分電盤のブレーカーを落として、これから配線作業に入ろうとしていた。分岐回路がいくつも並んだ分電盤で、目当ての回路のブレーカーを落としたつもりだった。
検電器を取り出す前に、先輩から「待て」と止められた。よく見ると、落としたのは隣の分岐回路のブレーカーだった。もしそのまま検電せずに電線に触れていたら、何が起きていたのか。
電気工事の現場では、電線を切る・剥く・曲げる・接続するために、それぞれ専用の工具が使われる。
- ペンチ・電工ナイフ・ワイヤーストリッパー: 電線の切断や被覆剥ぎに使う基本工具。ワイヤーストリッパーは電線サイズに合わせた溝で芯線を傷つけずに素早く剥ける。
- 圧着工具(リングスリーブ用/圧着端子用): グリップの色で用途が分かれる。リングスリーブ用は黄色、圧着端子用は赤色に統一されており、色を見るだけで取り違いを防げる。
電線まわりの工具はこれで足りるが、試験の工具問題の主戦場はもう1つある。管を敷く仕事の工具だ。名前だけ並べると迷子になるので、金属管工事の一日を工程順に追いながら見ていく。
金属管工事の一日を、工具の名前でたどる
- 切る — 金切りのこやパイプカッタで、管を必要な長さに切断する
- 曲げる — パイプベンダに管を差し込み、力をかけて少しずつ曲げていく。建物の形に合わせた曲がりを、管の側に作る工程だ
- 整える — 切り口の内側には鋭いバリが残っている。クリックボール(先端工具を手で回すハンドル)にリーマを取り付けて、バリを削り取る。これを怠ると、通線のときに電線の被覆が切り口で傷つく
- 開ける — 管をボックスや盤につなぐには穴が要る。分電盤・プルボックスの鋼板にはノックアウトパンチャー、金属板への丸穴あけには電動ドリルに取り付けるホルソ。木造の桟や板に管や電線を通すなら、クリックボールに羽根ぎりを付け替えて手で開ける
クリックボールが2回登場したことに気づいただろうか。リーマも羽根ぎりも、それ自体は回転する刃にすぎない。回す動力を人の手で与えるのがクリックボール、電気で与えるのが電動ドリルで、「何を先端に付けるか」の組合せが試験でも問われる。
管の素材が変われば、握る工具も変わる
- ガストーチランプ: 硬質ポリ塩化ビニル電線管(VE管)を加熱して柔らかくし、曲げるために使う。金属管は力で曲げ、樹脂管は熱で曲げる
- プリカナイフ: 2種金属製可とう電線管(プリカチューブ)を切断する専用ナイフ
- 張線器: 架空線工事で、電線やメッセンジャワイヤのたるみを取るために使う
パイプベンダとガストーチランプは、どちらも「管を曲げる場面」の工具だ。写真問題で並んだとき、金属なら力、樹脂なら熱、と素材から引けば取り違えない。
「切る」に戻る — この1工程が、消去法の足場になる
工程順に並べた1番目の「切る」を、もう一度開く。曲げると同じで、切る道具も管の材料で分かれている。
| 切る対象 | 使う工具 |
|---|---|
| 金属管(厚鋼・薄鋼・ねじなし) | 金切りのこ、パイプカッタ |
| 硬質塩化ビニル電線管(VE管) | 合成樹脂管用カッタ(塩ビカッタ) |
| 2種金属製可とう電線管(プリカチューブ) | プリカナイフ |
| 電線・ケーブル | ペンチ、ケーブルカッタ |
引っかかりやすいのはパイプカッタだ。「パイプ」は樹脂の管にも使う言葉なので、名前から樹脂管用と覚えてしまいやすい。だが工具メーカーの用途説明でも、パイプカッタは金属管を切断するのに使用する工具とされている。樹脂の管を切るのは、別に用意された合成樹脂管用カッタのほうだ。名前が似ているぶん、覚え違いに気づく機会がないまま本番まで来てしまう。
この対応関係が効いてくるのが、配線図の否定形の設問である。図の一区間を指して、その部分の工事で一般に使わないものはどれか、と写真4枚から選ばせる形式で、令和7年度上期の学科試験でも複数出ている。4枚のうち3枚は本当に使う工具だから、1枚ずつ吟味していくと全部それらしく見えてくる。
