たとえば、官庁の空調設備工事で、着工してから、図面の記述が誤りに見える箇所や、表示が不明確で読み取れない箇所を見つけたとする。工事が終わるころには、別の疑問も出てくる。
- 気づいたことは、誰に、いつ伝えるのか。伝えずに、安全そうなほうで施工してよいのか。
- 伝えたあと、工期や請負代金は変わるのか。
- 完成を通知したら、発注者は何日以内に検査し、何日以内に代金を払うのか。
- 引渡しのあとで不具合が見つかったら、いつまで直してもらえるのか。
この4つは、公共工事標準請負契約約款(以下「約款」)の条文で答えが出る。
まず一言で
- 設計図書は、図面、仕様書、現場説明書、現場説明に対する質問回答書の4つ。約款と設計図書が、契約の内容になる(1条1項)。
- 設計図書の不一致(優先順位が定められている場合を除く)・誤り・不明確、現場との相違など5つの事実(18条1項)に気づいたら、受注者は直ちに監督員に通知し、その確認を請求する。調査で事実が確認され必要があると認められるとき、発注者が設計図書を直し、必要に応じて工期・請負代金額が変わる。
- 完成後は、検査が通知を受けた日から14日以内、引渡しは申出があれば直ちに、支払は請求を受けた日から40日以内(32条・33条)。
- 引渡しのあとの不具合は契約不適合。請求できる期間は、原則として引渡しを受けた日から数える(57条。例外は本文)。
約款の日数(14日・40日など)は、標準約款の数字だ。標準約款は実施を勧告されるもので、実際の契約書の文面は契約ごとに確かめる。
約款と設計図書は、契約の中身を決める2本の柱
建設業法34条2項は、中央建設業審議会が建設工事の標準請負契約約款を作成し、その実施を勧告できると定める。
1条1項は、発注者と受注者が、この約款に基づき、設計図書に従って契約を履行すると定め、契約を「この約款及び設計図書を内容とする工事の請負契約」と定義する。約款全体にかかるルールを3つ覚えておく。
- 催告・請求・通知・報告・申出・承諾及び解除は、書面で行う(1条5項)。ただし61条は、建設業法その他の法令に違反しない限り、書面の交付に準ずる電磁的方法を認める。
- 期間の定めは、民法及び商法の定めるところによる(1条9項)。
- 仮設・施工方法等は、約款と設計図書に特別の定めがなければ、受注者がその責任において定める(1条3項)。公共工事の施工計画で扱った。
設計図書の4つの書類が食い違うとき、どれを優先するかの順序は、約款には書かれていない。約款が優先順位に触れるのは、18条1項1号の括弧書きの1か所だけだ(本文を検索して確認した)。公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)を適用する工事では、その1.1.1(2)が順序を定める(中身は上の施工計画のトピックで扱った)。
5つの事実に気づいたら — 18条の手順
18条(条件変更等)は、受注者が工事の施工に当たり、次のどれかを発見したとき、その旨を直ちに監督員に通知し、その確認を請求しなければならないと定める(1項)。
- 図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書が一致しないこと(これらの優先順位が定められている場合を除く。)
- 設計図書に誤謬又は脱漏があること
- 設計図書の表示が明確でないこと
- 工事現場の形状、地質、湧水等の状態、施工上の制約等設計図書に示された自然的又は人為的な施工条件と実際の工事現場が一致しないこと
- 設計図書で明示されていない施工条件について予期することのできない特別な状態が生じたこと
1〜3は設計図書の側、4と5は現場の側、と分けて覚えるとよい(当サイトの整理)。
③では、受注者が立会いに応じないとき、監督員は立会いなしで調査できる。⑥は、4項で設計図書の訂正又は変更が行われた場合に、発注者が、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担するという規定だ(5項)。
⑤で設計図書を直す人は、事実の号によって分かれる。
| 確認された事実 | 設計図書を直す人 | 根拠 |
|---|---|---|
| 1〜3号で、訂正が必要 | 発注者が行う | 4項1号 |
