光ファイバの回線がある日突然、不通になったとする。原因を突き止めるべき区間は、建屋間をつなぐ数百メートル、あるいは幹線なら数キロメートルの、地中や配管の中に埋もれた1本のケーブルだ。
銅線であれば、まだやりようがある。テスターを当てて導通を確認し、疑わしい中継箱をひとつずつ開けて調べていけば、いずれ断線箇所には行き着く。電気は接触があれば流れ、なければ流れない。単純な理屈で、範囲を絞り込んでいける。
光ファイバではその手順がそもそも成立しない。中を伝わっているのは電流ではなく光で、途中の1点にテスターを当てても「導通の有無」以上の情報は得られない。数百メートルの区間を掘り返して目視で断線箇所を探すなど、コストと時間の面で現実的ではない。かといって、通信が来ないという事実だけでは、断線が手前100メートルの地点にあるのか、遠端の数百メートル先にあるのかすら分からない。
この、光ファイバならではの「中を見られない」という壁を越える手段が、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer、光パルス試験器)である。片端に接続するだけで、断線や過大損失の位置を、掘り返すことなく突き止められる。
OTDRは何を測っているのか——光を送り、跳ね返りの時間差を読む
OTDRの動作原理は、レーダーの発想に近い。アンリツの技術資料によれば、OTDRは自身から送り出した光パルス信号が光ファイバ内で散乱して戻ってくる光の量から損失を、戻ってくるまでの時間差から距離を算出している。
戻ってくる光には性質の異なる2種類がある。ひとつはレイリー散乱と呼ばれる現象で、光がファイバ内部の微細な不純物や密度のゆらぎに当たって四方八方に散らばる際、そのごく一部が入射側へ戻ってくる「後方散乱光」だ。もうひとつはフレネル反射で、コネクタの接続端面や断線部のようにガラスと空気の境界(屈折率が急に変わる箇所)で強く跳ね返る反射である。NTT RECの解説によれば、端面が垂直な場合のフレネル反射は光量の約3%に達するとされ、これは後方散乱光よりずっと強い。
この2つの信号強度を時間軸に沿ってグラフ化したものが、OTDRの測定画面に表示される波形——一般に「OTDRトレース」と呼ばれるものだ。横軸が距離、縦軸が損失レベルで、なだらかな右下がりの直線がレイリー散乱による通常の伝送損失、途中で段差が生じている箇所が融着接続点の損失、鋭く隆起している箇所がコネクタ接続点の反射、というふうに、線路内部で何が起きているかを片端からの測定だけで読み取れる。VIAVIの資料が測定項目として挙げる、コネクタ接続点の反射減衰量、融着接続点の損失、光ファイバの総減衰量、故障地点までの距離は、いずれもこの1本の波形から導かれる。
その反射こそが、測定を惑わす「デッドゾーン」を生む
ここまでの説明だと、OTDRは万能の診断装置に見えるかもしれない。実際、そう期待して現場に持ち込み、痛い目を見た技術者は少なくないはずだ。
種明かしをすると、コネクタの強い反射こそが、その直後の区間を測定不能にしてしまう。強い光が受光素子(フォトダイオード)に飽和状態を引き起こし、飽和から回復するまでのわずかな時間、その周辺で起きている別の小さな出来事——たとえば数メートル先にあるかもしれない別の接続点や損傷——を検出できなくなるのだ。この盲点が「デッドゾーン」である。
横河計測のAQ7280ユーザーズマニュアルは、デッドゾーンを2種類に分けて定義している。ひとつは「イベントデッドゾーン」で、近接した2つの反射を分離できない領域を指し、反射波形のピーク値から1.5dB下がったレベルのパルス幅がこれに相当する。もうひとつは「アッテネーションデッドゾーン」で、大きな反射があるため、その周辺の接続損失(融着点のような反射を伴わないイベント)が測定できない領域を指す。Fluke Networksの技術解説では、後者は後方散乱光の近似直線から0.5dB以内の偏差に収まる地点までの距離と定義されている。
厄介なのは、この盲点の大きさが固定値ではないことだ。Fluke Networksが示す例では、UPCコネクタ(反射率-51dB程度)を使った1550nm測定において、アッテネーションデッドゾーンは4.5mほどで済むところが、コネクタの反射率が上がる条件では30mを超えるまで拡大するとされる。コネクタの端面が汚れていたり劣化していたりして反射が強く出るほど、その直後に隠れる区間はかえって広がる、という逆説的な関係がここにある。
つまり、点検で本当に確認したいコネクタや融着点の「まさにその直後」こそが、測定器にとっては最も見えにくい場所になる。ここに実際の異常——たとえばクロージャー内でわずかに挟み込まれたファイバや、施工不良で生じた微小な損傷——があっても、波形上は何も表示されず「異常なし」に見えてしまう。逆に、デッドゾーン内の反射の余波がノイズとして残っていることに気づかず、正常な区間をむやみに疑ってしまうケースもある。アンリツの解説資料が接続損失の解析に4つのマーカーを使う手順を示しているのも、デッドゾーン分の損失を差し引かずに2点間のレベル差だけを読むと、実際より大きな損失値になってしまうためだ。波形は正直に見えて、読み方を誤らせる仕掛けを内包している。
