単線結線図を広げた工事担当者が、引込柱のあたりで一度手を止める。そこに描かれているのは「PAS」という記号だ。視線を右へ、キュービクルの中まで滑らせると、また似たような四角と斜線の組み合わせが現れる。今度は「LBS」と書いてある。図記号としてはどちらも「開閉器」の系統に属していて、正直に言えば見分けがつきにくい。上司に聞けば「開閉器だよ、開閉器」としか返ってこないだろう。それはわかっている。知りたいのは、なぜ同じ種類の部品が一枚の図面の中に二度も登場するのか、ということだ。
同じ機器を二重に描いているだけかもしれない、と思いたくなる。ところがこの二つ、設置されている場所が違うだけでなく、実際に受け持っている「事故の種類」がまるで別物である。
PASとは何か——責任分界点に立つ「境界の番人」
PAS(Pole Air Switch、高圧気中負荷開閉器)は、電力会社の配電線と需要家の構内設備との境界、すなわち責任分界点の直近に設置される区分用の開閉器だ。多くの現場では引込柱の上に取り付けられ、需要家が電力会社から電気の供給を受ける入り口そのものに立っている。
PASの中核機能がSOGである。戸上電機製作所をはじめとするPASメーカーの技術資料や解説記事によれば、SOGはS・O(短絡・過電流)とG(地絡)の頭文字を組み合わせた略称で、この二つの異常を検出して開閉器を自動で開放する仕組みを指す。地絡(漏電)を検知した場合の動作は単純で、SOG制御装置が直ちにトリップコイルを励磁し、PASを開放する。
短絡の場合はもう一段込み入っている。PASは大電流を自ら遮断する能力を持たないため、構内で短絡電流が流れても即座には開かない。内部の継電器が作動して回路をいったんロックし、電力会社側の配電用遮断器が短絡電流を検出して先に開路するのを待つ。配電線が一時的に停電し、制御電源が失われた瞬間にSOG制御装置がPASのトリップコイルを励磁し、無電圧の状態でPASが開放される。配電用遮断器が再閉路したときには事故点がすでに切り離されているため、需要家の構内事故が周辺一帯を巻き込む「波及事故」に発展せずに済む——これが過電流ロック機構と呼ばれる仕組みだ。この自動再閉路が成立したケースは、内規上「供給支障事故」として扱わないという運用も、PASが電力系統全体の安定を守るために置かれた装置であることを裏付けている。
LBSとは何か——キュービクル内部で働く「変圧器の守衛」
責任分界点を越えて構内に入ると、キュービクルの中でまったく別の役割を持つ開閉器に出会う。LBS(高圧交流負荷開閉器)は、変圧器や高圧コンデンサの一次側に設置され、日常の負荷電流の開閉と、点検・工事時の回路の切り分けを担う機器だ。
ただしLBS単体では、短絡電流のような大電流を遮断する性能を持たない。富士電機のLBSシリーズ・LBシリーズの製品情報を見ると、定格電圧3.6/7.2kV、負荷電流100〜600Aの本体に対して、5〜200Aの限流ヒューズを組み合わせる構成になっている。短絡事故が起きるとヒューズが溶断し、その衝撃で「ストライカ」という機構がLBS本体を連動して開放させる。つまりLBSの短絡保護は、本体単独ではなく、限流ヒューズとの組み合わせで初めて成立する。ヒューズホルダーの有無や適合するヒューズ定格を確認せずに本体だけを手配してしまうと、保護が成立しない状態のまま設備を運用することになりかねない。
なお業界の運用目安としては、変圧器容量が300kVA未満の設備ではLBS、300kVA以上ではより遮断性能の高いVCB(真空遮断器)を主開閉装置に用いる、という切り分けが一般に案内されている。容量が上がるほど、LBS+ヒューズという組み合わせでは保護しきれなくなる領域に入っていく、という理解でよい。
設置場所の違いは、そのまま財産分界点との距離である
なぜ設置場所がこれほど違うのか。答えは、責任分界点という一本の線を挟んで、どちら側の設備なのかという整理にある。
恒電社の解説では、責任分界点は「財産上の責任分界点」(設備の所有権や修理・更新費用の負担範囲の境目)と「保安上の責任分界点」(点検・清掃・事故対応の管理責任の範囲)の二つの側面を持ち、通常は同一地点に設定されると整理されている。東京電力エナジーパートナーの電気需給約款[高圧]でも、需給地点・財産分界点は送配電事業者が施設した供給用配電箱内の母線と、需要家側の区分開閉器(断路器)電源側接続点として定義されている。PASはこの境界線のすぐ需要家側に立ち、LBSはそこからさらに構内へ入ったキュービクルの中に立つ。
