蛍光灯からLEDに替えたその日から、なぜか目の奥が重い。定時になると頭の芯がぼんやりする。器具は新品に替わったばかりで、照度計で測れば以前より明るいくらいだ。それなのに、疲れの質だけが変わった気がする——この違和感を口にすると、たいてい「気のせいでは」と流されて終わる。
流されて終わらせる前に、もう一つ手掛かりがある。その照明の下でスマートフォンを構えてみてほしい。画面の中に、肉眼では見えなかったはずの横縞や明暗のムラが浮かぶことがある。同じ光源、同じ部屋、同じ人間の目には何も起きていないのに、レンズの向こうでは何かが規則正しく点滅している。
その正体が、この記事で扱うフリッカーである。
フリッカーの正体——LEDは実は「点滅」している
LED照明は、見た目には連続して光っているように見える。だが実際には、多くの製品が「ダイナミック点灯(パルス点灯)」という方式を採っており、内部のLEDチップを一定の周波数で高速にオン・オフさせることで明るさを作り出している(大塚商会)。常時通電し続ける「スタティック点灯」であれば原則としてフリッカーは発生しないが、消費電力や調光の都合から、ダイナミック点灯を採用する製品が少なくない。
この点滅が生まれる背景には、LEDが直流でしか光らないという単純な事実がある。日本の家庭・オフィスに供給される電源は交流(東日本50Hz・西日本60Hz)であり、LEDを光らせるには、器具の中で交流を直流に変換する回路——整流回路と平滑回路——を経由させる必要がある。整流回路が交流の波を直流寄りの脈動に変え、平滑回路(多くはコンデンサ)がその脈動をならして安定させる。この平滑が十分でないと、電源由来のリップル(波打ち)がそのまま光の明滅として残る。さらに、調光機能を持つ製品では、直流電流そのものをPWM(Pulse Width Modulation)方式でオン・オフし、その比率で明るさを制御している場合が多い(BRIGHT)。つまりフリッカーは、事故でも故障でもなく、LEDが電気的に光る仕組みそのものに組み込まれた現象なのだ。
問題は、その点滅の速さである。大塚商会の技術解説によれば、点滅の周波数がおよそ100Hz以上であれば人間の目では感知できないとされる一方、50Hz以下になるとちらつきとして認識され始め、40Hz程度になれば明らかな点滅として感じられるという。日本の商用電源は東日本で50Hz、西日本で60Hzだが、整流回路を通ると多くの場合その2倍の周波数(100Hz・120Hz)の脈動になる。ちょうど「見える」と「見えない」の境界線上に、日本の電源事情が乗っているとも言える。
では、100Hzを超えていれば安心なのか——ここに落とし穴がある
肉眼で感知できない周波数まで上げてしまえば、フリッカーの問題は解決したように思える。実際、多くの製品は「見た目にはちらつかない」水準まで周波数を上げている。
ところが、BRIGHTの技術解説はここに留保を付けている。100Hzを超える不可視フリッカーであっても、長時間の曝露は頭痛や眼精疲労、撮影時の不具合として現れることがあるというのだ。「見えないからといって影響がないわけではない」という一文は、そのまま読めば当たり前のようでいて、実務上はかなり重い意味を持つ。なぜなら、器具を選ぶ側も使う側も、「点滅が見えない=問題なし」という判断基準で選定してしまいがちだからだ。
この視点は、業界の外にも存在する。米国電気電子学会(IEEE)は2015年、LED電流の変調周波数・変調度と健康リスクの関係を扱う推奨規格「IEEE 1789-2015」を発行している。国が定めた強制規格ではなく、あくまで推奨実践のガイドラインという位置づりだが、「見えない点滅」がわざわざ国際標準化団体の検討対象になっているという事実そのものが、この現象が単なる都市伝説ではないことを裏付けている。
眼精疲労や頭痛の原因は、姿勢、画面の見過ぎ、乾燥、老眼など無数にある。フリッカーだけが犯人だと決めつけるのは早計だ。だが、器具を蛍光灯からLEDに更新したタイミングと不調の変化が重なっているなら、点灯方式という新しい変数を疑ってみる価値は十分にある。
