冒頭の場面・会話は、内容の理解を助けるための例示です。特定の現場・企業・案件を指すものではありません。
制御盤の更新案件で、外した古いユニットには「S-N20」、これから入れる新品には「MSO-T21」と書いてある——そんな場面に出くわすことがある。同じ三菱電機の、同じモーター開閉用の機器なのだから、型式の読み方もそのまま延長線上にあるだろうと考えるのは、それほど不自然ではない。実際、フレーム番号が容量帯のランクを表すという骨格そのものは、旧世代のS-Nシリーズから現行のS-T・MS-T・MSO-Tシリーズへ、確かに引き継がれている。
ただし、そのフレーム番号がこれまで一人で背負っていた仕事のうち、一つがどこかへ移されている。三菱電機の現行カタログを読み進めると、型式の文字列は前より整理されて見えるのに、その整理の裏で「型式だけを見ても分からなくなったこと」が一つ増えているのに気づく。
「MSO」「MS」「S」——同じフレーム番号が指す3つの違う製品
分解の起点は、フレーム番号の前に付く基本形式の文字だ。三菱電機のMS-Tシリーズカタログの仕様一覧表は、T10からT32までの各フレームについて、電磁接触器(サーマルリレーなし、開放形)をS-T10・S-T12・S-T20・S-T21・S-T25・S-T32、開放形電磁開閉器(標準形2素子付サーマルリレー付)をMSO-T10・MSO-T12・MSO-T20・MSO-T21・MSO-T25、箱入電磁開閉器をMS-T10・MS-T12・MS-T21として並べている。同じ「T21」というフレーム番号が、Sなら主接点の開閉だけを行う電磁接触器単体を、MSOならTH-T18形サーマルリレーを組み合わせて過負荷保護まで持たせた開放形の電磁開閉器を、MSなら同じ組み合わせを外箱に収めたものを指す。S-T21だけを発注しても、それはまだ過負荷保護機能を持たない部品でしかない。
可逆・非可逆の分岐点はS-Nシリーズと同じ位置にある。非可逆式はS-T20のようにフレーム番号が基本形式の直後に続くだけだが、可逆式になるとS-2×T20のように「2×」がSとフレーム番号の間に挟まる。モーターの正転・逆転を切り替えるために電磁接触器が2個1組で内蔵される、という構造を示す記号で、この点はS-Nシリーズから変わっていない。
フレーム番号は生きている。ただし、運ぶ荷物が減った
仕様一覧表を上から順に読むと、T10=2.2kW/11A、T12=2.7kW/13A、T20=3.7kW/18A、T21=4kW/18(20)A、T25=5.5kW/26A、T32=7.5kW/32Aという容量帯が並ぶ。括弧書きの20Aが電磁接触器単体としての適用値に限られる、という注記の付け方は、姉妹記事で扱ったS-N20のときとまったく同じ発想だ。同じ会社が同じ注記のスタイルを世代をまたいで使い続けている、という事実として押さえておけば十分だろう。
この記事で掘り下げたいのは、そこではない。同じ仕様一覧表には、標準の補助接点構成という別の行がある。読んでいくと、T10は1a、T12は1a1b、T20も1a1b、T21は2a2b、T25も2a2bとなっている。T12とT20は容量帯が違う(2.7kWと3.7kW)のに、標準の補助接点構成はどちらも1a1bで同じだ。T21とT25の間にも同じことが起きている。
S-Nシリーズの姉妹記事で見た話を覚えている読者なら、ここで違和感を持つはずだ。あちらでは、容量帯が同じS-N11とS-N12を、補助接点数の違い(1個と2個)によってフレーム番号そのものを使い分けていた。フレーム番号は容量帯と補助接点数を同時に運ぶ、いわば二役の記号だった。ところが現行のT世代では、容量帯が違ってもフレーム番号だけを見ては補助接点構成を当てられず、逆に容量帯が違うのに補助接点構成が同じという組み合わせまで出てくる。フレーム番号は、もう補助接点数の運び手ではなくなっている。
補助接点は、型式から下りて注文書に乗った
では補助接点の情報はどこに行ったのか。同じ仕様一覧表には「標準付属」の下に「特殊付属」という行があり、T10なら1b、T12・T20なら2aという、標準とは異なる補助接点構成が並んでいる。そしてその脇には「接点構成が特殊の場合にはご指定ください」という注記が添えられている。つまり、標準以外の補助接点構成が欲しい場合、型式そのものを別のフレーム番号に切り替えるのではなく、S-T12という同じ型式のまま、注文時に「特殊付属:2a」という指定を別途添えることで対応する仕組みになっている。