| 4・5号で、目的物の変更を伴う | 発注者が行う | 4項2号 |
| 4・5号で、目的物の変更を伴わない | 協議して発注者が行う | 4項3号 |
通知せずに施工すると、どうなるか
18条は、「直ちに」の理由も、通知しなかった場合の扱いも書いていない。条文から読めることだけを並べる。5項の工期・請負代金額の変更は、4項で設計図書の訂正又は変更が行われた場合の規定だ。また17条1項は、施工部分が設計図書に適合しないとき、監督員が改造を請求したら受注者は従わなければならないと定め、発注者が、必要があると認められるときの工期・請負代金額の変更や、損害を及ぼしたときの費用の負担をするのは、その不適合が監督員の指示その他発注者の責めに帰すべき事由によるときとする。
ここから、通知せずに自分の解釈で施工すると、あとで調整を求める足がかりが弱くなる、と読める。これは当サイトの読みで、条文が趣旨を述べているわけではない。
優先順位があるときは
1号の「(これらの優先順位が定められている場合を除く。)」は、1号にだけあり、2号・3号には付いていない。優先順位が定められている場合は、書類どうしの不一致そのものは1号の対象にならない、と読める(当サイトの読み)。優先順位で決まらない場合や疑義が残る場合は、標準仕様書を適用する工事では、その1.1.8(1)が監督職員との協議を定め、協議の結果設計図書を訂正又は変更する場合の措置は「契約書の規定による」とする(同(2))。「監督職員」には、契約書に基づく監督員も含まれる(1.1.2(1))。
やってみよう①:どの号か、設計図書を直すのは誰か
先に自分で答えてから開いてほしい。次の3つは、いずれも仮の場面だ。
(1) 設計図書に示された土質と、掘削して現れた土質が違っていた。 (2) 設計図書の記載に、明らかな計算違いがあった。 (3) 設計図書に何も書かれておらず、予期もできなかった状態が現場に現れた。
答え。
(1) 4号。工事目的物の変更を伴うなら発注者が直す。伴わないなら、協議して発注者が直す。 (2) 2号(誤謬)。訂正が必要なら、発注者が行う。 (3) 5号。(1) と同じ分け方になる。
どの場合も、受注者の最初の動きは同じだ。直ちに監督員に通知し、確認を請求する。
これで、18条の5つの事実と直す人の分け方を言える。
通知を受ける人、現場を預かる人 — 監督員と現場代理人
| 項目 | 監督員(9条) | 現場代理人(10条) |
|---|---|---|
| どちら側か | 発注者が置き、氏名を受注者に通知 | 受注者が定めて設置し、氏名等を発注者に通知 |
| 主な権限 | 指示・承諾・協議、詳細図等の作成・承諾、工程管理・立会い・検査 | 運営・取締りなど、受注者の権限(除外あり) |
| 置かない・兼ねる | 置かないとき、権限は発注者に帰属 | 監理技術者等・専門技術者と兼ねられる |
監督員は、約款の他の条項に定めるもの、発注者が必要と認めて委任したもののほか、設計図書に定めるところにより、上の表の主な権限(2項の1〜3号)を持つ(9条2項)。発注者が監督員を置いたときは、催告・請求・通知・報告・申出・承諾及び解除は、設計図書に定めるものを除き監督員を経由して行い、監督員に到達した日をもって発注者に到達したものとみなす(5項)。
現場代理人は、工事現場に常駐し、運営と取締りを行うほか、次の権限を除き、この契約に基づく受注者の一切の権限を行使できる(10条2項)。
- 請負代金額の変更
- 請負代金の請求及び受領
- 12条1項の請求の受理(現場代理人についての措置の請求)
- 12条3項の決定及び通知
- この契約の解除
常駐にも例外がある。発注者が、現場代理人の運営・取締り・権限の行使に支障がなく、かつ発注者との連絡体制が確保されると認めた場合は、常駐を要しないこととすることができる(3項)。現場代理人は、監理技術者等(監理技術者、監理技術者補佐又は主任技術者)や専門技術者を兼ねることができる(5項)。
工期と代金が動く主な入り口
主な入り口を、きっかけが誰の動きかで整理する。
| きっかけ | 条 | 条文が定める調整 |
|---|---|---|
| 受注者が5つの事実を発見 | 18条5項 | 工期・代金額の変更、費用の負担 |
| 発注者が設計図書を変更 | 19条 | 工期・代金額の変更、費用の負担 |