フリッカー率という物差し——SVM値というものがある
フリッカーの度合いを数値で語ろうとすると、業界ではSVM値(Stroboscopic Visibility Measure、ストロボ視認性指標)などの指標が使われることがある。BRIGHTの解説では、SVM値1以下が一つの目安とされているという。数値が低いほど、明滅のムラが小さく、目にもカメラにも優しい光になる計算だ。
ただし、この数値がすべての製品カタログに載っているわけではない。フリッカー値やFlicker Indexという名称で仕様書に記載しているメーカーもあれば、そもそも公表していない製品も多い。選定の場面で「フリッカー対策済み」という言葉だけを鵜呑みにせず、可能であれば具体的な数値、あるいは測定条件を確認する姿勢が要る。
調光器との相性——「調光器対応LED」でもちらつく理由
ここまでは器具単体の話だったが、現場のトラブルの多くは組み合わせで発生する。典型が調光器だ。
「調光器対応LED電球」と表示された製品を、既設の調光器にそのまま取り付けてちらついた、という相談は珍しくない。@DIMEの解説によれば、この不具合の多くは、調光器がLED専用ではなく、白熱電球向けの位相制御方式であることに起因する。パナソニックの説明によれば、位相制御方式とは交流電源の波形の一部をカットすることで電力を制御し、明るさを調整する方式で、白熱灯や一部のLED照明に対応している。照明器具への電源電流を直接制御するため電圧変動の影響を受けやすい反面、専用の信号線を別に引く必要がなく施工性に優れる、という位置づけだ。白熱電球はフィラメントの発熱量が電流に単純比例するため、この波形の欠けをそのまま明るさの変化として受け取れる。
だがLEDは違う。内部に整流・平滑・場合によってはPWM制御回路まで抱えた、いわば小さな電子機器だ。電源波形が途中で欠けた歪んだ状態で入力されると、その回路が正しく安定動作できず、明るさの変化が階段状になったり、絞り込んだ領域でちらついたりする。@DIMEは、明るさをあまり絞り込まなければちらつきを避けられる場合が多いとしつつ、調光を本格的に使いたいならLED専用調光器へ切り替え、光源と調光器のメーカーを揃えることを勧めている。「揃える」というのが、やや消極的な解決策に見えるかもしれない。だが位相制御とPWM制御という発光原理そのものの違いを踏まえれば、これは妥協ではなく、原理に沿った対策だと理解しておいたほうがいい。
調光器側の選択肢としては、逆位相制御という方式もある。パナソニックによれば、位相制御が電源波形の前半をカットするのに対し、逆位相制御は後半をカットする方式で、ノイズが少なくLED照明に適するとされる。同社の別のFAQは、両者は調光ONとOFFのタイミングが異なり、逆位相制御は調光OFFのタイミングを変えることで、照明のちらつきやうなり音などの原因となるノイズが発生しないと説明している。既設の調光器が白熱灯用の位相制御であれば、LED対応の逆位相タイプへの交換が選択肢に入る。ただし対応する負荷の種類・容量は器具ごとに決まっているため、調光器と光源の組み合わせはメーカーの適合表で確認するのが前提だ。
インバータとの相性——工場・ビルで起きる、もう一つのちらつき
家庭の調光器とは別に、工場やビルの現場では、モーターの可変速制御に使われるインバータが絡んだちらつきの相談が出てくる。インバータは内部で高周波のスイッチングを行うため、電磁ノイズを伝導経路・輻射経路の両方から周辺機器へ及ぼすことが、日立産機システムやJEMA(日本電機工業会)の技術資料でも扱われている一般的な現象だ。
LED照明自体も、内部にPWM変調回路を抱えている。つまり、ノイズを受け取る側にも、場合によっては発生させる側にも、共に高周波回路を持っているという点で相性が良くない組み合わせなのだ。複数の照明器具から同時にちらつきや異音が発生する場合、原因が個々の器具ではなく、電源系統に乗ったノイズであることがある。この場合の対策として挙げられるのが、回路分け——同じインバータ機器と照明を同一系統に混在させず、電源の位相や分岐を見直すことだ。器具を1台ずつ交換しても改善しないちらつきは、器具ではなく配線・系統側を疑う必要がある。
