デマンド値が跳ねた月の請求書を前に、設備担当者が思い出すのは、いつも稼働している様子を見たことがない、あの非常用発電機だ。停電のときにしか動かさない機械が、電気室の奥で何年も出番を待っている。あれを昼間のピーク時間帯だけ動かして、買電を減らせないだろうか——発想自体は、決して突飛なものではない。
ただし、その先で担当者が抱きがちな安心にも、一つだけ触れておく必要がある。「うちのはあくまで非常用発電機だから、太陽光発電みたいな系統連系の話とは関係ない」という思い込みだ。この思い込みは、半分は正しく、半分は正しくない。どちらの半分に転ぶかは、発電機を「どう」動かすかで決まる。
非常用発電機の原則——「常用電源とはつながない」という前提
まず押さえておきたいのは、非常用発電機がそもそもどういう前提で設置されているかだ。
デンヨー株式会社が自社のよくある質問で示している説明によれば、電気設備に関する技術基準を定める省令第61条(非常用予備電源の施設)は、常用電源の停電時に使用する非常用予備電源について、需要場所以外の場所に施設される電路であって常用電源側のものと電気的に接続しないように施設しなければならない、と定めている。停電した瞬間、非常用発電機からの電気が構外の電線路へ逆流し、そこで作業している電力会社の作業員が感電する——この事故を防ぐための規定だ。
実務上は、常用電源との間に電気的・機械的なインターロックを備えた電源切替器を設けるか、非常用予備電源から供給する負荷回路そのものを常用電源側の回路から独立させることで、この原則を満たすとされる。要するに、非常用発電機は「商用電源が落ちたときだけ、商用側とは縁を切って自分だけで負荷を賄う」という、切り替え型の機器として設計されるのが基本形なのである。担当者が漠然と抱いていた「系統連系とは無関係」という感覚は、この基本形に限って言えば、間違ってはいない。
「常用兼用」という運用——ずれ始めるのはここから
ところが、非常用発電機を常用兼用でピークカットに使うという発想は、この基本形を静かにはみ出す。
株式会社日立パワーソリューションズは、自社の「BCP対応ピークカットディーゼル発電装置」を、BCP(事業継続計画)対応として長時間の電源供給が可能である一方、平常時には事業所の電力需要が増加した際のピークカット運転で買電電力を抑制する製品として案内している。ここで使われている「買電電力を抑制する」という表現に注目したい。これは、発電機がすべての負荷を単独で賄うのではなく、商用電源からの買電と発電機の出力を同時に走らせながら、買電側の量だけを減らすという運用を指している。つまり、商用電源と発電機が、同じ瞬間に、同じ負荷を分担している状態だ。
商用電源と発電機を同時に、しかも意図的に負荷分担させながら走らせる——これは、非常用発電機の基本形である「切り替え」とは、似て非なる運用である。切り替えは常用電源と縁を切ってから発電機に頼る動作だが、負荷分担は縁を切らずに両方を生かしたまま走らせる動作だ。両方が生きたまま系統につながっている状態こそ、まさに系統連系そのものである。
すべての常用兼用が系統連系を要求するわけではない
では、非常用発電機を常用兼用で使うと自動的に系統連系協議が必要になるかというと、そうとも言い切れない。
日新電機株式会社が2018年に公表したニュースリリースは、この点を考えるうえで具体的な材料になる。同社の前橋製作所では、東日本大震災後の輪番停電を受けて非常用発電機を導入したものの、輪番停電が早く収束したため、6年間ほとんど使われないまま電気室で待機していたという。この発電機を有効活用するために同社が開発したのが、独自の高速ハイブリッドスイッチだ。デマンドオーバーになりそうな瞬間、このスイッチが商用電力を切り離し、その間だけ発電機と蓄電池側から電力を供給する。切り替えにかかる時間は2ミリ秒以内とされている。
この方式は、商用電源と発電機を同時に接続した状態を作らない。切り離してから発電機側へ移すという、非常用発電機本来の「切り替え」の延長線上にある運用であり、切り替えが人の手ではなく高速な自動スイッチで行われているだけだ。系統と常時つながったまま負荷を分担する日立の方式とは、同じ「ピークカット」という言葉を使っていても、系統との関わり方がまるで違う。
つまり、非常用発電機の常用兼用化には、少なくとも二つの技術的な道筋がある。一つは商用電源から瞬時に切り離して発電機側へ完全に移す方式、もう一つは商用電源とつながったまま負荷を分担する方式だ。前者であれば、非常用発電機の原則どおり系統とは縁を切ったままで済む。後者を選んだ瞬間、発電機は系統連系という別の法体系の対象になる。「非常用発電機だから系統連系は関係ない」という思い込みが見落としを生むのは、まさにこの分岐点だ。どちらの方式を採用しているのか、あるいは検討しているのかを最初に確認しないまま話を進めると、必要な保護装置も協議も抜け落ちたまま計画が進んでしまう。
負荷分担方式で必要になるもの——逆電力継電器と電力会社協議
商用電源と並列運転する方式を選んだ場合、何が要求されるのか。
