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【現場のやらかし】非常用発電機の試運転を『無負荷』で済ませていたら出力不足で使えなかった!ディーゼルエンジンの『ウェットスタッキング(カーボン詰まり)』とは

読了目安: 12分 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー

本記事の事例は、安全啓発を目的として典型的な事象を再構成したものです。特定の現場・企業を指すものではありません。

年次点検の記録簿には「試運転:正常」の文字が、何年分もきれいに並んでいる。点検業者が来て、非常用発電機のスイッチを入れ、エンジンがかかったのを確認して数分後に止める。書類の上では何も問題がない。

ところが、いざ停電が起きたとき、発電機は確かに起動した。それなのに、消防ポンプへ電力を送ろうとした瞬間、出力がふっと落ち込み、保護継電器が作動して停止してしまう——というのは、非常用発電機の保守に携わる関係者の間で、決して珍しくない相談として語られる場面である。分解してみると、排気系統やピストンリングの周辺に、真っ黒で粘り気のあるカーボンが分厚くこびりついていた、という展開まで含めて。

エンジンはかかっていた。動くことは動いていた。それなのに、なぜ実際に力を必要とした瞬間に応えられなかったのか。答えは、点検の「やり方」そのものの中に潜んでいる。

1.【現場のやらかし事例】試運転を「エンジンがかかればOK」で済ませてしまう

非常用発電機の定期試運転で、エンジンを始動させて数分間アイドリング状態のまま回し、異音がないことだけ確認して止める――この運用を、消防法が求める点検そのものだと思い込んでいるケースは少なくない。実際、電気事業法に基づく月次点検の多くは無負荷運転で行われており、「毎月エンジンをかけている」という実績が、点検をきちんとやっているという安心感につながりやすい。

問題は、消防法が年1回(または予防的な保全策の実施を条件に最長6年に1回)求めている総合点検の「運転性能」の確認方法が、この無負荷運転とは別物だという点にある。負荷運転は、定格回転速度・定格出力の30%以上の負荷を実際にかけて行う試験であり、エンジンが回っているかどうかではなく、電力を実際に出せるかどうかを確かめるものだ。無負荷の試運転をどれだけ丁寧に繰り返しても、この負荷運転の代わりにはならない。

それだけではない。無負荷の運転を繰り返すこと自体が、ディーゼルエンジンの内部に、非常時の出力を静かに蝕むものを積み上げていく側面がある。

2. ディーゼルエンジンは、なぜ「負荷」がないと不完全燃焼を起こすのか

ディーゼルエンジンは、シリンダ内に噴射した燃料を圧縮熱で自己着火させる仕組みで動く。負荷が高いときは燃料噴射量が多く、噴射圧力も高いため、燃料は細かい霧状になってシリンダ内に広く分散し、完全に近い形で燃え尽きる。

ところが無負荷や低負荷の状態では、この前提が崩れる。日本内燃力発電設備協会(NEGA)が公表した経年劣化調査によれば、無負荷運転または低負荷運転では燃料噴射量そのものが微量になり、噴射圧力も低下する。その結果、燃料液滴が粗大なまま噴射され、霧化不良や燃焼室内への分散不良が起きる。燃料液滴は蒸発しきれず、燃焼可能な混合気が局所的にしか形成されないため、燃料は燃えずに液体のまま燃焼室内に残留してしまう。

燃料噴射量が少ないことは、燃焼温度そのものの低下にもつながる。燃焼室を構成する部品の温度が上がりきらないまま運転が続けば、燃え残った燃料はどこにも行き場を失い、シリンダの中に、そして排気の通り道に、そのまま留まり続けることになる。

3. ウェットスタッキングとは何か――排気系統とピストンリングで起きていること

この、燃え残った燃料とカーボンが排気系統やエンジン内部に堆積していく状態を、業界では「ウェットスタッキング」と呼ぶ。NEGAの調査は、このメカニズムをもう少し具体的にたどっている。

燃焼室内で燃え残った燃料は、燃焼残渣物、いわゆるカーボンとなって燃焼室構成部品や排気系統に堆積する。同時に、未燃燃料の一部はシリンダライナの内壁に付着し、そこから潤滑油に混入して、油の粘度を低下させてしまう。さらに、ピストンの首振り運動が大きくなることで、潤滑油が燃焼室内にまで掻き上げられ、炭化して排気ポートを経由し、排気マニホールドへと排出・付着していく経路もあるという。

ここで見過ごせないのが、堆積の行き先はエンジンの奥深くだけではない、という点だ。NEGAの要因図は、燃焼残渣物が摺動部(ピストン・シリンダライナ・軸受け等が擦れ合う部分)に多量に堆積すると摺動不良を起こして運転不能に至る経路と、ピストンリングの挙動不良が燃焼ガスのシール不良を招き、ピストンとライナの間で温度が上昇して焼き付きに至る経路の、二つの致命的な損傷パターンを示している。「エンジンがかかること」と「エンジンが健全であること」は、実は別の話なのだ。

さらにもう一つ、意外な危険がある。排気マニホールド内に堆積した未燃燃料等は、その後にたまたま負荷運転が行われて温度が上昇した瞬間、着火して煙道内で爆発的に燃焼し、火災に至る可能性があるとNEGAは指摘している。無負荷運転を繰り返した末に「そろそろ負荷試験をしよう」と思い立った、まさにその負荷試験の瞬間こそが、蓄積したリスクが表面化する場面になりうるということだ。

