工場の幹線工事に同行することになった新人が、いつも住宅の屋内配線で使っているのと同じ、細くて柔らかいVVFケーブルを持って行こうとした。すると先輩に「それじゃダメだ」と止められた。
VVFもCVも、どちらも「600V」の低圧ケーブルで、外被(シース)はビニルだ。見た目は同じ仲間のはずなのに、なぜ幹線ではVVFが使えず、もっと太くて硬いCVでなければならないのか。違いは外側ではなく、導体をくるむ絶縁体のほうにある。
低圧屋内配線でよく使われるケーブルには、それぞれ得意な用途がある。
- VVF: 600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル平形。2心は黒・白、3心は黒・白・赤の被覆色で心線を区別する。住宅・店舗の屋内配線で最も一般的。
- VVR: VVFと同じ絶縁材料で丸形の外装。許容温度は60℃で、屋外露出配線・管内通線などVVFより取り回しやすい用途に使われる。
- CV: 600V架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル。絶縁体が架橋ポリエチレンで最高許容温度90℃と高い。工場・ビルの幹線など長距離・大電流用途に使われる。
心線の被覆色は、施工時の結線ミスを防ぐための重要な識別情報でもある。VVFのように屋内の分岐配線に向くケーブルと、CVのように発熱に強く幹線に向くケーブルを、電流の大きさと距離に応じて使い分けることが、この分野の基本になる。
学校と地下街の図面には、VVFではなくEMと書かれている
公共施設や学校、地下街の設計図面を開くと、VVFやCVの代わりにEM-EEF・EM-CEという記号が並んでいることがある。EMはエコマテリアル(Eco Material)の頭文字。シース(外装)に耐燃性ポリエチレンを使った、通称エコケーブルだ。
指定される理由は、電気の性能ではない。VVFやCVのシースに使われるビニル——正式にはポリ塩化ビニル——は、分子の中に塩素を含む。火災で燃えると、塩化水素をはじめとするハロゲン系の有毒ガスと濃い煙を出す。逃げ道が限られ、避難に時間のかかる場所——学校、地下街、病院——では、ケーブルの燃え方そのものが人命に関わる。耐燃性ポリエチレンは塩素を含まないため、燃えてもハロゲンガスやダイオキシンを発生せず、煙も少ない。鉛などの重金属も含まないから、解体・廃棄の場面でも環境に残さない。「燃えたときに何を出すか」「捨てるときに何を残すか」で選ばれるケーブルである。
代表は2つ。どちらも、すでに見た顔ぶれの生まれ変わりだ。
- EM-EEF: 600Vポリエチレン絶縁耐燃性ポリエチレンシースケーブル平形。VVFのエコ版で、外観はそっくりの平形。絶縁体がビニルからポリエチレンに替わり、絶縁物の最高許容温度は75℃に上がる(ビニルは60℃)。
- EM-CE: 600V架橋ポリエチレン絶縁耐燃性ポリエチレンシースケーブル。CVのエコ版。絶縁体は架橋ポリエチレンのままなので最高許容温度も90℃のままで、幹線用途の実力はCVと同格だ。
記号の読み方はVVFと同じ要領で、絶縁体・シース・形状の材料が並んでいる(EEF=ポリエチレン絶縁・ポリエチレンシース・平形、CE=架橋ポリエチレン絶縁・ポリエチレンシース。実物のシースには「EM 600V EEF/F」のように印字される)。そして絶縁材料が分かれば、温度も分かる。ビニル60℃、ポリエチレン75℃、架橋ポリエチレン90℃。この3段の階段に、このトピックに登場したケーブルは全部載っている。学科試験で繰り返し問われる「EM-EEFの絶縁物の最高許容温度は75℃」も、階段ごと覚えてしまえば暗記は1段で済む。
階段には、管の中を通る電線も載っている
3段の階段は、ケーブルだけのものではない。金属管やVE管の中を通す絶縁電線も、同じ物差しの上に並ぶ。そして試験は、ケーブルと絶縁電線を同じ4択に混ぜて「絶縁物の最高許容温度が最も高いものは」と聞いてくる。
