見積書の型番欄に、「AE1035.500」と刻まれた一台が載っている。担当者はしばらくその数字を眺め、AEのあとの4桁「1035」に、幅とか高さとか、何か寸法の手がかりが埋め込まれているのではないかと考える。国内メーカーのプルボックスやキャビネットには、型番の数字がそのまま外形寸法を表す製品が少なくない。だとすれば「1035」も、10進法をどこかでずらせば200や300に化けるのではないか——そう疑いたくなるのも、無理はない。
結論から言えば、その疑いは外れる。リタールの公式データシートを実際に何十枚も突き合わせた限り、AEシリーズやCS系列(壁掛け型・フロアスタンディング型のスチール製エンクロージャ群)の基幹番号に、寸法を計算式で導ける規則性は見当たらなかった。かわりに見えてきたのは、もう少し込み入った事情だった。北米向けカタログには型番の隣に、寸法をインチでそのまま埋め込んだ別建ての呼び名が並記されている。つまりリタールは、覚えやすい「呼び名」と、発注・在庫管理に使う「番号」を、最初から分けて運用している。番号のほうから寸法を読み解こうとした時点で、そもそも見る場所を間違えていたことになる。
もう一つ、宙に浮いたままだった疑問もある。300×250×150mm相当とされながら、該当する正式な型番が特定できず「要確認」のままになっていたエンクロージャだ。この一台の正体も、追っていく過程で分かってくる。
基幹番号は連番——同じ寸法が、材質違いで別の番号を名乗る
まず手元にあったAE1035.500を、リタールの公式サイトが持つデータシート発行システム(型番を指定するとPDFの仕様書がその場で生成される仕組み)に照会した。返ってきた仕様は、幅200mm・高さ300mm・奥行155mm、保護等級IP55(NEMA12)、鋼板製・粉体塗装、色はRAL7035。yamlの記載ではIP66とされていたが、公式データシートが示す数値はIP55だった。まずはこの実測値を基準に、話を進める。
次に、同じ200×300×155mmという寸法を持つ製品が、他に存在しないかを調べた。見つかったのは「AE1002.500」。材質はステンレス鋼1.4404(AISI 316L)で、外形寸法はAE1035.500とぴったり同じ200×300×155mmだった。ここで引っかかる。寸法が同じなら、基幹番号も近い並びになっていそうなものだ。ところが1002と1035では、4桁のうち上2桁からして違う。材質という一つの変数が変わっただけで、番号はまったく別の系列に飛んでいる。
念のため、他のAEシリーズの型番もまとめて照会してみた。基幹番号とその実寸法(WHD、mm)を並べると、次のようになる。
| 基幹番号 | 幅×高さ×奥行(mm) | 材質 |
|---|---|---|
| AE1010.500 | 600×600×210 | ステンレス |
| AE1019.500 | 1000×1200×300 | ステンレス |
| AE1030.500 | 380×300×155 | 鋼板 |
| AE1032.500 | 200×300×120 | 鋼板 |
| AE1035.500 | 200×300×155 | 鋼板 |
| AE1037.500 | 400×800×300 | 鋼板 |
基幹番号が10に近いほど小型で、35や37に近いほど大型、といった傾向は一切ない。1010は600×600×210mmという中型サイズだが、それより大きい番号の1032は200×300×120mmしかない。番号の大小は、寸法の大小を反映していない。おそらくこれは、リタールがAEシリーズの各バリエーションを追加してきた順番、あるいは社内のカタログページ構成に沿って振られた、単純な連番なのだろう。数字そのものに、幾何学的な意味を求めても出てこない。
末尾の「.500」という3桁にも、同じことが言える。AE1035.500(鋼板)にもAE1010.500(ステンレス)にも、同じ「.500」が付いている。材質を示す記号だとすれば、鋼板とステンレスとで書き分けられていてもよさそうなものだが、そうはなっていない。この3桁が何を基準に振られているのか、公式データシートの記載からは読み取れなかった。少なくとも「素材や色を一貫して示すコード」ではない、ということだけは確認できた。
北米カタログには、寸法をそのまま埋め込んだ「もう一つの呼び名」がある
ここまでだと、リタールの型番はただ無秩序なだけの管理番号に見えるかもしれない。ところが北米向けの仕様ガイド(Junction Box and Wallmount Enclosure Specification Guideという文書)を開くと、様子が変わってくる。この資料には、型番プレートに刻まれる番号(Part No.)とは別に、「Catalog No.」という呼び名が併記された対応表が載っている。
例えば8017.544というPart No.には、「WM202408NC」というCatalog No.が対応している。これは「WM(壁掛け型) 20×24×8(インチ)」を意味し、高さ20インチ・幅24インチ・奥行8インチ——ミリに換算すると高さ500mm・幅600mm・奥行210mmになる。実際のデータシートに記載された寸法(幅600mm・高さ500mm・奥行210mm)と、きれいに一致する。もう一つの例、8018.585というPart No.には「JB121006HC」というCatalog No.が対応し、こちらは高さ12インチ・幅10インチ・奥行6インチ、ミリに直すと高さ300mm・幅250mm・奥行150mmになる。