ここで見落とされがちなのが、PASの所有・保守の主体だ。電柱の上にあるという見た目から「電力会社の設備だろう」と思われがちだが、実際は違う。電気事業法が定める自主保安の原則のもとでは、責任分界点よりも需要家側にある設備はすべて需要家自身の財産であり、点検・更新の義務も需要家が負う。PASは電力会社の配電線にきわめて近い場所に立っているにもかかわらず、所有者は需要家である——この一点を取り違えると、更新のタイミングを「電力会社が何か言ってくるまで待てばいい」と誤解し、老朽化を放置する原因になる。
なぜ両方必要なのか——地絡と短絡、階層の違う二つの事故
PASとLBSを並べて見ると、同じ「開閉器」という部品でありながら、担っている保護の階層がまったく違うことが見えてくる。
PASが主として警戒しているのは、構内で発生した事故が電力会社の配電系統、つまり構外に波及することだ。地絡・短絡を検知して自らを切り離すことで、需要家の設備トラブルが近隣一帯の停電に発展するのを防ぐ。守っている対象は、突き詰めれば「自社の外にある他人の系統」である。
一方でLBSが警戒しているのは、変圧器やコンデンサといった構内機器そのものが短絡事故で焼損・破損することだ。守っている対象は「自社の中にある自社の機器」であり、事故が構外に波及するかどうかはLBSの設計上の主眼ではない。同じ「負荷開閉器」という機構が、責任分界点を境に守備範囲を切り替えている、と捉えるとこの二つの役割は矛盾なく理解できる。PASだけでは構内機器の短絡までは守り切れず、LBSだけでは構外への波及を止められない。だからこそキュービクルの単線結線図には、両方が別々の記号として並んで描かれることになる。
点検・更新のタイミングが違う理由
(一社)日本電機工業会が発行した「汎用高圧機器の更新推奨時期に関する調査」報告書は、高圧交流負荷開閉器の更新推奨時期を屋内用15年・屋外用10年(いずれも負荷電流開閉回数200回のいずれか早いほう)と示している。あわせて、GR付開閉器の制御装置——PASのSOG制御装置に相当する部分——は使用開始後10年を目安とする。
この年数差の理由は、置かれている環境の厳しさにそのまま対応している。PASは屋外の柱上に露出し、風雨・紫外線・塩害を浴び続ける屋外用の開閉器であり、LBSはキュービクルという筐体に守られた屋内用の開閉器だ。同じ機構の部品でも、経年劣化の進み方が環境によって変わるため、更新の目安年数も分けて考える必要がある。PASについては、これとは別に概ね3年に1回の定期点検が推奨されており、点検の際に接点の摩耗・サビ・ひび割れ・異音が見つかれば、年数の目安を待たずに更新を検討すべきサインとなる。
よくある誤解——発注段階での混同
現場で実際に起きる混同は、大きく二つに分かれる。
一つは、前述した「PASは電力会社の設備」という所有権の誤解だ。この誤解を抱えたまま長期間放置すると、更新すべき時期が来ても誰も手を挙げず、老朽化したPASが波及事故の起点になりかねない。
もう一つは、図面上の記号だけで発注してしまう混同だ。単線結線図の「開閉器」という括りだけを見て、PASとLBSを同じ扱いで手配し、SOG制御装置の方式(無方向性・方向性)や、地域によっては電気工事協会の優良機器認定品といった要件を見落としたり、逆にLBSの手配で本体だけを注文してヒューズを付け忘れたりするケースが典型例だ。PASとLBSは同じ「高圧交流負荷開閉器」というカテゴリの親戚ではあっても、互換性のある同一部品ではない。既設設備の更新であれば、図面の記号だけで判断せず、現物の銘板に記載された型番まで確認してから発注するのが最も確実な進め方になる。
PAS・LBSまわりの資材調達は「電材サーチ」へ
「キュービクルの改修工事にあわせてPASとSOG制御装置を更新したい」「変圧器一次側のLBSを、適合する限流ヒューズごと手配してほしい」「単線結線図の記号を見て、既設と同等品の型番を選定してほしい」という電気管理技術者・設備工事ご担当者様へ。電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、PAS・LBS・SOG制御装置・限流ヒューズを含む高圧受変電設備の関連資材を幅広く取り扱っている。責任分界点・財産分界点との位置関係から必要な機能・容量を整理したうえで、まとめてお見積りいただける。
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