テナントから「エアコンの効きがおかしい」「コピー機の調子が悪い」と連絡が入る。現場に行って計ってみると、確かにコンセントの電圧が普段より高い。原因を探ってキュービクルを開け、変圧器の銘板をのぞき込む。そこに並んでいるのは「タップ」と刻印された、見覚えのない端子の列だ。
配線図には載っていても、意識して触ったことはない部品かもしれない。電圧を上げたり下げたりする装置が、変圧器の中にひっそり組み込まれている――この事実に、多くの現場担当者は工事の当日に初めて向き合うことになる。
なぜ受電電圧は「ちょうど良い」に収まらないのか
そもそも、なぜ電圧を調整する仕組みがわざわざ必要なのか。電力会社が送ってくる電気は、決められた値できっちり届いているはずではないのか。
答えは半分正しく、半分間違っている。電気事業法施行規則第38条は、電気を供給する場所において標準電圧100Vなら101V±6V(95〜107V)、標準電圧200Vなら202V±20V(182〜222V)を維持するよう電力会社に義務づけている。つまり、需要家の受電地点ではこの範囲に収める約束になっている。
問題はその先だ。三菱電機FAのFAQが説明する通り、タップ切換は受電電圧の変動に対応するために行われる。日本の配電系統は公称6600Vで送り出されているが、変電所からの距離や周辺の負荷状況によって、実際に受電する高圧側の電圧は現場ごとに微妙に異なる。受電地点で基準を満たしていても、そこから変圧器・幹線・分岐回路を経て末端のコンセントに届くまでには、配線の長さと負荷電流に応じた電圧降下が積み重なる。電力会社の義務が及ぶのは受電地点までであり、そこから先、建物の中でどう電圧を整えるかは需要家側の設計と運用にゆだねられている。
タップは、この「受電地点から先」を調整するために変圧器に組み込まれた仕組みだ。
タップとは何か――巻線に開けたもう一つの入り口
変圧器は、一次巻線と二次巻線という二組のコイルが鉄心を介して電磁的に結びついた機器で、一次電圧と二次電圧の比は、両者の巻数の比(巻数比)で決まる。
タップは、この一次巻線の途中から引き出した複数の接続点だ。Wikipediaの解説にある通り、巻線のどこにタップを設けるかによって、実際に使われる一次側の有効巻数を段階的に変えられる。使うタップを変えれば巻数比が変わり、巻数比が変われば二次電圧も変わる――でんきメモの解説が示す計算例では、6600Vタップ・二次定格210Vの変圧器で変圧比は約31.4になる。ここでタップをより低い電圧(たとえば6300V)に切り替えると変圧比が下がり、同じ一次電圧でも二次側に現れる電圧は上がる。
実務でよく使われる標準的なタップ電圧は、公称6600Vを基準に6900V・6750V・6600V・6450V・6300Vという5段階だ。でんけんマッスルの解説によれば、これは±4.5%・±2.3%という刻みで、受電電圧がやや高めの現場では低いタップ番号を、やや低めの現場では高いタップ番号を選ぶことで、二次側の電圧を狙った範囲に近づけていく。
無電圧タップ切換器(NVタップ)――「無電圧」でなければならない理由
一般的な工場やビルの変圧器に搭載されているのが、無電圧タップ切換器だ。現場ではNVタップとも呼ばれる。
名前の通り、この装置は変圧器を無電圧・無励磁の状態にしてからでなければ操作できない前提で作られている。ダイヘンの製品Q&Aが案内する操作手順は、ハンドルを引き上げ、希望するタップ位置番号までハンドルを回し、タップ位置指示穴にハンドルを差し込む、という三段階だ。単純な機械操作に見えるが、この単純さは「電流が流れていない」ことを条件に成り立っている単純さである。
通電中に切替を試みるとどうなるか。タップを一段階移すという操作は、機構上、切替の途中で隣り合う複数のタップ間を一瞬つなぐ動作を伴う。電流が流れている状態でこれをやれば、その瞬間にアークが発生し、接点を焼損させる。油入変圧器であれば、そのアークが絶縁油そのものを汚損し、内部の絶縁性能を落とす。無電圧タップ切換器という名称は、単なる分類名ではなく、通電中の操作を想定していないという設計上の制約そのものを表している。
だからこそ、実際の切替作業は必ず停電から始まる。ダイヘンの別のQ&Aが示す手順では、無電圧を確認したうえでタンク上部のカバーやハンドホールを開き、タップナットを緩め、銘板の接続表に従って切換片を目的のタップ位置へ移し、ナットを締め直してカバーを閉じる。工程自体は数十分で終わる軽作業だが、無電圧を確認するという最初の一手を欠かせば、その先の全工程が危険な作業に変わる。
タップ切替を誤ると何が起きるか