住宅の分電盤から先で使うIV——600Vビニル絶縁電線——の絶縁体はビニルだから60℃で、VVFやVVRと同じ段に立つ。ところがここに、名前が2文字違うだけの電線が割り込んでくる。HIV、600V二種ビニル絶縁電線だ。「二種」と付くだけで絶縁体は普通のビニルから耐熱ビニルに替わり、許容温度は75℃に上がる。製造者の仕様書でも、IVはJIS C 3307で60℃、HIVはJIS C 3317で75℃と、規格番号ごと分かれている。
つまり「ビニル絶縁は60℃」という覚え方は、正確には「普通のビニル絶縁は60℃」だ。名称の中の「二種」を読み飛ばすと、同じ「ビニル」の3文字で60と75を取り違える。
| 電線・ケーブル | 絶縁体の材料 | 絶縁物の最高許容温度 |
|---|---|---|
| 600Vビニル絶縁電線(IV) | ビニル | 60℃ |
| 600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル(VVF・VVR) | ビニル | 60℃ |
| 600V二種ビニル絶縁電線(HIV) | 耐熱ビニル | 75℃ |
| 600Vポリエチレン絶縁耐燃性ポリエチレンシースケーブル平形(EM-EEF) | ポリエチレン | 75℃ |
| 600V架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル(CV) | 架橋ポリエチレン | 90℃ |
| 600V架橋ポリエチレン絶縁耐燃性ポリエチレンシースケーブル(EM-CE) | 架橋ポリエチレン | 90℃ |
| MIケーブル | 酸化マグネシウムなどの無機物 | この表の中で最も高い(有機絶縁体の階段の外) |
MIケーブルはこの表で唯一、絶縁体が有機物ではない。電気設備の技術基準の解釈第9条第3項第二号は、その構造を「導体相互間及び導体と銅管との間に粉末状の酸化マグネシウムその他の絶縁性のある無機物を充てんし、これを圧延した後、焼鈍したものであること」と定めている。粉の絶縁物を銅管に詰めて押し固めた電線、ということだ。
ビニルもポリエチレンも、要はプラスチックだ。熱で軟らかくなり、やがて劣化する。60・75・90という数字は、その軟化と劣化がどこから始まるかの線引きにすぎない。酸化マグネシウムの粉には、その線がない。焼いても燃えず、軟らかくもならない。学科試験で低圧の電線・ケーブルを並べて最高許容温度を比べる設問にMIケーブルが1つ混じっていたら、他が何であれ最も高いのはMIケーブルだ——プラスチックと鉱物を同じ土俵で比べているのだから、勝負は材料の段階でついている。
同じ性質は、条文の別の場所にも顔を出す。ケーブルをコンクリートに直接埋め込むことは原則できないが、第164条第2項第一号は例外としてMIケーブル・コンクリート直埋用ケーブル・がい装を有するケーブルを挙げている。熱にもコンクリートの中の環境にも耐える1本として、条文が名指ししているわけだ。
土に潜る区間だけは、選択肢そのものが消える
ここまでは「どれを選ぶか」の話だった。だが配線図をたどっていくと、選ぶ前に候補が半分消える場所が1つある。引込柱から建物へ、あるいは母屋から離れの倉庫へ——庭や駐車場を横切るために、線が地面の下をくぐる区間だ。
電気設備の技術基準の解釈は、そこをこう書いている。
地中電線路は、電線にケーブルを使用し、かつ、管路式、暗きょ式又は直接埋設式により施設すること。 ——第120条第1項
一文目が効いている。使うのはケーブル。600Vビニル絶縁電線(IV)も屋外用ビニル絶縁電線(OW)も、ここでは候補にすら入らない。しかも「かつ」でつながれているとおり、ケーブルを使うことと3つの施設方式のどれかによることは、並んで課される条件だ。管に入れたから絶縁電線でよい、という読み替えはできない。
理由は構造にある。絶縁電線は、導体に絶縁体を1枚着せただけの電線だ。その外側を守るものがない。ケーブルには、絶縁体の上にシースがある——CVならビニルのシース、EM-CEなら耐燃性ポリエチレンのシース。土の中は、石があり、水があり、いつか誰かがスコップを入れる場所である。絶縁体が直接その環境に触れる構造では、傷1つが漏電になる。ここまで温度の階段を上り下りしてきたが、地中では階段に乗る前に、シースを持っているかどうかで足切りが起きる。
