ「壊れているのに正常に見える」のか
厄介なのは、取り違えていても、扉の開閉に応じてa接点はきちんと開閉するという事実だ。新品のうちは、扉を閉めれば閉じ、開ければ開く。b接点で配線した場合と、外から見た動きはほとんど区別がつかない。違いが表面化するのは、接点そのものが壊れたときに限られる。
オムロン制御機器が公開しているガードインターロックスイッチの故障モード比較は、この違いを具体的に示している。スイッチ内部のばねの力だけで接点を開路する方式(非直接機械作動)でNO接点(a接点)を安全回路に使った場合、接点が溶着すると「ガードが開いても接点は閉路のまま」という復帰不良が起こりうるとされている。溶着とは、開閉を繰り返すうちに生じるアーク熱などで接点同士がくっついてしまう故障で、ひとたび起きればばねの力だけでは引きはがせない。つまり、扉を開けてアクチュエータが動いても、接点自体が物理的に閉じたままになる。
これに対して、カムなどの外部操作体が接点を直接動かす方式(直接機械作動・ポジティブモード)でNC接点(b接点)を使い、これに直接開路動作機構を組み合わせた場合は、接点が溶着してもアクチュエータの動き自体が接点を強制的に引きはがす構造になっている。IEC 60947-5-1が定めるDirect Opening Actionは、まさにこの「溶着していても、規定の操作力・操作距離でアクチュエータを動かせば接点が開く」という機構を指し、開いた後の接点間隙間には規定の絶縁性能まで求められる。JIS B 9710(ISO 14119の対応JIS)でも、直接開路動作はばね等の弾性に頼らず、アクチュエータの規定動作そのものによって接点を引きはがす動作として位置づけられ、機械的に作動するタイプ1・タイプ2のインターロック装置に求められる要件とされている。
配線の取り違えが本当に恐ろしいのは、この構造上の弱点と重なったときだ。安全回路としてb接点・直接開路動作の端子を使うべきところをa接点側に配線してしまうと、たとえスイッチ本体が直接開路動作機構を備えていても、その機構が守っているはずの経路そのものから外れてしまう。壊れて初めて姿を現す誤配線、というのはこういう意味だ。
4. セーフティリレーの自己診断は、どこまで見えているのか
ここまで読むと、セーフティリレーユニットの自己診断機能があれば安心できるのではないか、と思えてくる。実際、セーフティリレーには強制ガイド接点機構という仕組みがあり、内部のa接点が溶着すればb接点側に0.5mm以上の隙間が機械的に強制されるため、ユニット自身の接点溶着は外部の監視回路から検出できる(オムロン制御機器「セーフティリレー 共通の注意事項」)。
しかし、これが監視しているのはセーフティリレー「自身」の内部の話だ。リレーの外側、盤の配線として安全ドアスイッチのどちらの接点に結線したかという部分までは、この機構の対象に入らない。
もう一つの防御線であるデュアル入力(2系統構成)にも、同じ限界がある。FA・電気制御の技術ノートが解説するとおり、入力を2系統にする目的は、片方の接点だけが溶着するといった「系統間のズレ」を検出することにある。ところが、安全ドアスイッチの2系統がどちらも一貫してa接点側の端子に配線されていたとしたら、2系統の信号は正常時も、そして接点が溶着したときも、揃って同じように動く。ズレが生じないのだから、ズレを見抜くための仕組みは働きようがない。セーフティリレーが賢くなるほど検出できる故障は増えるが、「上流の配線そのものが違う接点につながっている」という誤りは、その賢さの外側にある。
5. 現場で見分けるための具体的な手がかり
配線図の読み違えは、端子番号の意味を知らないまま作業すると起きやすい。富士電機機器制御のFAQによれば、電磁接触器・補助接点の端子番号には慣習があり、a接点は下一桁が3・4(例:13、14)、b接点は下一桁が1・2(例:21、22)という数字が割り当てられる。安全ドアスイッチでも同様の考え方で端子が区別されている製品が多く、配線図の端子番号とスイッチ本体の刻印を照合するだけで、取り違えの多くは事前に防げる。
そのうえで欠かせないのが、電源投入後の通常運転確認だけで終わらせないことだ。扉を閉めた状態で「動くこと」を確認するテストは、a接点で配線されていても、b接点で配線されていても同じ結果になる。違いが表れるのは、実際に扉を開けたときだけだ。新設時・改修時には、盤面のランプやPLCの入力表示だけで判断せず、実際に安全カバーを開けて機械が停止することを目視で確認する試験を、面倒でも省略しないことが最後の砦になる。
スイッチ選定の段階でも打てる手はある。ガードインターロックスイッチとしてカム操作式・ヒンジ式のスイッチを使う場合は、直接開路動作機構付きのNC接点を持つ製品を選び、その接点を安全回路側に結線する。ISO 14119は、こうしたインターロック装置の設計・選択に関する原則を定め、あわせて「合理的に予見可能な方法による無効化を防止する」ことも求めている。IDECやオムロンをはじめ各社が、ソレノイド付・非接触式など用途に応じた安全スイッチのラインアップを揃えているのは、扉の大きさやアクセス頻度、要求される安全カテゴリに応じて、こうした構造上の選択肢を現場に用意するためだ。
6. そもそも「開けたら止める」だけで足りるのか——施錠付きインターロックという選択肢
ここまでは、扉を開けたら回路が開き、機械が止まるという前提で話を進めてきた。だが、この前提自体が、すべての設備で十分とは限らない。
オムロン制御機器のガードインターロックスイッチに関する解説は、選定のポイントとして「停止時間とアクセス時間に関する考慮事項」を挙げている。人が扉を開けてから危険源に到達するまでにかかる時間よりも、機械が指令を受けてから完全に止まるまでにかかる時間のほうが長い設備では、扉が開いた瞬間に停止指令を出しても間に合わない。慣性で回り続ける刃物や、惰性で動き続けるアームに、扉を開けた人の手が先に届いてしまう。この場合に使うのが、施錠付きインターロック装置だ。ガードが閉じてロックされるまで機械は動作できず、危険が取り除かれるまでガードはロックされたままになるという構成にすることで、「止まるまでの時間」を扉の外側で稼ぐ。
配線の接点種別を正しく選ぶことと、そもそもその設備に施錠が要るかどうかを見極めることは、別の軸の話だ。しかし根っこは同じで、どちらも「動作確認では見えない、機械が壊れた・止まらなかったときに何が起きるか」を先回りして潰しておく発想である。安全ドアスイッチの選定を、単なる部品の型番選びとしてではなく、この二つの軸で見直す価値はある。
安全スイッチ・セーフティリレーの選定・見積りは「電材サーチ」へ
「新設した安全カバーのインターロックが、配線図どおりになっているか確認してほしい」「既設のドアスイッチを、直接開路動作機構付きの製品に更新したい」「セーフティリレーとあわせて、安全カテゴリの要件に合う型式を選びたい」——こうしたご相談を承っています。
電材サーチでは、オムロン・IDECをはじめ各社の安全スイッチ・セーフティリレーを取り扱っており、設置する扉の形状や必要な安全カテゴリをお伝えいただければ、選定のご相談から見積もりまで対応いたします。
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