タップの向きを一段間違える、あるいは長年放置して現状に合わなくなる。どちらのケースでも、結果は「過電圧」と「電圧不足」のどちらかに寄る。
過電圧側の被害は、目に見えにくいところから進む。Panasonicの解説によれば、白熱電球は定格電圧より5%高い電圧をかけ続けると寿命が定格の約50%に、10%高いと約30%にまで縮む。LED照明の場合も、内蔵された電子回路(ドライバ)が過電圧や電流変動に弱く、想定を超える電圧が続けば短期間での故障につながる。冒頭のテナントからの苦情も、多くはこの過電圧側で起きる。照明が早く切れる、精密機器の保護回路が働いて止まる、といった形で表面化する。
電圧不足側の被害は、もう少し静かに進行する。電験教室の解説が指摘する通り、電圧が低い状態で同じ負荷を動かそうとすると、その分だけ電流が増える。電流が増えれば変圧器自体の温度が上昇し、内部の絶縁油・絶縁紙の劣化を早める。モーター類は始動しにくくなったり、始動時の電流がさらに膨らんだりし、制御機器では電圧不足による誤動作や停止が起きることもある。過電圧のように「壊れた」と即座にわかる形ではなく、じわじわと寿命を縮めながら進むのが、電圧不足の厄介なところだ。
負荷時タップ切換装置(OLTC)との違い
ここまで見てきたNVタップは、停電させて操作する前提の装置だった。一方、電力会社の配電用変電所などに置かれる大型の変圧器では、通電したまま電圧を調整できる負荷時タップ切換装置(OLTC)が使われる。
「目指せ!電気主任技術者」の解説ノートによれば、OLTCは無電流状態でタップを選ぶタップ選択器、実際の負荷電流を開閉する切換開閉器、切替の瞬間に生じる循環電流を制限する限流インピーダンスという、3つの機構の組み合わせで成り立っている。タップを移す瞬間も電流の流れを絶やさないよう、段階的に回路を渡していく仕組みだ。配電用変電所ではタップ数も10〜20段と多く、電圧調整範囲は25%または15%を標準とすることが多いとされ、近年はこのOLTC付き変圧器が主として採用されているという。
なぜキュービクル内の変圧器はOLTCを使わないのか。答えは単純で、停電を許容できるかどうかの差だ。工場やビルの受変電設備であれば、切替のたびに数十分の停電を計画すればよい。だが変電所の変圧器を止めれば、その下流にぶら下がる無数の需要家すべてが停電する。止められない設備だからこそ、構造が複雑で高価なOLTCを載せる価値がある。逆に言えば、一般の需要家設備でNVタップを選ぶのは、コストを抑えつつ、停電さえ計画できれば十分事足りるという実務上の割り切りでもある。
切替作業の実務上の注意点
NVタップの切替そのものは、有資格者が行えば難しい作業ではない。ただし、いくつかの落とし穴がある。
まず、無電圧の確認は目視や思い込みではなく、テスターや検電器で実際に電位差がないことを確かめてから行う。次に、タンク内部での作業になるため、ナットやワッシャーといった小部品を油入変圧器の内部に落とさないよう、落下防止の対策をしたうえで工具を選ぶ。ダイヘンのQ&Aでも、汗や水滴、金属片が内部に入り込まないよう注意することが案内されている。
そして見落とされがちなのが、切替後の記録だ。今どのタップ位置に設定してあるかは、銘板や保守記録に残しておかなければ、次に電圧トラブルが起きたときに「そもそも今どの設定か」から確認し直す羽目になる。設置工事の担当者と、その後の保守を担う電気管理技術者が別人になるケースは珍しくない。設定変更の日付・理由・変更前後のタップ位置を記録に残しておくことが、将来の自分たちを助ける。
そしてもう一つ、電験教室の解説が示すように、設置時に最適だったタップ設定は、負荷の増減や周辺環境の変化によって、数年後には最適でなくなっていることがある。タップは「工事のときに一度合わせたら触らない部品」ではなく、設備更新や電圧クレームのたびに現状を確認し、必要なら調整し直す対象だと考えたほうが実態に近い。
変圧器・タップまわりの部材調達について
「既設変圧器のタップ設定を見直したいが、現物のタップ電圧一覧を確認してほしい」「変圧器の更新に合わせて、無電圧タップ切換器付きと負荷時タップ切換器付きのどちらを選ぶべきか相談したい」といったご相談を、電気管理技術者・設備工事ご担当者様からよくいただきます。
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、油入変圧器・モールド変圧器を含む受変電設備の関連資材を幅広く取り扱っている。既設設備のタップ電圧・容量・接続方式を確認したうえで、更新用変圧器の選定からまとめての調達までご相談いただける。
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