デンヨー株式会社のFAQは、この点についても明確な説明を示している。屋内配線(電力会社から受電している配線)との並列運転に関しては、逆電力が生じたときに引込み線側を切り離す装置、すなわち逆電力継電器等を施設しなければならない。そのうえで、電気設備の技術基準の解釈に従うほか、「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」をもとに、電力会社との協議が必要になるとされている。
逆電力継電器が守っているのは、発電機側の出力が負荷を上回り、電力が意図せず電力会社の系統側へ逆流してしまう事態だ。ピークカット目的の常用兼用機は、本来「買電を減らす」ための機器であって「売電する」ための機器ではない。それでも、発電機の出力調整や負荷変動のタイミングによっては、瞬間的に逆潮流が生じうる。この逆潮流を検知し、必要なら系統側から切り離す保護装置と、その仕様について電力会社とあらかじめすり合わせておく協議のプロセスが、非常用発電機を「常用の一部」として系統に組み込むための最低条件になる。
このガイドラインは、もともと自家発電設備のためのものだった
「系統連系」と聞くと、太陽光発電や風力発電の話だと思い込んでいる担当者は少なくない。だが、この思い込みにも訂正が要る。
公益社団法人日本電気技術者協会の解説講座によれば、系統連系技術要件ガイドラインが最初に制定されたのは昭和61年(1986年)8月のことで、対象はコージェネレーション等の自家用発電設備だった。太陽電池のような新エネルギー型の小規模分散電源が低圧の商用系統に連系する場合の要件が整備されたのは、平成3年(1991年)3月の改訂によるものであり、順序としては後発にあたる。つまり、ディーゼルエンジンなどの回転機を用いる自家用発電設備を電力系統につなぐという発想そのものが、このガイドラインの出発点だったのである。非常用発電機を常用兼用で系統に並列運転させようとする計画は、太陽光発電と同じ土俵ではなく、むしろこのガイドラインが本来想定していた領域に近いところに立っている。
なお、このガイドラインが区別する「逆潮流」(需要家構内から系統側へ向かう電力潮流)と「単独運転」(系統から切り離された状態で分散型電源が近傍の負荷とともに運転する状態)という二つの概念は、非常用発電機の常用兼用化を考えるうえでも道しるべになる。逆潮流がある接続ほど技術要件は厳しくなり、単独運転を防ぐための保護方式(周波数上昇・低下リレーや単独運転検出装置など)も検討の対象に入ってくる。
「非常時以外に動かす」こと自体は、実は前例のある発想
ここまでの話だけを読むと、非常用発電機を非常時以外に動かすという発想自体が、何か例外的で危うい試みのように見えるかもしれない。しかし、この発想を国が自ら要請した過去があることも、あわせて押さえておきたい。
経済産業省は2015年11月26日付で、「電力系統の停電の回避を目的として非常用予備発電装置を使用する場合の電気事業法上の取扱い及び保安管理の徹底について」という通知を発出している。この通知の経緯を見ると、東日本大震災後の電力需給ひっ迫を受けて、2011年5月に東京電力・東北電力管内を対象とした通知が出され、2012年1月には「ピークカット用電源として非常用予備発電装置を使用する場合」を対象とした通知が、その後も2012年11月、2013年5月・11月、2014年11月と改定を重ねながら発出されてきた。2015年の通知は、供給予備率が電力の安定供給に最低限必要な3%を下回ることが予想される地域において、一般電気事業者からの停電回避(安定供給)を目的とした運転依頼に基づき、一般負荷対応として使用する非常用予備発電装置(新設のものを含む)に対して、保安管理徹底の観点から一定の要件を満たすことを求めるものだ。
ただし、ここは慎重に読み分けたい点でもある。この一連の通知が対象にしているのは、電力会社からの個別の運転依頼に基づく、期限付きの緊急的な運用であって、平常時の電気料金対策として恒常的に行う自主的なピークカットとは、生まれた文脈が異なる。「非常用発電機を非常時以外に動かした前例が国にもある」という事実は、常用兼用という発想そのものの後ろ盾にはなっても、恒常的な常用兼用運転がこの通知の枠組みでそのまま扱われるという意味ではない。両者を混同せず、自社が検討しているのがどちらの性質の運用なのかを、まず自分自身で切り分けておく必要がある。
検討を始める前に整理しておきたいこと
非常用発電機の常用兼用化を具体的に検討する段になったら、次の点を順に確認しておくと、あとの手戻りが少ない。
まず、出力10kW以上のエンジン発電機は自家用電気工作物に該当し、主任技術者の選任届出や保安規程の届出がすでに必要になっている(デンヨー株式会社のFAQによる)。常用兼用化の検討は、この既存の届出体系の上に積み増す形で進むことになる。
次に、採用しようとしている方式が、商用電源から完全に切り離してから発電機側へ移す「切り替え」型なのか、それとも商用電源とつながったまま負荷を分担する「並列運転」型なのかを、機器選定の初期段階で明確にする。ここが曖昧なまま話が進むと、逆電力継電器の要否も、電力会社への協議の要否も判断できない。
