見積書に並んだ二つの型番、「HS1L-R44KMSR-R」と「HS1L-DQ44KMSR-R」を見比べる。違うのは5・6文字目の「R」が「DQ」に変わっているだけで、残りはすべて同じだ。たった2文字。だから機能もほとんど同じだろう、と流してしまいそうになる。だがIDEC公式カタログ「ソレノイド付安全スイッチ HS1L形」を開くと、この2文字は安全回路の冗長構成そのものを分けている。片方はメイン回路が1系統、もう片方は2系統。制御盤の安全カテゴリを左右する分岐点が、見積書の上ではわずか2文字として現れている。
HS1L形が扱っているのは「ロックできる安全ドアスイッチ」
IDECの安全スイッチには複数の系統があるが、HS1L形が担っているのは「防護扉を開けると機械が止まる」だけでなく、「機械が止まりきるまで扉を開けさせない」というロック機構付きの安全ドアスイッチである。似た型式名にHS1B形・HS2B形があるが、こちらはソレノイドを持たない機械式のキー操作スイッチで、しかも公式サイトのカテゴリページを見ると2024年3月29日付でシリーズ全体が販売中止になっている。HS1L形はそれとは別系統の現行品で、60品番がいまも一覧に並んでいる。
型番はこう組み立てられている。「HS1L」のあとに、回路番号(R・DQ・DT)、ソレノイドユニットの電圧とロック機構(4・7Y)、表示灯の定格電圧(4)、手動ロック解除Keyの有無(K)、ロック強度(MS)、本体色(R)、コンジット口サイズ(無指定・P・M)が続き、ハイフンを挟んで表示灯の色(G・R)が最後に付く。フルスペックの例が「HS1L-DQ44KMSRP-R」だ。8つの区分が一列に並ぶ、と言えば聞こえはいいが、実際にこの文字列を一段ずつ剥がしていくと、思ったより単純ではないことがわかってくる。
回路番号が分けているのは「安全回路を何系統持つか」
型番の先頭、HS1Lに続く2〜3文字(R・DQ・DT)がまず分けているのは接点構成、なかでもメイン回路の系統数だ。Rはメイン回路が1NC+1NCの単一構成で、ドアモニタ回路が1NO/1NC、ロックモニタ回路が2NCという内訳になる。これに対しDQ・DTは、メイン回路を①・②の2系統に分けて持つ二重化構成だ。DQはドアモニタ回路・ロックモニタ回路がそれぞれ1NOずつ、DTは同じ位置がそれぞれ1NCになる。数字ではなくアルファベットの組み合わせで系統数を表しているため、見た目の印象だけでは「Rのほうが型番が短いから簡易版」くらいにしか映らない。だが実際に分かれているのは、単一の安全回路で済ませるか、物理的に独立した2ブロックの接点で冗長性を持たせるかという設計思想そのものだ。制御盤の安全カテゴリ(Category3・4など、リスクアセスメントに基づいて要求される回路の冗長度)を高く取りたい設計であれば、この回路番号の選択がそのまま基本方針を決める。
続く「4」「7Y」はソレノイドユニットの仕様で、電圧とロック機構の種類を1つの記号にまとめている。4はDC24V・スプリングロックタイプで、ソレノイドを励磁するとロックが外れる。7YはDC24V・ソレノイドロックタイプで、逆にソレノイドを励磁するとロックがかかる。どちらも電圧表記はDC24V固定であり、現行カタログにはこの位置に入る別電圧の記号が存在しない。ここで一つ気づくことがある。IDECの照光押しボタンスイッチ(HW1L形)の型番には、AC/DC6VからDC110Vまで複数の電圧記号が用意されていた。同じメーカーの同じ「電圧を型番に埋め込む」という発想でも、汎用の操作スイッチでは選択肢として機能し、安全スイッチでは選択肢が実質1つに絞られている。型番の桁数だけを見ると同じ設計ルールに見えて、中身の自由度はまるで違う。
表示灯の定格電圧「4」(DC24V)が続いたあと、手動ロック解除Keyの有無を示す「K」、ロック強度を示す「MS」(3000N)、本体色を示す「R」(赤/黒)が並ぶ。ここまでで気づくのは、現行の「種類[形番]」一覧表に載っている品番は、K・MS・Rの3か所がすべて同じ値で埋まっているという事実だ。手動ロック解除Keyなし、別のロック強度、別の本体色という組み合わせは、少なくとも現行のご注文形番一覧には1つも存在しない。型番の構成図を見ると8つの区分が並んでいて、いかにも8通りの選択肢がありそうに見えるが、実際に選べているのは回路番号・ロック機構・表示灯色・コンジット口サイズの4か所だけで、残り3か所は固定された記号を律儀に型番へ埋め込んでいるにすぎない。