| 発注者が工事を一時中止 | 20条3項 | 工期・代金額の変更、増加費用等の負担 |
| 受注者が工期の延長を請求 | 22条 | 工期の延長(発注者の責めなら代金額・費用も) |
| 発注者が工期の短縮を請求 | 23条 | 代金額の変更、損害への費用の負担 |
22条1項で受注者が工期の延長を請求できるのは、天候の不良、2条の関連工事の調整への協力その他、受注者の責めに帰すことができない事由により、工期内に工事を完成できないときだ。理由を明示した書面で請求する。
工期の変更は、発注者と受注者とが協議して定める。協議開始の日から〇日以内に協議が整わない場合は、発注者が定め、受注者に通知する(24条1項)。
完成から支払まで — 検査・引渡し・支払
- 検査(32条2項)。発注者は、通知を受けた日から14日以内に、受注者の立会いの上、設計図書に定めるところにより、工事の完成を確認するための検査を完了し、結果を受注者に通知する。2項の場合において、検査又は復旧に直接要する費用は、受注者の負担だ(3項)。
- 引渡し(4項)。検査で完成を確認した後、受注者が引渡しを申し出たときは、発注者は直ちに引渡しを受ける。受注者が申出をしないときは、発注者は、引渡しを請負代金の支払いの完了と同時に行うよう請求でき、受注者は直ちに応じる(5項)。
- 不合格のとき(6項)。受注者は直ちに修補して検査を受ける。修補の完了を工事の完成とみなす。
- 支払(33条)。発注者は、請求を受けた日から40日以内に支払う(2項)。発注者の責めに帰すべき事由で32条2項の期間内に検査をしないときは、その期限を経過した日から検査をした日までの日数が、この40日から差し引かれ、遅延が40日を超えるときは超えた日に期間が満了したものとみなされる(3項)。
- 部分使用(34条)。発注者は、引渡し前でも、工事目的物の全部又は一部を、受注者の承諾を得て使用できる(1項)。受注者に損害を及ぼしたときは、必要な費用を負担する(3項)。
似た数字に注意 — 約款と建設業法
数字が近くても、当事者の組が違う別の規定だ。
| 場面 | 日数 | 根拠 |
|---|---|---|
| 発注者が受注者の完成通知を検査 | 14日以内 | 約款32条2項 |
| 元請負人が下請負人の完成通知を検査 | 20日以内 | 建設業法24条の4第1項 |
| 発注者が受注者に支払う(請求を受けた日から) | 40日以内 | 約款33条2項 |
| 元請負人が下請負人に支払う(支払を受けた日から) | 1か月以内 | 建設業法24条の3第1項 |
数と条文で追う — 最終日はいつか
日数の数え方は、1条9項が民法に任せている。民法140条は、日で定めた期間の初日を算入しない(ただし、期間が午前零時から始まるときを除く)と定める。141条は、期間がその末日の終了で満了すると定める。通知や請求を受けた日の翌日が1日目で、14日目の終わりまでが期限だ。起点になる、通知や請求を受けた日は、監督員を置いたときは、監督員に到達した日とみなされる(9条5項。設計図書に定めるものを除く)。
例。休日は考えない。6月20日に完成の通知を受けた。6月21日が1日目、6月30日が10日目、7月1日が11日目で、14日目の7月4日が最終日になる。6月20日を1日目と数えて7月3日とするのは誤りだ。
約款には、期間の末日が休日にあたるときの特則は見当たらなかった。民法142条は、期間が翌日に満了するのは、その日に取引をしない慣習がある場合に限ると定める。休日にかかりそうなら、前の営業日までに済ませるのが安全側だ(当サイトの考え方)。
前払金 — 工事の資金を先に受け取る
受注者は、保証事業会社と保証契約を結び、その保証証書を発注者に寄託(預けること)して、請負代金額の十分の〇以内の前払金の支払いを請求できる(35条1項)。〇は契約で埋める欄だ。発注者は、請求を受けた日から14日以内に支払う(3項)。
やってみよう②:最終日を書き込む
休日は考えない。民法の原則どおり、初日を算入しないで数える。
(1) 5月20日に、受注者が請負代金の支払いを請求し、発注者が受け取った。支払の最終日は? (2) 4月1日に、受注者が前払金の支払いを請求し、発注者が受け取った。支払の最終日は?
