年間発電量のシミュレーションを二つ並べて、担当者が首をひねる。同じ出力帯のパワーコンディショナ(PCS)を積んだ、条件のよく似た二つの発電所。カタログの「最大変換効率」はどちらも96%台で、差はほとんどない。ところが一年動かしてみると、片方は当初のシミュレーションどおりの発電量を出し、もう片方はそれよりわずかに、しかし確実に下回る。
パネルの枚数も角度も、地域も同じだ。故障しているわけでもない。違うのはPCSの型番だけ。カタログの数字は同じに見えたはずなのに、なぜ差が出るのか。
答えの見当は、案外つきにくい。最大変換効率という数字が、発電所が一年のうちごくわずかな時間しか経験しない条件でしか測られていない——そう気づいたときに、ようやく違和感の正体が見えてくる。
最大変換効率とは何か——「一番条件のいい一点」の数字
パワーコンディショナのカタログに載る「変換効率」は、日本ではJIS C 8961という規格に基づいて測定される。負荷率10%・25%・50%・75%・100%・120%という段階で効率を測定し、そのうち定格出力(100%)付近の値を「変換効率」として表示するのが一般的だ。パナソニックの屋外用集中型パワーコンディショナVBPC255GC1の商品仕様書には、「定格電力変換効率 95.0%(JIS C 8961による)(入力電圧DC330V時、力率0.95時)」という数値が明記されている。
ここに、見落とされがちな条件がすでに二つ隠れている。一つは入力電圧、もう一つは力率だ。同じVBPC255GC1でも、力率を1.00にすると効率は「(参考)95.5%」へ0.5ポイント上振れする。つまりカタログの「95.0%」は、DC330Vという特定の入力電圧、0.95という特定の力率で測ったときの、一点の数字にすぎない。
この一点さえ高ければ、年間発電量もそれに比例して増えるはずだ。多くの人が最初にそう考える。無理もない。カタログにはこの数字しか載っていないのだから。
なぜ実際の発電はその条件で動き続けないのか——日射は一日中揺れ続ける
しかしこの期待は、PCSが置かれている環境の性質を見落としている。95.0%や96.0%という定格負荷効率は、PCSが定格出力、あるいはそれに近い出力で運転しているときの数字だ。太陽光発電のPCSが一年のうち、実際にその条件で動いている時間は、思っているよりずっと少ない。
朝の光が斜めに差し込む時間帯、雲がかかった時間帯、夕方に日射が弱まっていく時間帯——これらはすべて、PCSへの入力が定格の20%や30%、あるいはそれ以下に落ち込んでいる状態だ。晴天の日でも出力が定格の90%を超える時間は限られており、一日を通してみれば、発電時間の大半は定格の20〜60%程度の「部分負荷」で占められている。
オムロン ソーシアルソリューションズの屋内仕様パワーコンディショナKPKシリーズの製品ページは、「高効率96.0%」という数値と並べて、「低出力(500W)時でも94.7%の高変換効率」という数値をわざわざ明記している。これは偶然の親切心ではない。低負荷時に効率が落ち込みやすいという弱点がPCSという機器に構造的に存在するからこそ、あえて低出力時の数値を掲げて差別化しているのだ。
カタログに載る最大変換効率だけを比べていては、発電所が一年の大半を過ごす部分負荷という条件での性能差が、そっくり視界の外に置かれることになる。
欧州効率(Euro efficiency)とは何か——複数の負荷率を加重平均した「実運転に近い数字」
この視界の外を測るために考案されたのが、欧州で広く使われている欧州効率(Euro efficiency、Euro-eta)という指標だ。欧州委員会共同研究センター(JRC)が2018年のPV専門家会合で示した資料によれば、欧州効率は次の式で計算される。
η_EUR = 0.03×η5% + 0.06×η10% + 0.13×η20% + 0.10×η30% + 0.48×η50% + 0.20×η100%
5%・10%・20%・30%・50%・100%という6段階の負荷率それぞれで測定した変換効率(η)に、決められた重みを掛けて足し合わせる。最大変換効率が「一番条件のいい一点」だとすれば、欧州効率は「実際に発電している時間の分布に合わせて、複数の点を混ぜ合わせた」数字だ。