同じ「R」が型番の中で3回、別のことを言っている
ここでもう一度、冒頭の型番に戻る。「HS1L-R44KMSR-R」。この文字列には「R」が3回登場する。最初の「R」は回路番号で、メイン回路が単一構成であることを示す。次に「KMSR」の末尾の「R」は本体色で、赤/黒の筐体を示す。そして最後、ハイフンのあとの「R」は表示灯の色で、赤色のLEDを指す。同じアルファベット1文字が、位置を変えるだけで回路構成・筐体色・LED色という3つのまったく無関係な仕様を言っている。
これは偶然ではあるのだろう。回路番号のRはおそらく単一(Regular、あるいはSingleに対するもう一つの選び方)を意識した記号、本体色のRは赤(Red)、表示灯色のRも同じく赤(Red)で、後者2つは「赤」を指すという点でむしろ筋が通っている。だがその2つの「赤」が、型番の途中と末尾という離れた位置にそれぞれ独立して存在し、しかも間に無関係な意味の「R」(回路番号)まで挟まっている経緯は、公式カタログを読む限りでは判然としない。おそらく、コンジット口サイズや表示灯電圧といった区分がそれぞれ別の設計時期・別の担当セクションで型番の桁として割り当てられ、あとから一列に結合されているのだろうと推測はできる。ただしこれは推測の域を出ない。IDECが型番の設計思想を体系立てて公開しているわけではないので、確実なことは言えない。
コンジット口サイズも同じ調子で紛らわしい。無指定はG1/2、PはPG13.5、MはM20を表すのだが、ロック強度の記号は「MS」であり、その中の「M」とコンジット口の「M」はまったく別の桁に属している。実際にIDECの製品一覧には「HS1L-R44KMSRM-R」という品番が存在する。「KMSRM」の部分をよく見ると、Kは手動ロック解除Key、MSはロック強度3000N、Rは本体色、そして最後のMがコンジット口サイズM20だ。「M」という文字が2回、7文字の中に2回出てきて、しかも意味が違う。型番を人間が目で追って照合する作業は、この手の再登場する文字によって、思っている以上に間違いやすい。
現場で型番を扱うときに注意したいこと
まず、アクチュエータは本体に付属していない。公式カタログには「アクチュエータは本体に付属していませんので所定の形番でご注文ください」と明記されており、ストレートタイプ(HS9Z-A1S形)・Lタイプ(HS9Z-A2S形)・垂直可動タイプ(HS9Z-A3S形)のいずれかを別途指定する必要がある。本体の型番だけを見積書に書いて満足していると、扉に取り付ける相手側の部材が抜け落ちる。
次に、配線時に内部の配線を勝手に外さないこと。HS1L-R形は回路No.12-41間、HS1L-DQ・DT形は回路No.12-41間および22-51間が、安全回路への入力として使うために工場出荷時点で配線済みになっている。カタログは「規格GS-ET-19に基づく」としてこの配線を外さないよう明記しており、安全回路への入力は回路No.11-42、DQ・DT形はさらに21-52を使うよう指定している。ここを誤って12-41や22-51を直接使ってしまうと、安全機能そのものが成立しない配線になりかねない。
最後に、型式名の近さに惑わされないこと。HS1B形・HS2B形という似た名前の安全スイッチが存在するが、これは機械式のキー操作スイッチで、ソレノイドによるロック機構を持たない別製品であり、しかも2024年3月付でシリーズ全体が販売中止になっている。古い図面やリプレース案件で「HS1」から始まる型番を見かけたときは、Lが付くかBが付くかを確認しないと、現行品にたどり着けないまま手が止まる。
型番の桁を追えば、回路の冗長度もロック機構も読み取れる。ただし、その読み方が合っているかどうか、そして実際にその組み合わせが現行品として在庫・供給できるかどうかは、公式のご注文形番一覧かお見積りで確認するのが確実だ。見積もり依頼をする →
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