制御盤の定期点検で、非常停止ボタンの動作確認をしていた担当者から相談を受けたことがある。ボタンを押すと、確かにモータは止まる。回路図を見ても、非常停止ボタンの信号が中継用のリレーを一つ経由し、そこからモータの電磁接触器を落とす、ごく普通の構成だった。問題は、その中継リレーの型式である。コイルの入り切りだけを目的に設計された、他の制御信号にも使われているのと同じ、汎用の小形リレーだった。動作確認をすれば、ちゃんと止まる。それでも、この部品を非常停止回路に使い続けていいのか、担当者は判断がつかなかったという。
普通に考えれば、リレーはリレーである。コイルに電流を流せば接点が切り替わり、切ればまた元に戻る。動作確認で止まるなら、それで十分ではないか——そう思いたくなる。だが、この「見えている動作」と「保証されている動作」の間には、実は大きな隔たりがある。動作確認が確かめているのは、部品が正常なときの挙動でしかない。非常停止回路の設計で本当に問われているのは、その部品が壊れたとき、どちら側に転ぶかという一点だ。
壊れないボタンなど、どこにもない
汎用リレーには、接点が離れずにくっついたままになる「溶着」という故障モードがある。日経クロステックの解説が示す通り、接点が溶着した状態では、コイルへの通電を切っても電流は流れ続け、非常停止ボタンを押しても機械は止まらない。しかも厄介なのは、溶着が起きるまでは動作確認をいくら繰り返しても異常が見つからないという点だ。故障は、まさに非常停止が必要になったその瞬間に初めて表面化する。
ここに、非常停止回路に求められる特性の核心がある。単一の部品が故障しても、その故障が安全側に働かなければならない。しかも、その故障を検出できなければならない。汎用リレーはこの二つの要求のどちらも満たすようには設計されていない。壊れないボタンを探すのではなく、壊れたことが分かる部品を選ぶ、という発想の転換が要る。
強制ガイド接点という、もう一つの目
セーフティリレーが汎用リレーと決定的に違うのは、この「壊れたことが分かる」という一点だ。オムロン制御機器の技術資料によれば、セーフティリレーは強制ガイド接点機構という構造を持ち、a接点が溶着した場合には、b接点側に0.5mm以上の隙間が機械的に強制的に確保される。逆にb接点が溶着すれば、a接点側に同じだけの隙間ができる。片方の接点が万一くっついても、もう片方の接点はその溶着を裏切って開いたままになる、という構造だ。
この仕組みが効くのは、監視側の回路がこの隙間を見ているからである。強制ガイド接点は、単に信頼性の高いリレーというだけではない。故障した状態を、外部の監視回路へ「報告する」ための構造だと考えたほうが実情に近い。電気エンジニアのツボの解説が整理する通り、汎用リレーではa接点とb接点が機構上つながっており、溶着時に両方が同時にONになる余地が残る。この違いが、非常停止という「壊れたときこそ止まってほしい」回路に、なぜ専用設計の部品が要るのかを説明している。
カテゴリという「構造」の物差し
ここまでは一つのリレーの話だった。だが非常停止回路は、ボタンからリレー、出力接点まで含めた一つのシステムである。システム全体の安全性をどう評価するか、という段になって出てくるのがISO 13849-1の「カテゴリ」という考え方だ。
JQAの解説によれば、カテゴリはB・1・2・3・4の5段階で、数字が大きくなるほど構造上の耐故障性が高くなる。カテゴリBは基本的な設計原則に基づく単純な構造、カテゴリ1は高品質な部品を使って故障そのものを起きにくくする構造とされる。カテゴリ2になると故障監視機能が加わり、定期的なテストによって安全機能の喪失を検出できるようになる。そしてカテゴリ3では、入力部・論理部・出力部がそれぞれ2系統ずつ用意され、片方に故障が起きても他方が安全機能を保ち続ける構成になる(FA・ロボット業界の片隅からの解説)。カテゴリ4はこれをさらに徹底し、どのような単一故障が起きても安全機能が失われないことに加え、故障の蓄積すら検出できることが求められる。
数字が並ぶと序列のように見えるが、実務で効いてくるのは「その構造で、どこまでのパフォーマンスレベルが達成できるか」という上限の話だ。
パフォーマンスレベル(PL)という「性能」の物差し
カテゴリが構造の話だとすれば、パフォーマンスレベル(PL)は性能の話である。キーエンスの解説によれば、PLは単位時間あたりの危険側故障発生確率(PFHD)によってPLa〜PLeの5段階に区分される。PLaは10⁻⁵以上10⁻⁴未満、PLeは10⁻⁸以上10⁻⁷未満というように、アルファベットが進むほど故障確率の許容値は桁で下がっていく。