順序を逆にすると崩れる。
- 先に区間の工事を言い切る — ケーブル工事か、金属管工事か、合成樹脂管工事か、地中埋設か
- 4枚を「何を・どうする道具か」に置き換える — 切る対象の材料まで含めて言う
- その工事に登場しない材料を相手にしている1枚を落とす
たとえば、地中に波付硬質合成樹脂管(FEP)を埋めてケーブルを通す区間。ここで動くのはスコップ、ケーブルカッタ、通線のための呼び線挿入器あたりで、金属管は最初から出てこない。したがってパイプカッタ・パイプベンダ・リード型ねじ切り器・クリックボール+リーマといった金属管の道具は、まとめて圏外になる。逆に金属管の区間なら、ガストーチランプや合成樹脂管用カッタが場違いな1枚になる。工具を覚えるとは、名前と写真を結ぶことではなく、工具を管の材料に結び直すことだと言い換えてもいい。
検電器は、回路に電圧がかかっているかどうかを、電線に触れずに確認するための安全機器だ。内部のネオンランプが電圧に応じて直接点灯するネオン式と、電池を使って音と光で知らせる音響発光式がある。作業前の通電確認は感電災害防止の基本動作であり、検電を怠った作業は重大事故につながる。
被覆をはぐ工具は3つに分かれる — 写真で見分ける決め手
「電線をはぐ工具」とひとくくりにすると、写真の4択で必ず迷う。実際には、何をはぐかで道具が分かれている。
| 工具 | はぐもの | 外観の決め手 |
|---|---|---|
| 電工ナイフ | ケーブルの外装(シース)全般 | 折りたたみ式の刃と木や樹脂の柄。刃が1枚だけ |
| ワイヤーストリッパー | 電線1本の絶縁被覆 | 口の内側に、電線サイズごとの半円の溝が段違いに並ぶ |
| ケーブルストリッパー | ケーブルの外装 | 口が丸い穴になっていて、その内側に刃が仕込まれている |
見分けの軸は口の形だ。溝が何段も並んでいれば電線の被覆用(1.6mm用、2.0mm用…とサイズごとに溝がある)。丸い穴が1つ空いていれば、ケーブルの外装用。丸い穴なのは、VVRやCVのような丸形ケーブルをくわえて、ぐるりと一周させて切るためだ。平たいVVF用のストリッパは、口も平たい長方形になっていて、握るだけで外装と絶縁被覆を一度にはげる。
近年よく写真に出るのが、自動式のワイヤーストリッパーだ。レバー式のグリップを握ると、片方の口が電線をつかみ、もう片方が被覆を切って引き抜く——という動きを1回の握りでやってしまう。柄が明るいオレンジや赤で目立ち、口の周りに複数の可動部品が見えるのが外観の特徴になる。相手にするのは電線1本やコードの絶縁被覆で、ケーブルの外装(シース)をはぐ道具ではない。
- 溝が段違いに並ぶ口をもつストリッパ → 電線1本・コードの絶縁被覆
- 丸い口をもつストリッパ → 丸形ケーブル(VVR・CV)の外装
- 平たい口をもつストリッパ → 平形ケーブル(VVF)の外装(絶縁被覆も同時にはげる型がある)
- 折りたたみの刃1枚 → 電工ナイフ。ケーブルの外装全般に使えるが、絶縁被覆を傷めやすい
壁に取り付ける材料 — コンクリートにねじは効かない
管や器具を壁に留める場面では、壁の材質によって使う材料が変わる。ここは学科試験で「材料と工具の組合せ」として問われる。
木の下地であれば、木ねじをそのままねじ込めば効く。ところがコンクリートにねじをねじ込んでも、まったく効かない。コンクリートは削れるだけで、ねじ山を保持してくれないからだ。そこで先に振動ドリルで下穴を開け、そこへカールプラグ(樹脂製の筒)を打ち込む。プラグの中へねじをねじ込むと、プラグが押し広げられて穴の内壁に食い込み、そこで初めてねじが効く。ねじを効かせる相手を、コンクリートから樹脂のプラグにすり替えているわけだ。
組合せで押さえておくと、選択肢がほどける。
- コンクリート → 振動ドリルで下穴 → カールプラグ+ねじ → サドルで管を固定
- 金属板(分電盤・プルボックス) → ノックアウトパンチャー/ホルソで穴あけ
