GT5-1PP-HU(B)(70)という型式を渡されたとき、まず目が止まるのは末尾に並んだ2つの括弧のはずだ。「(B)」と「(70)」。どちらも同じ形の括弧に収まっているのだから、同じ種類の情報――たとえば色違いのバリエーション番号――が並んでいるように見える。少なくとも、最初にこの型番を見たときはそう思った。
ところが、ヒロセ電機の公式カタログにある「かん合表」を開いてみると、この2つは役割がまったく違う。片方は色分けされた表にはっきり載っている。もう片方は、表のどこにも説明が見当たらない。同じ見た目の括弧が、片方は解ける謎で、片方は解けない謎だった。
結論から言うと
GT5シリーズの型番は、次の骨格で組み立てられている。
- GT5:シリーズ名。ヒロセ電機公式カタログの表題は「2GHz対応アンテナ接続用コネクタ」で、自動車内通信・GPSアンテナ・車載AVアンテナなど高周波信号を扱う用途向けの同軸コネクタである。
- 1/2/4などの数字:極数(回路数)。GT5-1S-HUは1極、GT5-2PP-HU(70)は2極、GT5-4S-HUは4極――いずれもヒロセ電機の製品仕様ページ「基本性能」欄の「極数」項目で確認できる。
- S-HU:プラグ。ケーブル側に取り付ける、ストレート形状の圧着コネクタ。
- P-DS:レセプタクル。基板にスルーホールDIP・ライトアングルで実装する側。
- PP-HU:中継ジャック。ケーブル同士を中継してつなぐための部品で、製品仕様ページ上の表記は「ジャック」。
- (A)/(B)/(C):かん合キー。誤嵌合防止のための識別記号で、ハウジングの色(ブラウン/グリーン/ブルー)にそれぞれ対応する。無印は標準・ライトグレー。
- 末尾の(70)などの数字:レセプタクル(P-DS)と中継ジャック(PP-HU)には一貫して付き、プラグ(S-HU)には一貫して付かない。ヒロセ社内のHRS No.(管理型番)の末尾2桁とそのまま一致していることは確認できたが、「70」という数字自体が何を意味するのかは、今回参照できた公式資料からは特定できなかった。
ここから先は、この結論に至るまでの確認作業を、実際に見た表と製品ページの記載に沿って辿っていく。
型番の分解 ── 「かん合表」が答えてくれたこと
GT5シリーズのカタログには「かん合表」という見出しのページがある。色とかん合キーを縦に並べ、それぞれに対応するレセプタクル・プラグ・中継ジャックの型番を横に並べた表だ。抜粋するとこうなる。
| 色 | かん合キー | レセプタクル | プラグ | 中継ジャック |
|---|---|---|---|---|
| ライトグレー | 標準 | GT5-1P-DS(70) | GT5-1S-HU | GT5-1PP-HU(70) |
| ブラウン | Aキー | GT5-1P-DS(A)(70) | GT5-1S-HU(A) | GT5-1PP-HU(A)(70) |
| グリーン | Bキー | GT5-1P-DS(B)(70) | GT5-1S-HU(B) | GT5-1PP-HU(B)(70) |
| ブルー | Cキー | GT5-1P-DS(C)(70) | GT5-1S-HU(C) | ―(ラインアップなし) |
この表を見て最初に驚いたのは、列の見出しと型番の中の文字が、素直には対応していないことだった。「レセプタクル」の列にあるのは「P-DS」という記号で、「プラグ」の列にあるのは「S-HU」という記号である。英語のPlug/Socketの感覚だと、Pがプラグ、Sがソケット(レセプタクル)になりそうなものだが、ヒロセ電機の型番ではこれが逆になっている。実際、GT5-1S-HUの製品仕様ページを開くと「コネクタ形状:プラグ」、GT5-1P-DS(70)の製品仕様ページには「コネクタ形状:レセプタクル」とそれぞれ明記されており、かん合表の並びと矛盾はない。頭文字の連想だけで形状を決めつけるのは、この型番については通用しないということだ。
(A)(B)(C)の列は、かん合キーという名前の通り、誤嵌合防止のための識別記号だった。プラグ側の「かん合キー」の項目とレセプタクル側の「かん合キー」の項目が同じ記号同士でなければ、物理的に嵌合できない構造になっている。ハウジングの色を変えることで、現場での取り違えを目視でも防ぐ設計だ。ブルー(Cキー)だけは中継ジャックのラインアップがなく、表の該当欄は「―」になっている。全部の組み合わせが揃っているわけではない、という点も実物合わせの際には見落としやすい。
では、末尾の数字はどうか。かん合表の型番をよく見ると、レセプタクル列と中継ジャック列の型番には必ず「(70)」が付いているのに対し、プラグ列の型番には一度も付いていない。GT5-1S-HU、GT5-1S-HU(A)、GT5-1S-HU(B)、GT5-1S-HU(C)――かん合キーの記号は変わっても、末尾の数字は最後まで現れない。
この規則性が単なる偶然でないことは、各製品ページのHRS No.(ヒロセ社内の管理型番)を見ると裏付けが取れる。GT5-1S-HUのHRS NoはCL0755-0004-7-00で終わり、GT5-1P-DS(70)のHRS NoはCL0755-0007-5-70で終わる。GT5-1PP-HU(B)(70)もCL0755-0040-0-70だ。型番の括弧の中の数字は、そのままHRS Noの末尾2桁を写し取ったものになっている。つまり(70)は、色やかん合キーのようにお客様側が選ぶオプション記号というより、ヒロセ電機が部品の実体ごとに割り振っている管理番号の一部が、そのまま商品名にも顔を出している、という理解のほうが実態に近い。