条文は続けて、そのケーブルを守る方法まで指定している。管路式なら「電線を収める管は、これに加わる車両その他の重量物の圧力に耐えるものであること」(第120条第2項第一号)。直接埋設式なら「地中電線の埋設深さは、車両その他の重量物の圧力を受けるおそれがある場所においては1.2m以上、その他の場所においては0.6m以上」(第4項第一号)で、あわせて堅ろうなトラフその他の防護物に収めるなどの防護が要る(第4項第二号)。ケーブルであること、管が潰れないこと、深さがあること、防護物があること——地中の1本は、この四重の守りの中にいる。
では、そのケーブルの中からなぜCVが選ばれるのか。決め手は温度と電流だ。CVの絶縁体は架橋ポリエチレンで、絶縁体の許容温度は90℃(JIS C 3605)。製造者の説明でも、CVは低圧のVVケーブルに比べて耐熱性に優れ、許容電流を大きくとることが可能とされている。同じ太さでより多くの電流を流せて、温度の余裕も大きい。地中の1本は、いったん埋めてしまえば取り替えに掘り返しが要る。何十年も触れない場所に置く1本ほど、余裕のある側を選んでおく判断が効いてくる。3本をより合わせたCVTが引込や幹線で使われるのも同じ流れの上にある。
配線図では、この地中区間の管に(FEP)という傍記が付く。管そのものの読み方は電線管工事の種類と使い分けで扱う。図面の上でこの3文字を見つけたら、その線は地面の下にいて、通っているのはケーブルだ、と2つ同時に確定する。
断面の形が、用途を語る
ケーブルの写真問題では、断面(外装)の形がいちばん速い手がかりになる。
| 外観 | 何か | 主な用途 |
|---|---|---|
| 平たい(長方形の断面) | VVF(Fは Flat) | 屋内の造営材沿い。住宅配線の主役 |
| 丸い(円形の断面) | VVR(Rは Round) | 屋外露出、管内通線、引込口 |
| 細く柔らかい丸形コード | ビニルコード・キャブタイヤコード | 移動して使う機器、小勢力回路(インターホン・チャイム) |
| より合わせた3本 | CVT | 高圧でよく使われるが、低圧の引込・幹線にも出る(配線図で「600V CVT14」のように傍記される) |
- 壁や天井に沿わせて固定する → 平たいほうが納まりがいい → VVF
- 管に通す・引き回す → 丸いほうが引きやすい → VVR
- 人が動かす・機器につなぐ → 柔らかくないと切れる → コード類
だからインターホンやチャイムのような小勢力回路には、細い丸形のコードが使われる。 平たいVVFは固定配線用なので、ここには出てこない。 「どのケーブルを使うか」と問われたら、まずその配線が固定か可動かを確かめる。
シースの印字を読むと、その1本の素性が分かる
ケーブルの外装(シース)には、メーカー名・ケーブルの種類・導体サイズ・心線数が一定間隔で印字されている。この文字列が読めるようになると、目の前の1本が何者かを、切らずに触らずに判定できる。今日試せることとして、家の中や現場の端材に転がっている電線の印字を一度読んでみるといい。「VVF」「1.6」「2C」といった要素の並びが、そのまま「住宅の屋内分岐配線用の平形、直径1.6mm、2心」という意味になっている。
種類が読めれば、次に来る問いは「この太さで足りるか」だ。同じVVFでも導体が太いほど流せる電流は大きくなり、細い電線に無理な電流を流せば、そこが発熱の起点になる。許容温度60℃のケーブルと90℃のCVが別物として扱われるのも、突き詰めれば同じ理由だ。試験がこの区別を問うのは、絶縁被覆の劣化という、目に見えないまま何年もかけて進む事故の芽を、選定の段階で摘ませるためだといえる。必要な太さは許容電流の計算ツールで確かめられる。
太陽光発電、EV充電設備、蓄電池——直流や大電流を扱う設備が増えるほど、「どのケーブルを選ぶか」という判断の出番は増えている。実際に流通しているケーブルの種類は、サイト内のケーブル一覧からも見渡せる。
冒頭の幹線工事で、なぜVVFではなくCVでなければならなかったのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。