JRCの資料は、実在するインバータの例として「最大効率/欧州効率」の組み合わせを二つ示している。一つは92.1%/90.9%、もう一つは93.5%/91.8%。どちらも、最大効率から1.2〜1.7ポイントほど低い数字が欧州効率として並ぶ。この差は測定誤差ではない。低負荷帯での効率の落ち込みが、加重平均という形でそのまま数字に織り込まれた結果だ。
なぜ50%負荷の重みが最も大きいのか——中央ヨーロッパの日射パターンという背景
先の式をよく見ると、6つの重みのうち最大は0.48、負荷率50%に割り当てられている。定格出力(100%)の重みは0.20しかない。カタログの顔になるはずの定格出力という条件が、欧州効率の計算の中では、むしろ軽い扱いを受けている。
なぜこうなるのか。JRCの資料は、この重み係数が「インバータの種類に応じて決まる」ものであり、系統連系形の場合は地域の日射時間分布曲線を基に設定されると説明している。欧州効率の重みは、中央ヨーロッパの実際の日射パターン——強い晴天が続く日が少なく、曇天や薄曇りの時間が長く挟まる気候——を統計的に反映して決められたものだ。定格出力に近い強い日射が得られる時間は年間を通じて限られており、中程度の負荷率で運転している時間の方がずっと長い。この実態を、重み係数という形でそのまま指標に落とし込んだのが欧州効率だった。
CEC効率(米国基準)との違い——同じ発想、違う気候
同じ発想に基づきながら、重みの配分がまったく異なる指標がもう一つある。米国カリフォルニアエネルギー委員会(CEC)が示したCEC効率だ。JRCの資料が示す計算式は次のとおりである。
η_CEC = 0.04×η10% + 0.05×η20% + 0.12×η30% + 0.21×η50% + 0.53×η75% + 0.05×η100%
負荷率75%に0.53という、欧州効率の50%(0.48)を上回る最大の重みが置かれている。PVsystの技術文書は、CEC効率について「高日射地域である米国南西部向けに提案された加重平均」と説明する。日照が強く安定している地域では、PCSがより高い負荷率で運転している時間が長い。だからこそ、重みの山も75%側へ寄っている。
同じ「加重平均」という手法でありながら、欧州効率とCEC効率がまったく違う数字になり得るのは、優劣の問題ではなく、前提にしている気候・日射条件が違うからだ。日本の気候はどちらの前提とも完全には一致しない。欧州効率やCEC効率の数値を、そのまま「日本での実効率」と読み替えることもできない。あくまで、最大変換効率という一点だけでは見えない部分負荷特性を映し出す、参考指標として捉える必要がある。
日本のカタログに「欧州効率」が載っていない理由
ここで一つ、確認しておきたい事実がある。日本メーカーのPCSカタログや仕様書に、欧州効率やCEC効率という表示が載ることは、ほとんどない。株式会社LIXIL ZEH推進事業部が2017年に発行した「パワーコンディショナ電力変換効率の根拠についてのお知らせ」を見ると、取り扱う複数機種の「電力変換効率」欄には、いずれも「※『電力変換効率』は、JIS C 8961に基づく効率測定方法による定格負荷効率です」という同一の注記が付されている。日本の商習慣では、変換効率は定格負荷という一点で測り、一点のまま表示するのが標準になっている。
もっとも、これは「日本のPCSが部分負荷のデータを持っていない」という意味ではない。JIS C 8961が定める測定条件は負荷率10%・25%・50%・75%・100%・120%の6点であり、これは国際規格IEC 61683が定める測定点とほぼ重なる。欧州効率の計算に必要な5%・20%・30%という追加の3点は、IEC 61683を土台にEN 50530という規格が組み込んだものだ。つまり日本のメーカーも、測定そのものは複数の負荷率で行っている可能性が高い。ただ、その生データを一つの加重平均値へ変換して公表するという、最後の一手間だけが、日本のカタログ文化には定着していない。
カタログを比較するときの注意点
以上を踏まえると、PCSのカタログを見るときに立てるべき問いは「最大変換効率は何%か」ではなく、次のようなものになる。
