停電から数時間が経ったころ、施設の管理担当者はふと燃料計に目をやる。非常用発電機は今のところ問題なく動いている。スプリンクラーポンプにも電力は届いている。ただ、この停電がいつ終わるのか誰にもわからない。ふと頭をよぎる。「このタンク、あと何時間もつのだろう」。設計図書を引っ張り出しても、そこに書かれているのは「消防法上必要な運転時間を満たしている」という一文だけで、実際に何時間分の燃料が入っているのかは、燃料消費率とタンク容量を自分で掛け合わせてみるまでわからない。
非常用発電機を導入した安心感は、意外なところで揺らぐ。エンジンが確実にかかること、電圧が確立すること、切替がうまくいくこと——これらは点検のたびに確認される。しかし「その状態を、あと何時間維持できるのか」という問いに、即答できる担当者は多くない。燃料タンクという有限の資源が、実は発電機そのものの信頼性とは別の律速要因になっている。この記事では、非常用発電機の燃料タンク容量と連続運転時間について、消防法上の必要運転時間の考え方から、容量計算の実務、燃料の経年劣化、建築基準法との関係まで、順を追って整理する。
なぜ燃料タンク容量に基準があるのか
非常用発電機(自家発電設備)は、消防法上「非常電源」の一つとして位置づけられている。消防法第17条は、学校・病院・工場・百貨店など政令で定める防火対象物の関係者に対し、屋内消火栓設備やスプリンクラー設備などの「消防用設備等」を設置・維持する義務を課しており、消防法施行令第11条は、これら電力を必要とする消防用設備等について、停電時に備えた非常電源の附置を求めている。自家発電設備は、その非常電源の一つとして選択される設備である。
ここで問われているのは「エンジンがかかるかどうか」ではない。停電が起きた瞬間に、消防用設備等が「消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能」を発揮し続けられるかどうかである。消火活動や避難誘導には時間がかかる。したがって非常電源には、その活動が完了するまでの間、電力を供給し続ける能力——つまり容量と運転時間——が求められる。燃料タンクは、この「動き続ける時間」を物理的に規定する部品にほかならない。
必要運転時間の考え方——消防用設備の種類によって異なる
自家発電設備の構造及び性能に関する技術基準は、消防法施行規則第12条(省令)と自家発電設備の基準(消防庁告示第1号)に定められている。この告示基準には「消防法令で要求される運転時間に消費される燃料と同じ量以上の燃料が、燃料容器に保有されていること」という一文がある。読み流してしまいそうな一文だが、ここに核心がある。法令が要求しているのは「要求される運転時間分の燃料があること」であって、それ以上の余裕を義務付けているわけではない。
では「要求される運転時間」は何時間なのか。これは接続する消防用設備等の種類によって異なる。消防法施行規則第12条第1項第4号ロによれば、屋内消火栓設備の非常電源として自家発電設備を用いる場合、その容量は「屋内消火栓設備を有効に30分間以上作動できるものであること」とされている。一方、不活性ガス消火設備(全域放出方式・局所放出方式)の非常電源については、施行規則第19条第5項第20号により「当該設備を有効に一時間作動できる容量以上」と定められており、屋内消火栓設備よりも長い運転時間が要求される。
つまり、同じ建物に設置される自家発電設備であっても、実際にどの消防用設備等の非常電源として機能させるかによって、法令上必要な最低運転時間は変わりうる。複数系統の消防用設備等を1台の発電機でまかなう場合、どの時間基準が適用されるのかは設計図書・所轄消防署への確認が欠かせない。ここで断定を避けておきたいのは、この記事で紹介した30分・1時間という数字が、あらゆる消防用設備等に一律に当てはまるわけではないという点だ。個別の建物・設備構成における正確な要求時間は、必ず所轄消防署の判断を確認してほしい。
もう一つ押さえておきたいのは、始動性能である。告示基準では、常用電源が停電してから電圧確立・投入までの所要時間が40秒以内であることも求められている。これは燃料容量の話とは別の基準だが、「止まらず動き続けること」と「素早く立ち上がること」の両方が非常電源には要求されている、という全体像の一部として押さえておきたい。
