配線盤の更新現場で、手元にヒートガンがなかったからと電工がライターの炎をチューブに近づけた瞬間、表面が黒く縮れて焦げ臭が漂った。慌ててドライヤーの冷風に持ち替えたが、今度はいつまで経ってもチューブが縮まない。同じ「熱で縮むチューブ」のはずなのに、加熱源をひとつ変えただけでここまで結果が違う。なぜだろうか。
熱収縮チューブとは——そしてスミチューブとは何のブランドか
熱収縮チューブは、あらかじめ広げた状態に成形されたチューブで、一定温度以上に加熱すると分子構造の記憶によって元の細い径へと戻ろうとする性質を利用した部材だ。電線の端末処理・絶縁・識別マーキング・防水封止など、電気工事の現場で日常的に使われている。
「スミチューブ」はこの熱収縮チューブの業界で広く知られたブランド名だが、製造元は住友電気工業本体ではない。1999年に同社の高分子機能製品関連事業を分社して設立された住友電工ファインポリマー株式会社が、技術資料の窓口も含めて実際の製造・供給を担っている。ブランドの看板と製造の実態が分かれている点は、規格適合の問い合わせ先を探すときに意外と見落とされがちだ。
製品体系の見取り図——標準・難燃・防水・厚肉の4系統
スミチューブの型番は多岐にわたるが、現場で扱う頻度の高いものは次の4系統に整理できる。
| シリーズ | 位置づけ | 収縮に関する特徴 | 連続使用可能温度 |
|---|---|---|---|
| スミチューブA | 標準・非難燃 | 収縮比2:1、収縮温度115℃以上 | -55〜105℃ |
| スミチューブB | 一般用難燃 | 内径収縮率約40%、塩素系・特定臭素系難燃剤不使用 | -45〜120℃ |
| スミチューブW | 防水(二層構造) | 内層が熱溶融し封止、内径収縮率60%以上 | -55〜105℃ |
| スミチューブSA3 | 防水・接着剤付き | 収縮率75%以上、金属・樹脂に接着 | -40〜130℃ |
| イラックススリーブ SBI300/350 | 厚肉・ブスバー絶縁 | 収縮率60%以上、UL224難燃試験合格 | -40〜120℃ |
なお公式FAQでは、名称の似た3製品の違いとして「スミチューブ=熱収縮チューブそのものの登録商標」「イラックスチューブ=収縮しない耐熱チューブ」「イラックススリーブ=肉厚タイプの熱収縮チューブ」という整理がされている。発注時にこの3つを取り違えると、届いた現物が加熱しても縮まないという事態になりかねない。
選び方——内径のサイズ合わせと収縮方法
サイズ選定の基本は単純だ。収縮前の内径を、被覆したい電線や端子部の外径のおおむね1.1〜1.5倍にする。大きすぎれば収縮させても浮きが残り絶縁性能が落ちるし、小さすぎればそもそも通らない。カタログ記載の「収縮後内径」が対象物より小さいことを、発注前に必ず確認しておきたい。
加熱方法についても選択肢はひとつではない。公式FAQによれば、効率よく収縮させる方法として工業用ドライヤー・量産型加熱炉・恒温槽が挙げられており、加熱液体媒体を使う方法もあるが、絶縁・防水・防食用途ではこの方法は推奨されないとされている。現場での少量施工ならヒートガン、量産ラインなら加熱炉というように、数量と用途で加熱手段を変えるのが実務的だ。
比較——一般・難燃・防水・厚肉、どれを選ぶか
一般用途で難燃性を求めないならスミチューブA、自動車部品やハーネスなど難燃性が要求される場面ならスミチューブB、というのが基本の分岐になる。ここに防水という条件が加わると話は少し変わってくる。
ケーブル端末の防水封止にはスミチューブW、コネクタ接続部のような段差の大きい部位まで含めて防水したいならSA3——同じ「防水系」でも対応できる形状の複雑さが異なる。さらに難燃グレードを厳密に問う場面では、UL224規格の垂直難燃試験(VW-1)に合格しているかどうかが判断材料になる。1分以内に消炎するという基準に由来するこの表記は、公共性の高い設備や輸出案件で確認を求められることが多い。
配電盤内のブスバー(母線)のように、一般の熱収縮チューブでは肉厚が心もとない箇所には、厚肉のイラックススリーブという選択肢がある。SBI300は24kV以下、SBI350は36kV以下という対応電圧クラスで分かれており、UL224難燃試験合格・ハロゲンフリー仕様のため、盤内の絶縁強化を検討する際の候補になる。
注意点——ヒートガンの当て方と、やってはいけない加熱
冒頭のライターの例のように、直火での加熱は温度が局所的に上がりすぎてチューブを変質させる原因になる。ヒートガンや工業用ドライヤーを使う場合も、一点に熱を集中させず、チューブの中央から両端に向かって空気を追い出すように均一に動かすのが基本の当て方だ。内部に空気が残ったまま収縮させると、仕上がりに浮きや気泡が残ってしまう。
もうひとつ見落とされがちなのが、加熱前の切断面の状態だ。カット面に傷がついていると、加熱時にその傷を起点にチューブが裂けることがある。一度できれいに切断する、あるいは切断後に傷の有無を確認してから加熱に入るという手順を挟むだけで、この種の失敗は大きく減らせる。
まとめ
スミチューブは「標準(A)・難燃(B)・防水(W/SA3)・厚肉(イラックススリーブ)」という4系統で整理すると選定に迷いにくい。サイズは内径を対象物の1.1〜1.5倍で合わせ、加熱は直火を避けてヒートガンや工業用ドライヤーで中央から均一に。この2点さえ押さえれば、現場での失敗のかなりの部分は防げる。
あわせて読みたい
関連するスミチューブ・熱収縮チューブ・選び方の品種・型番をお探しですか?
電材サーチでは、メーカー横断で目的の型番を素早く見つけ、そのまま見積もりを依頼できます。