- その数値は、どの負荷率・どの条件で測られたものか。定格出力(100%)付近の一点なのか、力率1.00という理想条件下なのか。パナソニックVBPC255GC1のように、力率0.95時と1.00時で0.5ポイントの差が出る例もある。同じ機種の数値でも、条件が違えば読み方が変わる。
- 低負荷時の効率が公表されているか。オムロンKPKシリーズのように低出力時の数値をあえて明記しているメーカーがあれば、その数値自体が比較材料になる。逆に低負荷時の数値が一切公表されていない機種は、部分負荷特性が不明のまま選定することになる。
- 効率曲線(グラフ)が公開されているか。数値の羅列よりも、負荷率に対する効率のグラフを見れば、定格出力に向けて右肩上がりなのか、中負荷域でピークを迎えたあと緩やかに下がるのかが一目で分かる。
- 設置環境と発電パターンが、その機種の得意な負荷帯と合っているか。曇天が多く部分負荷の時間が長い地域・向きに設置するなら、最大変換効率が同程度でも、低負荷効率の高い機種の方が年間発電量で有利になり得る。
最大変換効率が同じ数字に見える二つの機種でも、その裏にある効率曲線の形はまったく別物であり得る。カタログの一点だけを比べて「同じくらいだろう」と判断するのは、欧州効率という指標が生まれた背景を踏まえると、いささか早計だ。
FAQ
Q. 最大変換効率と欧州効率、どちらを見て機種を選べばよいですか?
A. 用途によります。定格出力に近い状態で長時間運転する環境では最大変換効率も参考になりますが、住宅用など出力変動が大きい設置環境では、部分負荷での効率(欧州効率のような加重指標、または低出力時の公表値)の方が年間発電量への影響が大きくなります。両方を確認したうえで判断するのが安全です。
Q. 欧州効率の数値は日本の気候にもそのまま当てはまりますか?
A. そのまま当てはめることはできません。欧州効率の重み係数は中央ヨーロッパの日射時間分布に基づいて設定されたもので、日本の気候・地域ごとの日照パターンとは前提が異なります。あくまで「最大変換効率という一点だけでは見えない部分負荷特性がある」ことを示す参考指標として捉えるべきです。
Q. CEC効率とは何ですか。欧州効率と何が違いますか?
A. CEC効率は米国カリフォルニアエネルギー委員会が示した加重平均効率で、考え方は欧州効率と同じですが重み係数が異なります。欧州効率は負荷率50%に最大の重み(0.48)を置くのに対し、CEC効率は負荷率75%に最大の重み(0.53)を置いており、これは日照が強く安定した米国南西部の気候を反映したものとされています。
Q. 日本メーカーのカタログに欧州効率が載っていないのはなぜですか?
A. 日本のPCSはJIS C 8961に基づき、定格負荷付近の一点の効率(定格負荷効率)を「電力変換効率」として表示するのが商習慣になっているためです。測定自体は複数の負荷率(10・25・50・75・100・120%など)で行われている可能性が高いものの、それらを一つの加重平均値に変換して公表する工程は、日本のカタログ文化には一般的に組み込まれていません。
Q. カタログの最大変換効率が同じ機種同士でも、発電量に差が出ることはありますか?
A. あり得ます。最大変換効率は定格出力付近の一点の数値であり、実際の発電時間の大半を占める部分負荷域での効率までは表しません。低負荷時の効率が公表されている機種であれば、その数値も比較材料にしたうえで選定することをおすすめします。
パワーコンディショナの選定・見積もりについて
「カタログの最大変換効率だけでなく、低負荷帯の効率や実際の効率曲線まで踏まえて機種を比較したい」「同容量帯のPCSを複数メーカーで比較検討したい」といったご相談を、施工店・発電事業者様からいただきます。
PCSの効率表示は入力電圧・力率・負荷率といった測定条件によって変わり、カタログの一点だけでは実際の年間発電量を推し量れない場面が少なくありません。当サービス「電材サーチ」では、PCS本体の仕様確認から、周辺部材まで含めた見積もりまでご相談いただけます。
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