この二つの物差しはつながっている。オムロン制御機器の解説では、カテゴリ1で到達できる最大のPLはcまで、カテゴリ2ではdまで、カテゴリ4であればeまで到達できるとされる。つまり、どれだけ高性能な部品を使っても、カテゴリという構造そのものが古ければ、到達できるPLには天井がある。逆に言えば、PLeが必要な非常停止回路には、カテゴリ4相当の構造を持つセーフティリレーでなければ原理的に対応できない。オムロンのG9SAセーフティ・リレーユニットがEN ISO13849-1のPLe・カテゴリ4認証を取得しているのは、この天井に届く構造を最初から備えているからだ。
では、どのカテゴリ・PLが「必要」なのか
ここまでの話は、あくまで達成可能な上限の話でしかない。実際にどこまでのカテゴリ・PLが必要かは、機械ごとのリスクアセスメントから逆算するものであり、規格の側からは決まらない。
キーエンスが解説するリスクグラフの考え方では、危害のひどさ(S)・危険源への暴露頻度(F)・危険の回避可能性(P)という3つの要素を組み合わせて、要求パフォーマンスレベル(PLr)を導く。重傷の可能性があり(S2)、暴露はまれで(F1)、回避は可能(P1)という条件の組み合わせなら、PLrはcと評価される、というのが同解説の示す一例だ。そしてオムロンの解説が明記する通り、実際に設計した安全関連部の評価結果であるPLは、このPLr以上でなければならない。PLrに届かないPLの部品を使うことは、規格上も許容されない。
この判断を電材の選定担当者だけで完結させるのは、正直なところ現実的ではない。危害の重大性や暴露頻度は、機械の設置環境や作業手順にまで踏み込んだ評価が必要で、機械メーカーや安全機器メーカーとの共同作業になることが多い。
セーフティリレーの中で起きていること
必要なカテゴリ・PLが決まったとして、その内部でセーフティリレーが具体的に何をしているのかを見ておきたい。
FA・電気制御の技術ノートの解説によれば、セーフティリレーユニットの内部では二つのリレーが並列的に二重化されており、片方が溶着してももう片方が遮断できる構成になっている。同記事はこの冗長化によって、単一リレーでは千分の一程度だった故障確率が、二重化によって百万分の一程度まで下がるという理解のしやすい例えを示している。数字そのものよりも、ここで見ておきたいのは仕組みの方だ。二つの回路は互いを監視し合っており、どちらか一方に異常が検出されると、リセットボタンを押しても再起動を許可しない強制ロックがかかる。壊れたことを検出したら、黙って動き続けるのではなく、積極的に止まったまま動かなくする——この「検出したら固める」という挙動こそが、フェイルセーフという考え方の実装だ。
セーフティリレーを入れれば終わり、ではない
ここまで読むと、認証を取得したセーフティリレーユニットさえ導入すれば、非常停止回路の安全性は自動的に確保されるように思えるかもしれない。だが、そう単純ではない。
FA・電気制御の技術ノートが挙げる選定・配線の落とし穴には、身に覚えのある話が並ぶ。一つは、セーフティリレーユニット本来のテスト出力端子(T11・Y1・S11など)を使わず、ライトカーテンのように単純に24Vへ直結してしまう配線だ。これをやると、配線が断線や短絡を起こしても検出する仕組みそのものが働かなくなる。二つめは、二重化された信号線があれば安心だという思い込みだ。もし絶縁が劣化して二本の線が互いに短絡すると、外部から直接24Vを入れている構成では、それを正常な状態と誤認してしまう。三つめは、リセット方式の選び違いだ。作業者が機械の内部に入り込める設備で自動復帰(オートリセット)を選んでしまうと、扉が閉まった瞬間に機械が再起動し、中にいた作業者を挟み込む事故につながりかねない。人が意図的にボタンを押す手動リセットが必須になる場面はここだ。四つめは、出力先の監視漏れである。セーフティリレー自体が正しく動作しても、その先の電磁接触器の主接点が溶着していれば、機械は止まらない。ミラー接点によるフィードバック監視まで含めて、初めて一つの安全回路として完結する。
セーフティリレーは、非常停止回路という大きな仕組みの中の一部品にすぎない。部品の認証と、その部品を含めたシステム全体の評価は、別の話だ。
冒頭の点検に、答えを出すなら
冒頭の担当者が見つけた汎用リレーは、動作確認では合格していた。しかし、壊れ方まで含めて評価すれば、答えは変わる。溶着という故障モードを検出できず、外部からその異常を報告する手段も持たない部品は、たとえ今日まで一度も故障していなくても、非常停止回路の要求を満たしているとは言えない。必要なのは、より高性能なリレーへの単純な置き換えではなく、そのリレーがどのカテゴリ・PLの構造で作られ、設備側が求めるPLrを満たしているかという評価だ。その評価がまだ済んでいないなら、まず着手すべきはそこにある。
非常停止回路の見直しやセーフティリレーの選定でお困りの際は、現行の回路図や設備の使用条件をお知らせいただければ、対応可能な型式の照合を承ります。
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