撮影用途・放送用途では、フリッカー対策がすでに商品力になっている
不可視フリッカーの影響が最も分かりやすく可視化される現場が、放送・撮影用途だ。カメラのシャッターは、人間の目とは違う仕組みで光を捉える。ソニーのサポート解説によれば、シャッターの走行と光源の点滅周期がずれると、画像の一部または全体に色ムラや横縞が記録される。肉眼では気づけない点滅が、レンズを通した瞬間に姿を現す。
この現象は業務用照明メーカーにとって無視できない課題になっている。パナソニックの舞台・エンターテインメント向けLEDフラッドライトは、放送・撮影を前提とした施設向けに、フリッカーレス設計を明確な製品特長として掲げている。裏を返せば、フリッカー対策は「あれば嬉しいオプション」ではなく、放送用途では選定基準そのものになっているということだ。オフィスや工場の照明にそこまでの水準を求める必要は必ずしもないが、「フリッカー対策済み」を謳う製品がどのレベルの用途を想定して設計されたものかを見極める目安にはなる。
現場でのチェック方法——スマートフォンのカメラを使う
正式なフリッカー測定には専用の測定器が必要だが、現場で「疑いを持つ」だけなら、手元のスマートフォンで十分だ。照明にカメラを向け、画面越しに横縞や明暗のムラが見えるかを確認する。LED光源の多くは数百Hz〜数kHzの間隔で明滅しており、カメラのシャッターがその周期と同期しないと、この縞模様として記録される(ソニー)。
ここで一つ注意しておきたいのは、この方法はあくまで簡易的なスクリーニングだという点だ。縞模様が映らなかったからといって、フリッカーが完全にゼロだと証明されたわけではない。逆に映ったとしても、それが人体に影響する水準かどうかは別の話だ。だが、「何も感じない」だけで済ませていた違和感に、初めて具体的な形を与えられるという意味では、現場調査の最初の一歩として十分に機能する。縞模様が明確に出るようであれば、その先はメーカーのフリッカー値の公表状況や、対策済み器具への更新を検討する段階に進めばいい。
選定基準としてまとめておく
ここまでの話を、実際に器具を選ぶときの判断材料として整理しておく。
- 点灯方式を確認する——ダイナミック点灯かスタティック点灯か。仕様書に明記されていない場合はメーカーに問い合わせる。
- フリッカー値・SVM値の公表有無を確認する——数値が公表されていれば、SVM値1以下を一つの目安にする(BRIGHT)。
- 調光する場合は調光器の方式を確認する——位相制御方式の既設調光器にLEDを後付けするなら、LED専用調光器への交換、あるいは光源・調光器のメーカーを揃えることを検討する。
- インバータ機器と同一系統に載せない——工場・ビル設備では、モーター用インバータなど高周波スイッチング機器と照明の電源系統を分けることを検討する。
- 撮影・放送用途では明確にフリッカー対策を謳う製品を選ぶ——パナソニックのフラッドライトのように、放送用途を想定した設計がなされている製品群がある。
いずれも「絶対にこの数値でなければならない」という単一の正解があるわけではない。用途によって許容水準は変わる。だが、選定の物差しを持たずに「見た目にちらつかないから大丈夫」で終わらせている限り、不可視フリッカーの問題はそのまま放置され続ける。
見積もり・製品選定の相談は、下記からお気軽にどうぞ。
あわせて読みたい
- 蛍光灯・水銀灯からLEDへの切り替えガイド|工場・倉庫照明の更新ポイント
- 【現場のやらかし】スマートスイッチ(IoT照明)の交換リフォームで大誤算!壁裏に「中性線(ニュートラル)」がなくて動かない落とし穴
- LED防犯灯・センサーライトの選び方ガイド
関連するLED照明・フリッカー・ちらつき・原因・対策の品種・型番をお探しですか?
電材サーチでは、メーカー横断で目的の型番を素早く見つけ、そのまま見積もりを依頼できます。