現場で銅線のケーブルを何百本と圧着・ねじ止めしてきた電気工事士が、初めて光ファイバーケーブルの端末処理を任されたときに、決まって同じ壁にぶつかる。圧着工具を握り、いつもの手順で心線をスリーブに差し込み、力を込める。だが、うまくいかない。というより、そもそも「これでいいのか」という確信が最後まで持てない。
先輩に聞くと、拍子抜けするような答えが返ってくる。「それ、圧着じゃ繋がらないよ。専用の機械が要る」。値段を聞いて、二度驚くことになる。融着接続機と呼ばれるその機械は、安いものでも数十万円、高精度なモデルになれば百万円を超える。銅線同士なら数百円の圧着端子と工具ひとつで済む作業に、なぜそこまでの装置が必要なのか。
答えを急ぐ前に、まず光ファイバーというものの正体を確認しておきたい。
光ファイバーは「電気」ではなく「光」を通している
銅線の接続がなぜ圧着やねじ止めで足りるのか、その理由から考えるとわかりやすい。銅線は導体(銅)同士がどこかの一点で電気的に接触してさえいれば、電流はその接触面を通って流れる。多少接触面が荒れていても、圧着でしっかり締め付ければ十分な導通が得られる。電気は「面」で伝わるからだ。
光ファイバーはこの前提がまるごと成り立たない。中を伝わっているのは電流ではなく、光そのものである。しかも、ファイバー全体に光が満ちているわけではなく、断面の中心にある「コア」という、屈折率をわずかに高めたガラスの芯の中だけに光を閉じ込めて伝送している。電線総合技術センター(JECTEC)の資料によれば、代表的なシングルモード光ファイバーのモードフィールド径はおよそ10μm、クラッド径(ファイバー全体の太さ)は125μmとされる。10μmといえば人の髪の毛の太さ(70〜100μm程度)の1/10にも満たない。マルチモードのグレーデッドインデックス形でもコア径は50μm程度で、それでも髪の毛よりずっと細い。
この数字が意味するのは、光ファイバーの接続とは「面と面を触れさせる」作業ではなく、「髪の毛より細い芯の中心同士を、寸分違わず一直線に並べる」作業だということだ。日本電線工業会の技術資料は、光ファイバーの接続を「両側の光ファイバコア軸をできる限り一直線上で密着させ、光学的にあたかも連続しているかのようにすること」と定義し、これを銅心線の接続と明確に区別している。圧着で済むはずがない。圧着という工法そのものが、電気を面で通す銅線を前提に設計された技術だからだ。
ここまでの理屈は理解できても、では現場は実際どうやってこの「髪の毛より細い芯」を一致させているのか。その答えが、融着接続とメカニカルスプライスという二つの技術になる。
融着接続——ガラスを一体化させて「つなぎ目」自体をなくす
融着接続は、2本の光ファイバーの端面同士をアーク放電による加熱で溶かし、そのまま突き合わせて一体化させる方法だ。住友電気工業の資料によれば、融着接続機は約1,800℃のアーク放電熱でファイバー端部を瞬時に溶融し、左右のファイバーを接続する装置とされる。ガラスが融けて再び固まる過程で、2本だったファイバーは物理的に1本の連続したガラス棒になる。
「つなぎ目をなくす」という発想が本質だ。メカニカルスプライスやコネクタ接続が、あくまで2本のファイバーを「突き合わせて固定する」のに対し、融着接続はそもそも境界面を消してしまう。境界がなければ、そこで光が反射したり漏れたりする余地も原理的に小さくなる。日本電線工業会の資料が示す接続損失の参考値は、融着接続で約0.1dBと、後述する他の方式より低い。
メカニカルスプライス——電源なしで機械的に位置を合わせる
メカニカルスプライスは、加熱も溶融もしない。日本電線工業会の資料の説明を借りれば、「メカニカルスプライス部品中の位置決めガイド基板に沿って光ファイバを挿入し、突き合わせて押え部材にて固定し永久的に接続する方法」である。V溝などで機械的に軸を合わせ、内部にわずかに満たした屈折率整合剤で境界面の光学的な段差を緩和しながら、クリップやスリーブで物理的に押さえ込む。
この方式の価値は、接続損失の低さではなく「電源も熟練も要らない現場対応力」にある。融着接続機は数十万円する精密機器で、バッテリーの充電管理も要る。メカニカルスプライスは小型軽量の専用工具さえあれば、電源のない仮設現場でも数分で作業が完結する。日本電線工業会の資料が挙げる接続損失の参考値は約0.2dBで、融着接続よりは大きい。実際の製品仕様を見ると、古河電気工業の光ファイバ総合カタログに載る外被把持型メカニカルスプライスMS961は、接続損失0.4dB以下・反射減衰量40dB以上(いずれも測定波長1310nm・1550nm)と公表されている。数値には幅があるが、いずれも融着接続よりやや大きい損失を許容する代わりに、施工性を取っているという構図は共通している。