燃料消費率とタンク容量——計算してみると見える現実
法令が求めているのが「要求運転時間分の燃料」だとすれば、実際の停電に耐えられるかどうかは、標準搭載されているタンクの容量と、発電機の燃料消費率を掛け合わせて初めて見えてくる。
デンヨー株式会社が公表している非常用自家発電装置のカタログには、機種ごとの燃料タンク容量と燃料消費量が仕様表として掲載されている。たとえば定格出力34kVAクラスの機種では、標準搭載の燃料タンク容量が30L、定格負荷時の燃料消費量(普通形・50Hz)が約9.3L/hと示されている。単純に割り算をすると、30L÷9.3L/h≒3.2時間で燃料タンクは空になる計算だ。定格出力99kVAクラスの機種でも、タンク容量99L・消費量約29.0L/hで、やはり3時間台という計算になる。
この数字だけを見ても、屋内消火栓設備が要求する30分、不活性ガス消火設備が要求する1時間という法令上の最低ラインは、標準搭載タンクで問題なくクリアできることがわかる。検査には合格する。ところが、実際の停電はしばしば半日、1日と続く。標準搭載タンクのままでは、法令上の要求時間を大きく超えたあたりで、静かに燃料が尽きる。デンヨーのカタログ自体、「無人の設置場所でも安心なリモコン制御や大型搭載タンク」をオプションとして案内しており、長時間運転できる大型燃料タンク(軽油195L・A重油390L)を搭載した機種をラインアップしていることを明記している。標準仕様のままでは長時間運転に足りない、という前提が、メーカー側のオプション案内そのものに表れている格好だ。
では、実際にどれだけの容量を見込めばよいのか。株式会社ヒイラギが公開している燃料オイルタンク選定の手引きには、非常時使用を想定したタンク実容量の計算式が示されている。
タンク実容量(備蓄量)= 想定稼働時間 × 消費量 ÷ タンク使用可能率 + 試験運転等による燃料使用量
同資料が示す計算例は「72時間×5L/h÷0.9+40L=440L以上」というものだ。ここで重要なのは「想定稼働時間」という変数である。法令上の必要運転時間(30分・1時間)とは別に、自社の施設としてBCP(事業継続計画)上、何時間の自立運転を想定するのかを、まず決めなければならない式になっている。この想定稼働時間を空欄のまま「消防検査に通ればよい」で止めてしまうと、標準タンクのまま長時間停電を迎えることになる。
燃料の劣化——タンクを満たしても安心できない理由
燃料タンクの容量を確保できたとしても、もう一つ見落とされがちな要因がある。軽油そのものが、時間の経過とともに劣化するという事実だ。
石油連盟が2016年7月に公表した資料によれば、灯油・軽油は、直射日光を避け涼しい場所に密閉して保存した場合であっても、保存開始後6か月を目安として使用することが推奨されている。この使用推奨期間を超えて保存すると、酸化が進み、場合によっては燃焼不良などの不具合を引き起こすおそれがあるとされる。A重油はさらに短く、3か月が目安だ。加えて同資料は、軽油には季節や地域に応じたグレードの違いがあり、夏季用の軽油は冬季において使用できない可能性があると注意を促している。
非常用発電機の燃料タンクは、日常的に燃料を消費して補充する設備ではない。満タンにしたまま数年放置されるケースも珍しくない。だからこそ、タンク容量さえ確保すれば安心、とはならない。石油連盟は、備蓄用燃料であっても普段使う燃料と混合・入れ替えを行い、定期的に品質を確認することを推奨している。タンク容量の設計と同じくらい、燃料の入れ替え運用を仕組みとして組み込んでおくことが実務上の要点になる。
建築基準法・危険物規制との関係——「大きくすればいい」わけではない
ここまでの話だけを見ると、「燃料タンクは大きければ大きいほど安心」という結論に流れてしまいそうになる。ところが、燃料タンクの容量には別方向からの制約もかかる。
危険物の規制に関する法令上、軽油・灯油の指定数量は1,000L、重油は2,000Lと定められている。主燃料タンクの容量がこの指定数量を超えると、消防法令上の危険物タンク貯蔵所としての規制を受ける。さらに、主燃料タンクに指定数量の10倍以上の燃料が貯蔵される場合には、建築基準法第27条・同法施行令第116条により、その建築物を耐火又は準耐火構造にしなければならないという「単体規制」がかかる。