これがS-Nシリーズとの決定的な違いだ。旧世代では「もう1組、補助接点が欲しい」という要求が、S-N11からS-N12への型式変更として表れた。現行のT世代では、同じ要求はS-T12という型式を変えずに、注文書の別項目として処理される。型式の文字列を見るだけでは、それが標準の1a1bなのか特殊指定の2aなのかを判別できない、という不便が生まれた代わりに、容量帯ごとのフレームの種類は、補助接点数の掛け合わせ分だけ増えずに済むようになった。
なぜ切り離したのか
三菱電機がこの設計変更の理由をそのまま説明した資料は見当たらない。ただし、同じカタログの随所に、この切り離しと符合する動きが見つかる。操作コイル定格は「旧シリーズでは14種類あった」ものを7種類まで半減させたと明記されており、10Aフレームの横幅も「業界最小」をうたうかたちで縮められている。型式の枝分かれを減らし、共通化できる部分は徹底して共通化する——そうした設計方針の一環として、補助接点構成という枝分かれも、フレーム番号の外に出されたのではないか、というのが一つの見立てになる。確証のある一次資料までは確認できていないので、ここは推測の域を出ない。
消えた「CX」、現れた「BC」
型式の末尾に付く記号にも、世代をまたいだ入れ替わりがある。S-Nシリーズでは「CX」がCAN端子(指等が触れにくい構造にした主回路端子)を示す、任意で選ぶ追加記号だった。ところがMS-Tシリーズのカタログは、標準化を紹介する章で「端子カバーを標準装備することにより、盤内の安全性向上はもちろん、お客様の別形名の指定、オプションを手配する手間が削減されます」と述べている。つまり、CXが担っていた「触れにくい端子」という機能そのものが、T世代ではオプションではなく標準搭載になった。
その代わりに同じ位置へ新しく入ってきたのが「BC」だ。カタログは続けて「オプションにて配線合理化端子品(形名:形式記号にBCを付加)をご用意」と説明している。BCが指しているのは端子の保護構造ではなく、圧着端子やバー端子での結線をしやすくするための端子形状で、CXとは中身がまったく別物だ。三菱電機の現行公式サイトの記号一覧でも、BCは「MS-Tシリーズ」専用の記号として案内されており、旧世代のCXに相当する記号はT世代の一覧そのものに存在しない。同じ「フレーム番号のあとに付く2文字」という見た目のパターンを踏襲しながら、中身だけが入れ替わっている——旧世代の図面の読み癖のままT世代の型式を読むと、ここでつまずく。
MSO-Tは全域を置き換えたわけではない
三菱電機の現行公式サイトの形式一覧を見ると、T形はT10からT100まで並んでいる。100Aを超えた先、125A以上の大容量クラスは、現行のラインアップでもMSO-N125・N150・N180・N220・N300・N400というN形の型式のまま案内されている。S-Nシリーズがほぼ全域にわたってS-T形へ置き換わった、という思い込みは、大容量クラスに関しては当てはまらない。「N形」という記号だけを見て旧世代・生産終了と判断するのは早計で、大フレームの更新案件では型式ごとに現行品かどうかを確かめる必要がある。
現場での注意点
補助接点の構成を確認するときは、型式表記だけで判断しないことだ。ラベルに「MSO-T20」とだけ書かれていても、それが標準の1a1bなのか、特殊指定を経た2aなのかは、仕様書や選定表と照らし合わせるまで確定しない。旧世代のS-N系のように、型式の数字を見ただけで補助接点数が読み取れる、という感覚のままT世代の型式を扱うと、この一手間を飛ばしてしまう。
S-T形だけを発注してしまう間違いにも注意が要る。S-T21は電磁接触器単体で、過負荷保護のためのサーマルリレーを含んでいない。モーター回路として使うなら、MSO-T21・MS-T21のような電磁開閉器として発注するか、S-T21とTH-T18形サーマルリレーを別途組み合わせる必要がある。
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