- 木造の桟・板 → クリックボール+羽根ぎり、または木ねじを直接
- ケーブルを木に留める → ステープル(管の固定には使わない)
工具の写真は、この1点で割れる
用途は覚えていても、写真4枚から1枚を選ぶとなると別の力が要る。材料側と同じように、工具にも「決め手を1点だけ」の表を用意しておく。
| 工具 | 写真上の決め手(他の3つには無いもの) | 相手 |
|---|---|---|
| ホルソ | 電動ドリルに差すシャンク(軸)+円筒状ののこ刃。中心にセンタードリルが1本立つ | 金属板(分電盤・ボックス)の丸穴 |
| ノックアウトパンチャ | 油圧または手動のシリンダーと、上下から挟むダイス。刃が円筒ではなく2枚1組 | 鋼板の穴あけ(打ち抜き) |
| リーマ | 円錐形(テーパー)の刃。クリックボールに付けて手で回す | 金属管切断面の内側のバリ |
| クリックボール | ハンドルがZ字に曲がった手回しの柄。先端に別の工具を差す | リーマ・羽根ぎりの駆動 |
| 金切りのこ | 細い弓形のフレームに薄い刃を張った形 | 金属管の切断 |
| パイプベンダ | 長い柄と、管を受ける半円形の溝を持つヘッド | 金属管を曲げる |
| 呼び線挿入器(通線器) | 円形のリールに巻かれた細長い線 | 管に電線を通す |
| プリカナイフ | 短く厚い刃と、可とう管を受ける形状 | 2種金属製可とう電線管の切断 |
| 合成樹脂管用カッタ(塩ビカッタ) | ラチェット付きのハンドルと、片刃が樹脂管をくわえ込む形の受け | VE管などの樹脂管の切断 |
「この区間はどの工事か」を先に読むのも効く。「ねじなし電線管(E19)による金属管工事で使用しないもの」と問われたら、金属管を切る・曲げる・バリを取る・穴を開ける道具は全部○で、樹脂管用のカッタだけが圏外になる。工具そのものより、その区間で使う材料から絞るほうが速い。
電磁開閉器の写真は、上下で名前が変わる
盤に付く機器では、電磁開閉器(MS)が写真4択に出る。これは電磁接触器(MC)とサーマルリレー(熱動継電器・THR)を組み合わせた1つの部品なので、「○で囲んだ部分の名称は」と部分を指されることがある。
- 上のブロック=電磁接触器(MC) — 主回路の端子が上下に並び、前面に補助接点や動作表示の窓
- 下のブロック=サーマルリレー(THR) — 電流整定のダイヤルとリセットボタンを持つ
設定するつまみがある側が保護(サーマルリレー)、無い側が開閉(電磁接触器)。 電磁接触器はコイルで接点を引きつけて入切するだけなので、電流値を設定する必要がない。
手元に買って試せる、数少ない分野
工具は、この試験範囲の中でほとんど唯一、今日買ってきて手で確かめられる対象だ。黄色と赤のグリップを並べて握ってみれば、圧着する対象が違うことは説明されるより早く体に入る。検電器も同じで、通電しているコンセントの差込口に当てると、片側では反応し、もう片側(接地側)では反応しない。テキストの上では「電圧側と接地側」という言葉でしかなかったものが、道具1本で目に見える現象に変わる。
検電の手順が繰り返し問われるのは、感電が「確認を省いた一瞬」に起きるからだ。ブレーカーを落としたという記憶や、電線の見た目は、通電の有無の証拠にならない。作業前に必ず検電する——という所作を身につけさせることが、この分野の出題の本当の目的といっていい。
そして良い工具は、作業速度と仕上がりを確実に変える。ワイヤーストリッパーを使えば被覆剥きの失敗が減り、リーマでバリを取れば通線した電線の被覆を傷めずに済む。近年は充電式の圧着工具や電動工具が普及し、力の要る作業ほど機械に置き換わってきている。どんな工具が実際に流通しているかは、サイト内の品種カテゴリからたどれる。
冒頭の分電盤で、検電をしないまま電線に触れかけていたらどうなっていたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。