加えて、建築物が立地する用途地域によっては、石油類の貯蔵量そのものに上限が課されている。たとえば第一種低層住居専用地域など一部の住居専用地域では軽油・灯油の貯蔵は原則できず、第二種中高層住居専用地域・第一種/第二種住居地域・準住居地域では指定数量の5倍(軽油であれば5,000L)まで、近隣商業地域・商業地域では指定数量の10倍(同10,000L)まで、準工業地域では指定数量の50倍(同50,000L)までという制限がある(工業地域・工業専用地域では貯蔵制限はない)。つまり「必要な運転時間を確保するために燃料タンクを増設したい」と考えても、建物の立地によっては、それ以前に用途地域上の上限に突き当たる可能性がある。
さらに実務上は、危険物施設としての許可申請とは別に、各市町村が条例等で定める「1日に取扱うことができる燃料の数量」の算定基準も関わってくる。たとえば大阪市の審査基準では、非常電源用発電設備について「発電機の時間当たりの最大燃料消費量で2時間運転したときの数値」を最大倍数として算定するとされ、神戸市の審査基準では「災害等の復旧時間を最大24時間以上と想定し、24時間を最大数量とする。ただし、消防用設備にのみ使用されるものについては2時間の取扱量とする」との規定が示されている。同じ非常用自家発電設備でも、それが消防用設備専用なのか、一般停電時のバックアップ電源としても使うのかによって、算定される取扱数量が変わりうるということだ。こうした算定基準は市町村ごとに条例で定められているため、詳細は必ず所轄消防機関に確認する必要がある。
タンク容量が不足すると判明した場合の対応
燃料消費率とタンク容量を実際に計算してみて、想定する停電時間に対して容量が不足していると判明した場合、発電機本体の搭載タンクとは別に、別置燃料タンク(外部タンク)を増設するという選択肢がある。外部タンクを扱う専門業者の技術資料によれば、標準的な別置燃料タンクは95L〜1,950L程度まで複数の容量が用意されている。
ただし増設にあたっては、いくつか実務上の留意点がある。燃料の送り配管と戻り配管をジョイントしないこと、寒冷地では外部の燃料配管・小出槽について保温・加熱対策を行うこと、そして主タンクが発電機室から離れた場所にある場合は、燃料を送る移送ポンプを発電機室ではなく主タンクの近くに設置しなければならないことなどが挙げられている。これらは配管設計・施工段階で決まる要素であり、タンクだけを大きくすれば済む話ではない。
そして前述の通り、増設によってタンク容量が危険物の指定数量やその倍数の区切りをまたぐ場合には、消防法令・建築基準法上の追加的な規制(構造の耐火・準耐火化、用途地域上の貯蔵制限など)が発生しうる。容量不足が判明した時点で、まず所轄消防署・特定行政庁(建築主事を置く地方公共団体)に相談し、増設可能な容量の上限を確認したうえで、外部タンクの仕様を検討する順序が現実的だろう。
まとめ
非常用発電機は「エンジンさえかかれば停電を乗り切れる」設備ではない。消防法令が定めているのは、接続する消防用設備等の種類ごとに要求される最低運転時間(屋内消火栓設備であれば30分以上、不活性ガス消火設備であれば1時間以上など)分の燃料が確保されていることであり、これは検査に合格するための最低ラインにすぎない。標準搭載されている燃料タンクの容量と、機種ごとの燃料消費率を実際に計算してみると、法令上の要求時間はクリアできても、半日・1日といった長時間の停電には足りないケースが少なくない。加えて、軽油そのものが数か月単位で劣化する消耗品であること、燃料タンクの容量には危険物規制・建築基準法・用途地域による上限が別途かかりうることも踏まえると、「タンク容量」は導入時に一度決めて終わりの数字ではなく、想定する停電時間・燃料の入れ替え運用・法令上の上限を突き合わせながら、定期的に見直すべき設計要素だと言える。
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よくある質問
非常用発電機の燃料タンクは、法令上どれくらいの容量が必要ですか?