接続損失とコスト——どちらも「一長一短」の関係にある
ここまでの数字を並べると、両者の立ち位置がはっきりする。
| 接続方式 | 接続損失(参考値) | 電源 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 融着接続 | 約0.1dB | 必要(充電式が主流) | 低損失・安定・恒久設置向き |
| メカニカルスプライス | 約0.2dB前後(製品により0.4dB以下等) | 不要 | 工具が小型軽量、短時間施工、仮設・応急向き |
| コネクタ接続 | 約0.5dB | 不要 | 着脱可能、機器との接続・引き込み末端向き |
損失の差は数字だけ見ると小さく思えるかもしれない。だが光ファイバーの伝送は、長距離になるほど、また接続点数が増えるほど、この0.1dB刻みの差が積み重なっていく。データセンター間の幹線や長距離の基幹回線で融着接続が標準とされているのは、この積算の重みを嫌ってのことだ。一方、宅内への引き込みや仮設のLAN配線、災害復旧時の応急対応では、多少の損失増より「その場で電源なしにすぐ直せる」ことの価値が勝る。
融着接続機の中で何が起きているか——「自動調心」という発想
融着接続機がなぜあれほど高価なのか、その理由は接続そのものより「位置合わせ」の部分にある。住友電気工業は1984年発売の融着接続機TYPE-33で、ファイバーのコア部を顕微鏡で観察しながら自動で調心する「コア直視技術」を業界に先駆けて採用した。ファイバーを機械にセットすると、内蔵カメラがコアの位置をリアルタイムに捉え、左右のファイバーの軸をマイクロメートル単位でずらしながら一致させ、ずれがなくなったところでアーク放電を発生させて溶融・接続する。人間の手や目の分解能では到底追いつかない精度を、機械が肩代わりしているわけだ。
もう一つ、固定V溝調心方式という方法もある。これはコアを直接観察するのではなく、高精度に加工されたV字の溝にファイバーの外径を沿わせて機械的に位置を決め、さらに溶融時にガラスの表面張力が働くことで軸のわずかなずれを自然に補正する、という考え方に立つ。どちらの方式でも狙っているのは同じことで、人間の手作業では実現できない精度の位置合わせを、機械的・光学的な仕組みに肩代わりさせている。
日本電線工業会の資料は、接続損失を生む要因として、軸ずれ・折れ曲り・端面傾斜・コア径の違い・比屈折率差の違いなどを挙げている。融着接続機が高価なのは、これらの要因のうち機械が制御できる部分(軸ずれ・折れ曲り・端面の状態)を、限界まで潰し込むための精密機構と光学系にコストがかかっているからだ、と理解すると腑に落ちる。
現場でどちらを選ぶべきか
判断の軸は単純で、「その接続が恒久設置か、仮設・応急かどうか」がほぼすべてを決める。
局舎間・ビル間の幹線、データセンターのバックボーン、公共性の高い基幹インフラのように、一度施工したら数十年単位で触らない前提の接続には、損失が小さく長期安定性に優れる融着接続を選ぶ。初期投資こそかかるが、接続点ごとの損失が積算されていく長距離・多心数の配線では、この差が回線全体の品質を左右する。
一方、仮設現場での延長・切り分け、災害時の応急復旧、電源が確保できない狭所での引き込み工事、あるいは小規模な改修で融着接続機を持ち込むほどの規模ではない現場には、メカニカルスプライスが向く。工具が小型軽量で、電源なしに数分で作業が終わるという特性は、こうした場面でこそ価値を発揮する。コネクタ接続はさらにその先、機器と光ファイバーを繰り返し着脱する必要がある箇所(配電盤の入出力、パッチパネルなど)に限られる。
冒頭で圧着工具を握ったまま立ち尽くしていた工事士に必要だったのは、腕を鍛えることでも、より強い力で締め付ける工夫でもなかった。銅線は「機械的に接触させる」対象であり、光ファイバーは「光学的に連続させる」対象である——この一点さえ腹落ちすれば、なぜ専用機が要るのか、なぜ融着接続機があれほど高価なのか、そしてどちらの接続方式を選ぶべきかは、おのずと見えてくる。
光ファイバー・融着接続機・メカニカルスプライスの調達について
電材サーチでは、フジクラ、住友電工(住友電気工業ネットワーク製品を含む)、古河電工など主要メーカーの光ファイバーケーブル、融着接続機、メカニカルスプライス部品、光コネクタまで、通信配線に必要な資材を一括でお見積りいたします。恒久設置向けの融着接続機の選定から、仮設現場向けのメカニカルスプライス工具の手配、既設設備の型番照合まで、担当者がご相談に対応します。
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