つまりリタールは、型番の中に寸法を埋め込む方式そのものは持っている。ただしそれは、Part No.(8017.544のような数字)の側にではなく、Catalog No.(WM202408NCのような英数字)の側に実装されている。同じ仕様ガイドの対応表を見ると、隣り合う寸法のCatalog No.に対応するPart No.は、1034・1244・8017・9851・1060・1073・8018というように、けた数も先頭の数字もばらばらに飛んでいる。寸法順に並べても、Part No.の並び順は一切そろわない。型番プレートや見積書に印字されるのは、たいていPart No.のほうだ。見積書の数字だけを見て寸法を推測しようとすると、実は寸法を語っている側の呼び名(Catalog No.)を見落としていることになる。
「要確認」だった一台——JB8018.585という正体
ここまでの調査の副産物として、もう一つの宿題が片付いた。300×250×150mm相当とされながら、公式カタログで一致する型番が確認できずにいたエンクロージャだ。
先に触れた仕様ガイドの対応表を、300×250×150mmという寸法の組み合わせで探したところ、「JB121006HC」というCatalog No.が見つかった。高さ12インチ(300mm)・幅10インチ(250mm)・奥行6インチ(150mm)。対応するPart No.は8018.585。実際にこの型番をデータシート発行システムに照会すると、幅250mm・高さ300mm・奥行150mm、保護等級IP66(NEMA4)、材質は鋼板(炭素鋼)、色はRAL7035という仕様が返ってきた。数字の組み合わせとしては、探していた「300×250×150mm相当」と一致する。
ただし、素直に喜べる結末でもない。このJB8018.585は、AEシリーズでもCS系列でもなく、「JB(Junction Box)」という別のシリーズに属する製品だった。リタール自身の製品説明文には、「AEシリーズとKLシリーズの利点を組み合わせた、経済的なジャンクションボックス」だと書かれている。つまりJBシリーズは、AEシリーズに似た小型エンクロージャでありながら、カタログ上は別枠として扱われている。300×250×150mmという寸法に該当する製品を、AEシリーズやCSシリーズという枠の中だけで探していたら、見つからなかったかもしれない。要確認だった一台の正体は、隣の棚にあった。
現場で間違えやすい点
ここまでの経緯を、実務で起きやすい取り違えとして三つにまとめておく。
一つめは、冒頭で触れた「型番の数字がそのまま寸法を表す」という思い込みだ。国内メーカーの製品に慣れていると、型番から寸法が引けるという発想が自然に出てくる。だがリタールのPart No.は、その発想では読み解けない。寸法を知りたいときは、型番から逆算しようとせず、公式データシートかCatalog No.のほうを確認したほうが早い。
二つめは、CSという呼び方そのものへの過信だ。8017.544を含む一群の製品を、当サービスを含む商社側では便宜的に「CSシリーズ」と呼んでいるが、リタールの公式データシートにCSという表記は一度も出てこない。データシートの見出しは一貫して「WM」だった。CSという呼び名は、壁掛け・フロアスタンディング型の標準エンクロージャ群をまとめて指す分類名として扱われている可能性があり、型番プレートやデータシートに印字される正式なシリーズ名とは別物だと考えたほうがよい。発注や現物照合の場面では、型番の数字(8017.544)そのものを基準にする必要がある。
三つめは、保護等級の読み替えだ。8017.544の公式データシートには、NEMA 1・3R・4・12という記載しかなく、IP66という表記はどこにも見当たらなかった。NEMA等級とIP等級は試験方法自体が異なる別の体系であり、この点は別記事「NEMA規格とIP等級(IEC 60529)の対応表はなぜ単純に使えないのか」でも詳しく扱っている。8017.544を「IP66相当」として扱っている資料を見かけたら、その根拠がリタールの公式データシートなのか、流通側の近似表記なのかを、一度切り分けて確認したほうがよい。
実務上の注意点
型番から仕様を確定させる作業は、思っているより地道な照合作業になる。今回の調査でも、同じ8017.544という型番を複数のリージョン(地域別サイト)で照会したところ、北米向け(us-en・ca-en)では実在したが、シンガポール向け(sg-en)・欧州向け(en-en・de-de)・日本向け(jp-ja)ではいずれも404、つまり型番自体が存在しない扱いになっていた。リタールのようにグローバルに展開するメーカーでは、同じ製品でも地域ごとにカタログの型番体系が分かれていることがあり、ある地域の資料では確認できなかった型番が、別の地域の資料には載っている場合がある。国内で入手した資料だけで「該当なし」と判断する前に、メーカー側に地域をまたいだ確認を依頼する余地は残しておいたほうがよい。
また、今回参照したデータシートは、型番を指定するとその場でPDFが生成される仕組みのものであり、記載されている日付は正式なカタログの改訂日ではなく、生成(取得)した当日の日付になる。仕様そのものは公式の最新データを反映しているが、「いつの版か」を厳密に管理したい場合は、取得日と型番の組み合わせで記録を残しておくことをすすめる。
リタール製エンクロージャの型番確認・見積りについて
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、現物プレートに残ったリタールのAEシリーズ・CS系列(WMシリーズ)・JBシリーズなどの型番から、寸法・保護等級の照合、代替品の相談を見積フォームで受け付けている。型番の判読に迷う場合や、要確認のまま止まっている型番がある場合は、現物の写真やプレートの拡大画像を添えてもらえると照合が早い。
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