消防法施行規則の告示基準では「消防法令で要求される運転時間に消費される燃料と同じ量以上の燃料が、燃料容器に保有されていること」とされている。つまり法令が定めているのは「接続する消防用設備が要求する運転時間(屋内消火栓設備であれば30分間以上、不活性ガス消火設備であれば1時間以上など、設備の種類によって異なる)分の燃料があればよい」という最低ラインであり、それ以上の容量を義務付けているわけではない。実際の停電が長時間続いた場合にどこまで運転を継続できるかは、この法令上の最低ラインとは別に検討する必要がある。
非常用発電機の燃料消費率はどれくらいですか?
定格出力・機種・負荷率によって大きく異なるため一律の数値はない。参考として、デンヨー株式会社が公表している非常用自家発電装置のカタログでは、定格出力34kVAクラスの機種で燃料消費量(普通形・50Hz・定格負荷時)が約9.3L/h、定格出力99kVAクラスの機種で約29.0L/hといった値が示されている。同カタログの機種では標準搭載の燃料タンク容量が30L〜99L程度のものが多く、これらの数値を単純に割ると、標準タンクのままでは数時間程度で燃料が尽きる計算になる。実際の消費率は必ずメーカーが公表する当該機種のカタログ値で確認する必要がある。
軽油はどれくらいの期間、備蓄しておけますか?
石油連盟が2016年7月に公表した資料によれば、灯油・軽油は、直射日光を避け涼しい場所に密閉して保存した場合であっても、保存開始後6か月を目安として使用することが推奨されている。この使用推奨期間を超えて保存すると、酸化が進み、燃焼不良などの不具合を引き起こすおそれがある。またA重油は3か月が目安とされる。備蓄用燃料であっても普段使う燃料と混合・入れ替えを行い、定期的に品質を確認することが望ましいとされている。
燃料タンクの容量が足りないとわかった場合、どう対応すればよいですか?
発電機本体に内蔵・付属する燃料タンクとは別に、別置燃料タンク(外部タンク)を増設する方法が一般的である。外部タンクメーカーの技術資料によれば、標準的な別置燃料タンクは95L〜1,950L程度まで複数の容量が用意されている。ただし増設にあたっては、燃料送り配管と戻り配管を直結しないこと、寒冷地では配管・小出槽の保温や加熱対策を行うこと、主タンクが発電機室から離れている場合は移送ポンプを主タンクの近くに設置することなど、配管上の留意点がある。また主燃料タンクの容量が危険物の指定数量(軽油であれば1,000L)の10倍以上になる場合は建築基準法上の規制、用途地域によっては貯蔵量そのものに上限がかかる場合があるため、増設前に所轄消防署・建築部局への確認が必要になる。
燃料タンクを大きくすればするほど安心ですか?
一概にそうとは言えない。主燃料タンクの容量が危険物の指定数量(軽油・灯油は1,000L、重油は2,000L)を超えると危険物タンク貯蔵所として消防法令の規制を受け、指定数量の10倍以上になると建築基準法第27条・施行令第116条により建築物を耐火又は準耐火構造にすることが求められる。さらに用途地域によっては、石油類の貯蔵量そのものに上限が定められている場合があり(例えば近隣商業地域・商業地域では指定数量の10倍まで、準工業地域では50倍までなど)、際限なく容量を増やせるわけではない。必要な運転時間と法令上の規制の両方を踏まえて容量を検討する必要がある。
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