4. もう一段深い理解――「無負荷運転は無害」というデータと、どう向き合うか

ここまでの説明を読むと、無負荷運転は今すぐにでもエンジンを壊しかねない行為のように思えるかもしれない。ところが、NEGAが実際に行った試験の結果は、もう少し込み入っている。

同協会は53.5kVAのディーゼル発電設備を用いて、平成26年度に10時間、平成27年度に36時間の長時間無負荷運転試験を実施した。結果は、排気ポート内壁への未燃燃料の付着こそ確認されたものの、運転に支障が生じるレベルの堆積や、試験前後での発電設備の性能劣化は見られなかった、というものだった。潤滑油の動粘度低下も3〜5%程度にとどまり、問題ないレベルだったという。

無負荷運転をした程度で、そう簡単には壊れないらしい――そう読めてしまう。だが同じ調査には、もう一つの記述がある。整備記録が不詳な、実際に稼働してきたディーゼル機関発電設備の経年劣化を調べたところ、無負荷運転または低負荷での繰返し運転によるとみられる損傷や劣化が、一部ではあるが確認されている、という一文だ。

矛盾しているわけではない。NEGAの試験は、あくまで一回の無負荷運転を10時間・36時間という限られた時間で行ったものだ。これに対し、実際の非常用発電機は、月次・半期・年次といった点検のたびに、数分から十数分の無負荷運転を、数年、ときには十数年にわたって繰り返す。一回あたりの負荷は軽くても、それが積み重なったとき、そしてメーカーが推奨する部品交換や整備が並行して行われていないとき、この「一部で確認された損傷や劣化」の側に近づいていく。デンヨーが平成27年に公式のサービスニュースをわざわざ発行してまで注意を呼びかけたのも、実際にこうした軽負荷連続運転によるカーボン堆積の相談が、現場から寄せられていたからにほかならない。

一回の空ぶかしは、たしかに無害に近いのかもしれない。しかし「今回も無害だったから、次回も、その次も無害だろう」という理屈は、この調査結果からは導けない。

5. 溜まったカーボンは、どうすれば取り除けるのか

では、すでに無負荷運転を重ねてしまった発電機は、どう手当てすればよいのか。

NEGAが行った未燃燃料除去の試験によれば、除去の効果は負荷率そのものではなく、排気温度に依存する。排気温度が約350℃以上になると効果が表れ始め、400℃〜450℃に達すると、運転に支障のないレベルまで未燃燃料を除去できたという。ただし同じ負荷率でも、機種の仕様(過給機や空気冷却器の有無、排気量あたりの出力など)や、気温・気圧(標高)によって排気温度は大きく変わる。「30%の負荷をかけたから安心」と一律に言い切れない理由が、ここにある。

もう一つ注意すべきなのが、カーボンを落とすつもりで、いきなり高負荷をかけてはいけないという点だ。デンヨーのサービスニュースは、長時間の未燃焼物堆積がある状態で一気に高負荷をかけると、内部の未燃焼分が急激に燃焼し、排気系内が高温になる恐れがあると警告している。同社が案内する手順は、まず50%程度の負荷をかけ、最初に出る濃い煙が薄くなるのを待ってから、徐々に負荷を上げ、最後に定格負荷まで持っていくというものだ。排気口から火花が出ることもあるため、周囲に可燃物がないことを確認し、消火設備を準備したうえで行うようにとも記されている。長年放置したカーボンを一息に焼き切ろうとする発想そのものが、火災という別のリスクを呼び込みかねない。

6. 点検票の「30%」は、現場でどこまで守られているか

負荷運転そのものは実施していても、実態は法令が求める水準にどこまで達しているのだろうか。NEGAが1,459件の設置先を対象に行ったアンケート調査は、この点を数字で示している。負荷運転に実負荷と疑似負荷のどちらを用いているかでは、実負荷が79%、疑似負荷が21%だった。負荷率と運転時間については、疑似負荷を用いた場合の平均負荷率が78%・平均運転時間71分だったのに対し、実負荷を用いた場合は平均負荷率29%・平均運転時間117分と、法令上の最低ラインである30%にほぼ張り付いた水準にとどまっていた。

負荷運転を実施している事業者でさえ、実負荷では法定の最低ラインぎりぎりの負荷率にとどまりがちだという実態がある。ここに、負荷運転そのものを行わず無負荷の試運転だけで済ませてしまう運用が加われば、その差はさらに大きい。点検記録に「試運転:正常」と書かれていても、そこに書かれていない「どの程度の負荷を、どれだけの時間かけたか」という情報こそが、非常時に本当に頼れるかどうかを分けている。

7. 今、確認しておきたいこと

まず、自社の非常用発電機の点検記録を見返し、実施しているのが無負荷の試運転なのか、消防法上の負荷運転(定格出力の30%以上)なのかを区別する。次に、負荷運転を実施している場合でも、その負荷率と運転時間の実績値を確認し、法定の最低ラインぎりぎりで済ませていないかを見る。そのうえで、マフラーから常に異常な白煙や未燃分が排出されている形跡がないか、排気口周辺に油分やすすの付着がないかを、日頃から目視で確認しておきたい。

デンヨーのサービスニュースが案内するとおり、高負荷運転による焼却でも改善が見られない場合は、点検業者やメーカーのサービス窓口に早めに相談するのが確実だ。冒頭の「試運転:正常」という記録は、エンジンがかかったという事実は語っていても、その奥で何が積み上がっているかまでは語ってくれない。

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