ただし、その「70」という数字自体が具体的に何を指しているのかは、カタログにも、各製品の仕様ページにも、製品取説ガイドライン(施工上の注意点をまとめた技術資料)にも説明が見当たらなかった。手がかりが一つだけある。耐熱樹脂グレードのハウジングを使った上位品「GT5EC-1P-DS(71)」は、形状こそGT5-1P-DS(70)と同じ「1P-DS」系列でありながら、末尾の数字が「70」ではなく「71」になっている。製品取説ガイドラインには「耐熱樹脂グレードを用いたGT5EC-1P-DSをラインアップしている」という記述があり、ハウジング材質がPBTからPAに変わっている(製品仕様ページで確認)。数字が違えば仕様も違う、というところまでは言えそうだが、それ以上、「70」や「71」という数字そのものが何かのコード体系(材質コード、工程コード、拠点コードなど)に基づいているのかどうかは、確認できなかった。ここは正直に「未確認」として扱うしかない。
実機への当てはめ ── 6つの型式を分解する
yamlに載っている6つの型式を、ここまでの規則に当てはめて分解する。
GT5-1S-HU:1(極数)・S-HU(プラグ、ライトグレー・標準かん合キー)。末尾の数字はない。製品仕様ページで極数1・コネクタ形状プラグを確認済み。
GT5-1S-HU(B):1(極数)・S-HU(プラグ)・(B)(Bキー・グリーン)。プラグなので、これも末尾に数字は付かない。
GT5-1PP-HU(B)(70):1(極数)・PP-HU(中継ジャック)・(B)(Bキー・グリーン)・(70)。製品仕様ページで極数1・コネクタ形状ジャックを確認済み。中継ジャックなので(70)が付く。
GT5-2PP-HU(70):2(極数)・PP-HU(中継ジャック)・(70)。かん合キーの指定はなく、標準・ライトグレー相当になる。製品仕様ページで極数2・コネクタ形状ジャックを確認済み。
GT5-4S-HU:4(極数)・S-HU(プラグ)。製品仕様ページで極数4・コネクタ形状プラグを確認済み。末尾の数字はない――極数がいくつに増えても、プラグに(70)相当の数字が付かないという規則は崩れない。
GT5-1P-DS(70):1(極数)・P-DS(レセプタクル)・(70)。製品仕様ページで極数1・コネクタ形状レセプタクル・基板実装方法スルーホールDIP・開口部方向ライトアングルを確認済み。
6つとも、極数の数字・形状記号(S-HU/P-DS/PP-HU)・かん合キー(A/B/C)・末尾数字(70)という4層構造にきれいに収まる。GT5-2PP-HU(70)やGT5-4S-HUのように、かん合表の主要な例(1極品)には載っていない多極品も、ヒロセ電機の製品検索(GT5シリーズ全61件)で個別のHRS Noと製品仕様ページを確認すれば、同じ規則で読めることが裏付けられた。
現場で間違えやすい点
一つめは、やはり「S」と「P」の思い込みである。プラグ側が「S」、レセプタクル側が「P」という対応は、直感とは逆方向だ。図面や見積依頼の中でSとPを読み違えると、基板実装用のレセプタクルを探しているつもりで、ケーブル圧着用のプラグを手配してしまう、という取り違えが起こりうる。
二つめは、(A)(B)(C)と(70)を同じ性質の記号だと思い込むことだ。見た目はどちらも括弧書きの記号だが、(A)(B)(C)はかん合表という一次資料に明記された、選べる仕様(色・キー形状)である。一方の(70)は、選択肢というより部品の実体に紐づいた管理番号の一部であって、少なくとも1極・2極・4極のいずれのS-HU(プラグ)にも現れない。この非対称性を知らずに「(70)がない型番は書き間違いではないか」と疑ってしまうと、無用な確認作業が発生する。
三つめは、色が同じだからといって役割まで同じだと考えてしまうことだ。GT5-1S-HU(B)とGT5-1P-DS(B)(70)とGT5-1PP-HU(B)(70)は、いずれもグリーン・Bキーという共通点を持つが、プラグ・レセプタクル・中継ジャックという3つの異なる部品である。かん合表では、Bキーのプラグが嵌合できる相手は、Bキーのレセプタクルか、Bキーの中継ジャックのいずれかであって、色が同じ3点セットをまとめて発注すればよいという単純な話ではない。
実務上の注意点
型番を図面や見積書に転記する際は、極数の数字・形状記号・かん合キーの英字・末尾の数字を、省略せずにそのまま書き写したい。特にかん合キー(A/B/C)は誤嵌合防止の仕組みそのものなので、ここを省略すると、色違いの部品が届いても現場で気づけない可能性がある。
末尾の(70)のような数字については、意味が分からないからといって型番から削って伝えるのは避けたほうがよい。今回の調査で確認できた限り、この数字はHRS No.(ヒロセ社内の管理型番)と対応しており、末尾の数字が変われば別のHRS No.、つまり別の部品として登録されている。数字の意味を推測で埋めるより、型番全体をそのままヒロセ電機の製品検索や販売店に照会し、HRS Noベースで在庫・仕様を確認するのが確実だ。
同じ「S-HU」「P-DS」「PP-HU」という記号でも、GT5-2/1S-HUやGT5-2/1PP-Rのように、極数の位置に「2/1」という別表記を使う型式もGT5シリーズの製品一覧には存在する(いずれも新規設計非推奨品)。今回の記事はyamlに掲載されている6型式――いずれも極数が単一の整数で表される現行品――を対象にした確認結果であり、それ以外の表記まで同じ規則で読めるとは限らない点は、あらかじめ断っておきたい。
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