見えない区間をどう避けるか——ダミーファイバーと双方向測定
デッドゾーンそのものをゼロにはできない以上、実務ではこれを回避する側の工夫が積み重ねられてきた。
近端側、つまりOTDR本体とファイバをつなぐコネクタの接続点そのものにも、内部反射による「近端デッドゾーン」が生じる。横河計測のマニュアルは、この区間では別の接続点があっても損失や反射を検出できないと説明し、対策としてダミーファイバーケーブル(ランチケーブル)を測定対象の手前に挟むことを挙げている。近端デッドゾーンをダミーファイバーの区間内に押し込めてしまえば、本当に確認したい線路の始点は、盲点から外れた場所で測定できる。VIAVIの資料によれば、ダミーファイバーの長さはマルチモードで300〜500m、シングルモードで1000〜2000mが一般的で、非常に長距離の測定では4000mのケーブルを使うこともあるという。
もうひとつの手が、双方向測定である。ファイバの片端だけを測ると、後方散乱係数の異なるファイバ同士が接続されている場合に、あたかも損失がマイナスになったような「利得現象」が波形に現れることがある。アンリツの資料は、これを避けるために両方向から測定し、それぞれの値を平均化する方法を推奨している。横河計測のAQ7280も、双方向で測定した2つの波形を合成する機能を備え、片方向ではデッドゾーンに隠れていたイベントを、もう一方の波形から確認できるようにしている。1回の測定を鵜呑みにしないという、地味だが効果の大きい備えだ。
パルス幅というトレードオフ——遠くを見るか、近くを見分けるか
デッドゾーンの厄介さは、パルス幅という設定項目と切り離せない関係にある点にもある。
短いパルス幅を使えば、近接した2つの接続点も分離して見分けられ、デッドゾーンも狭くできる。だが送り込める光のエネルギーが小さくなる分、遠方から戻ってくる後方散乱光は弱くなり、測定できる距離(ダイナミックレンジ)は短くなる。逆に長いパルス幅は遠くまで測定できる代わりに、デッドゾーンも大きくなる。アンリツの資料はこれを「パルス幅は測定できる損失の幅(ダイナミックレンジ)と、接続点で見えなくなる距離(デッドゾーン)がトレードオフの関係にある」と説明しており、線路の状況に応じて最適なパルス幅を選ぶ判断そのものが、測定精度を左右する。
近年の機種は複数のパルス幅で自動的に測定し、結果を組み合わせることでこのトレードオフを緩和する機能を備えている。たとえばアンリツのアクセスマスタMT9085シリーズは、標準・エンハンスト・ハイパフォーマンスの3クラスでダイナミックレンジを分け、上位クラスほど長距離・多心のPONネットワークやメトロ回線の測定に対応する。測定したい線路の距離と、想定される接続点の間隔の両方を踏まえてクラスを選ぶ必要があるのは、この原理があるからだ。
現場でできる備えは、機種選定だけではない。アンリツの資料は、光ケーブルの敷設工事完了時にOTDR波形を試験成績書として残しておくことを標準的な作業に挙げている。数年後に通信障害が起きたとき、敷設時の波形と現在の波形を重ねて比較すれば、どの接続点の損失が進行したのか、どこに新しいイベントが現れたのかが波形の変化としてはっきり見える。デッドゾーンの位置自体は変わらないままでも、「その周辺で何かが変わった」ことは前後の記録があって初めて拾える。疑わしい区間が絞り込めている場合には、パルス幅を一種類に決め打ちせず、短いパルス幅で近接イベントを分離した波形と、長いパルス幅で遠方まで見通した波形の両方を突き合わせるのも、単一設定に潜む死角を補う地道な手だ。
冒頭の断線した回線に話を戻せば、OTDRが片端からの測定だけで故障位置の見当を付けられること自体は事実である。ただし、その波形が示す「異常なし」は、デッドゾーンという盲点の存在を差し引いて初めて正しく読める情報になる。掘り返さずに済むという利点の裏側に、コネクタと融着点の直後だけは測定器自身の目が届きにくいという弱点が同居している——この二つを合わせて理解して初めて、OTDRは診断の道具として機能する。
光ファイバ測定器・関連資材の調達について
電材サーチでは、アンリツのアクセスマスタOTDRシリーズをはじめ、光ファイバケーブル、融着接続機、コネクタ・メカニカルスプライスまで、光ファイバ回線の構築から保守測定までに必要な資材を一括でお見積りいたします。測定距離や現場条件に応じたOTDRのクラス選定についても、担当者がご相談に対応します。
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