答え。
(1) 請求を受けた日から40日以内(33条2項)。5月21日が1日目、5月31日が11日目、6月1日が12日目で、40日目は6月29日。 (2) 前払金は、請求を受けた日から14日以内(35条3項)。4月2日が1日目で、14日目は4月15日。
これで、完成の通知から支払までの日付を、条文の起点から数えて書き込める。
引渡しのあと — 契約不適合責任
引き渡された工事目的物が、種類又は品質に関して契約の内容に適合しないもの(契約不適合)であるときは、発注者は受注者に対し、目的物の修補又は代替物の引渡しによる履行の追完を請求できる。ただし、追完に過分の費用を要するときは請求できない(45条1項。45条は(A)(B)の2本があり、ここは(A)の文言。(B)は「契約不適合であるとき」と書く)。相当の期間を定めた催告に応じた追完がないとき(追完が不能なときなどは催告なしでも)、不適合の程度に応じた代金の減額を請求できる(3項)。
この条は、かつて「瑕疵担保」と題されていた。令和元年12月13日改正の新旧対照表では、改正前の第44条「瑕疵担保」が、改正後の第45条「契約不適合責任」になっている。
請求できる期間は、57条が定める。原則は1項・2項で、4項・6項・9項などに例外がある。
- 1項: 引渡しを受けた日から〇年以内でなければ、履行の追完の請求、損害賠償の請求、代金の減額の請求又は契約の解除(請求等)はできない。〇は契約で埋める欄で、標準約款の注は、原則として二を記入するとする。
- 2項: 1項にかかわらず、設備機器本体等(約款に定義はなく、範囲は契約の文面で確かめる)の契約不適合は、引渡しの時、発注者が検査して直ちに追完を請求しなければ、受注者は責任を負わない。ただし、その検査で一般的な注意の下では発見できなかったものは、引渡しを受けた日から〇年が経過する日まで請求等ができる。注は、原則として一を記入するとし、一以外にするときは、1項の期間との関係と設備機器のメーカー保証の期間を勘案して記入するとする。
- ほかの主な項: 請求等は、契約不適合の内容や損害額の算定の根拠等を示し、責任を問う意思を明確に告げて行う(3項)。期間内に契約不適合を知って受注者に通知した場合、通知から1年が経過する日までに3項の方法で請求等をしたときは、期間内にしたものとみなす(4項)。受注者の故意又は重過失によるものには、前各項は適用されず、民法による(6項)。住宅新築請負契約では、政令で定める部分の瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く)の請求等ができる期間は10年で、前各項は適用しない(9項)。
現場とつなぐ — 材料・機器・支給品
約款は、工事材料や機器の扱いにも触れている。
- 材料の品質(13条)。工事材料の品質は、設計図書に定めるところによる。明示されていないときは、中等の品質を有するものとする(1項)。搬入した材料を、監督員の承諾を受けないで現場外に搬出してはならない(4項)。ただし、設計図書が指定した監督員の検査で不合格と決定された材料は、その決定を受けた日から〇日以内に搬出する(5項)。
- 契約不適合と支給材料(57条10項)。契約不適合が支給材料の性質又は発注者若しくは監督員の指図により生じたものであるときは、発注者は請求等ができない。ただし、受注者がその材料や指図の不適当なことを知りながら通知しなかったときを除く。
設備工事会社に資材を納める立場なら、何をどの品質で入れるか、支給品かどうかが設計図書のどこに書かれているかを先に確かめる、という順になる(当サイトの考え方)。設備機器のメーカー保証の中身は、各メーカーの資料で確かめる。
約款32条の検査は契約上の完成確認で、法令にもとづく検査とは別だ。後者の整理は電気工事の完了検査と検査済証とはにある(そのガイドの記述は、このトピックの根拠にしていない)。
試験での出方とワナ
令和8年度の第一次検定(問題A)では、No.43に「公共工事標準請負契約約款」に関する出題があった。4つの記述から「適当でないもの」を選ぶ形式で、4つはいずれも、このトピックで扱った条のどれかにあたる。他の年度の出題は確認していない。
「適当でないもの」を選ぶ問題は、次の順に読む。
- 主語の組を見る。発注者と受注者なら約款、元請負人と下請負人なら建設業法。
- 起点(その日は数えず、翌日が1日目)を見る。通知を受けた日か、請求を受けた日か、引渡しを受けた日か。
- 数字と動詞を見る。14日、40日、直ちに、承諾を得て、協議して、通知して確認を請求。数字や動詞が1か所差し替えられた記述が、「適当でない」になりうる。
冒頭の問いの答え合わせ
- 誰に、いつ。 誤り(2号)、不明確(3号)、現場との相違(4号・5号)は、直ちに監督員に通知し、その確認を請求する(18条1項)。自分の解釈で決めて施工する手順は、この条にない。図面と仕様書など書類どうしの不一致(1号)は、優先順位が定められている場合は対象にならない(上の「優先順位があるときは」)。
- 工期や代金は変わるか。 調査で事実が確認され必要があると認められるとき、発注者が設計図書を訂正・変更し(18条4項)、その場合に、必要があると認められるときは工期・請負代金額を変更し、損害を及ぼしたときは必要な費用を負担する(5項)。
- 検査と支払。 発注者は、完成の通知を受けた日から14日以内に検査を完了し、検査に合格したあと、請求を受けた日から40日以内に請負代金を支払う(32条2項・33条2項)。
- 引渡しのあと。 契約不適合として、追完(過分の費用を要するときを除く)などを請求できる(45条)。期間は原則として引渡しを受けた日から数え(57条1項。例外は4項・6項・9項など)、設備機器本体等は2項が別に扱う。
答え合わせは、理解度チェックの問2・問7・問8・問11・問12でしてみよう。
次の問い
検査に合格しないときは、受注者は直ちに修補して検査を受け、修補の完了を工事の完成とみなす(32条6項)。では、検査で合否が決まる品質は、施工の途中でどのように確かめておくのか。ばらつきを数と図で見張る方法を、品質管理のトピックで読む。