そして、稼働時間そのものが増えることの影響も見落とせない。非常用発電機の点検体系や燃料タンクの容量設計は、本来「非常時に必要な性能を発揮できるか」を確認するために組まれている。常用兼用によって稼働時間が大きく伸びれば、消耗部品の交換サイクルや燃料の劣化管理にも波及しうる。系統連系という電気的な側面だけでなく、機器としての保守計画にも目を配っておく必要がある。
まとめ
非常用発電機は、常用電源とは電気的に縁を切るという原則のもとに設計された機器だ。この原則は、常用兼用でピークカットに使う場合でも消えてなくなるわけではない。商用電源から完全に切り離してから発電機側へ移す方式を選べば、原則はそのまま維持される。一方、商用電源とつながったまま負荷を分担する方式を選べば、そこはもう系統連系の領域であり、逆電力継電器等の保護装置と電力会社との協議が必要になる。「非常用発電機だから系統連系とは無関係」という直感は、どちらの方式を選ぶかを確認しないまま持ち出すと、見落としに変わる。方式の選定と機器の仕様は、検討の最初の段階で電力会社・メーカー双方とすり合わせておくのが確実だ。
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よくある質問
非常用発電機を常用兼用でピークカットに使う場合、必ず系統連系が必要になるのですか?
方式によります。日新電機が公表している実証事例のように、デマンドオーバーが見込まれる瞬間に高速スイッチで商用電源を完全に切り離し、その間だけ発電機(と蓄電池)側へ切り替える方式であれば、電力会社の系統と同時に接続された状態は作らないため、系統連系としての協議は本来生じません。一方、発電機を商用電源と並列運転させ、負荷を分担しながら買電電力そのものを抑制する方式では、デンヨー株式会社のFAQが説明するとおり、逆電力継電器等の保護装置の設置と、「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」に基づく電力会社との協議が必要になります。どちらの方式を選ぶかによって、必要な手続きが変わります。
非常用発電機は、そもそも商用電源の配線につないではいけないのですか?
デンヨー株式会社のFAQによれば、電気設備に関する技術基準を定める省令第61条は、常用電源の停電時に使用する非常用予備電源について、常用電源側の電路と電気的に接続しないように施設することを求めています。これは構外の電線路で作業する人が、非常用発電機からの電気の逆流によって感電する事故を防ぐためのものです。実務上は、常用電源との間に電気的・機械的なインターロックを備えた電源切替器を設けるか、非常用予備電源から供給する負荷回路そのものを常用電源側の回路から独立させることで、この原則を満たすとされています。
「常用兼用型」という発電機の分類は、法令上正式に決まっているのですか?
「常用兼用」「ピークカットディーゼル発電装置」という呼び方自体は、株式会社日立パワーソリューションズの製品ページのように、メーカーが自社製品の用途区分として使っている呼称であり、法令上の正式な機器分類ではありません。ただし実質的な考え方——非常用としての長時間電源供給能力と、平常時のピークカット運転による買電抑制の両方を兼ねる発電機——は、実在する製品カテゴリとして市場に存在します。法令上の扱いは、機種の呼び方ではなく、実際にどのような接続方式で系統と関わるか(並列運転の有無)によって決まります。
電力会社との系統連系協議が必要になる根拠になっている「系統連系技術要件ガイドライン」は、もともと太陽光発電のための基準なのですか?
いいえ。公益社団法人日本電気技術者協会の解説講座によれば、系統連系技術要件ガイドラインは昭和61年(1986年)8月、コージェネレーション等の自家用発電設備を電力系統に連系するための基準として制定されたのが始まりです。太陽光発電や風力発電向けの要件が整備されたのは、平成2年(1990年)以降の改訂によるものであり、順序としては自家用発電設備(ディーゼル発電機等の回転機を含む)の連系がガイドラインの出発点にあたります。非常用発電機を常用兼用で系統に並列運転させる場合も、このガイドラインが定める技術要件の対象になり得ます。
非常用発電機を常用兼用でひんぱんに稼働させると、消防法上の点検やメンテナンスに何か影響はありますか?
非常用発電機(自家発電設備)の消防法上の点検義務や、燃料タンク容量・連続運転時間の考え方は、本来「非常時に必要な性能を発揮できるか」を確認するために設計されています。稼働時間が増えれば、消耗部品の摩耗やオイル・冷却水の劣化も進みやすくなるため、常用兼用として稼働時間そのものが大きく増える場合は、点検周期や部品交換のサイクルに影響が出ないか、メーカーや点検業者に個別に確認しておくのが安全です。
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