改修工事の完了後、半年で同じモーターの軸受から異音が出た。定期グリスアップの記録を確認しても、周期も量も規定通りだ。分解してみると、軌道面には均等な間隔の細かい筋が並んでいる。摩耗にしては規則的すぎるし、圧痕にしては浅すぎる。担当者は「グリスの銘柄が合っていなかったのでは」と考え、増粘剤の種類を変えて様子を見ることにした。
結論から言うと、この見立ては外れていることが多い。軌道面に並ぶ洗濯板状の筋は、機械的な摩耗ではなく、電気的な放電の痕である場合がある。今回のモーターがインバータで速度制御されていたなら、なおさらその疑いが濃くなる。グリスの銘柄をいくら変えても、原因が電気にあるなら症状は再発する。
電食とは何か──軸受メーカーの定義
軸受メーカーのジェイテクト(Koyo)は、電食という損傷を「回転中の軸受の内部に電流が通過した場合に、転がり接触部分の非常に薄い油膜を通してスパークが発生し、表面が局部的に溶解した現象」と説明している。拡大すると、ピットの一つひとつが噴火口のようなくぼみの形をしていることもあれば、転がり面全体が洗濯板状になっていることもあるという。
NTNの技術情報も、軸受内部を電流が通過した際にスパークが発生し、金属組織の溶融が進行することで縞状の凹凸などの損傷につながると説明する。呼び方こそ違え、二つの軸受メーカーが指しているのは同じ現象だ。潤滑油膜という、本来は電気を通さないはずの薄い膜を、電圧が突き破って放電する。その一発一発は微小でも、回転のたびに繰り返されれば、軌道面の外観として蓄積していく。
なぜインバータ駆動でこの電圧が生まれるのか
ここで一つ、はっきりさせておきたい問いがある。商用電源へ直入れしていた時代にはなかったはずの電圧が、インバータに替えた途端に軸へ現れるのはなぜか。
インバータは、交流をいったん直流に変換し、パワー半導体を高速でオン・オフさせることで、擬似的な交流波形を作り出している。この制御方式(PWM:パルス幅変調)の性質上、三相の電圧を足し合わせた中性点の電位は、理想的には0Vのままであってほしいところが、実際には0Vにとどまらず変動する。この変動分がコモンモード電圧と呼ばれるものだ。
問題は、この電圧がモーターの外に出ていかないことである。福田交易の技術資料によれば、コモンモード電圧は、回転子と固定子巻線の間にわずかに存在する静電容量を介して軸上へ分圧され、そのまま軸電圧として現れる。モーターという密閉された機械の内部だけで完結する電気的な経路であり、外部から見れば配線もアースも教科書通りに正しいのに、軸には電圧が乗っている、という状態がここで成立する。
軸受電流は一種類ではない
軸電圧がかかっただけでは、まだ電食には至らない。軸の両端を支える軸受を経由して、電流が実際に流れて初めて放電が起きる。ここで厄介なのは、この電流にも性質の異なる種類があるという点だ。
NTNの整理では、モータ支持用の軸受で対策すべき電流は大きく二つに分かれる。一つは、モータ運転時にモータ軸に電圧変動が生じることで発生するEDM電流。もう一つは、インバータ制御のために電源のオン・オフが繰り返された際、モータ内部を漏れ電流として循環する循環電流である。福田交易の資料はさらに細かく、静電容量による軸電圧起因の電流、高周波の循環電流、フレームの分割構造に由来する電流の3種類に分けて説明している。
種類が違えば、効く対策も違う。福田交易の資料では、静電容量によるEDM電流は「軸をアースさせて対処する」ものとされる一方、高周波循環電流については「片側の軸受で軸絶縁させることが重要」で、軸をアースさせるだけでは、その軸受が循環電流の分流先になる並列回路が一つ増えるだけであり、循環電流そのものを遮断するのは極めて困難だと注記されている。片方に効く手段が、もう片方には効かない。ここを混同したまま「アースしたから大丈夫」と判断すると、対策が効いていない電流の種類を見落とすことになる。
通常の機械摩耗とどう違うのか
電食の厄介さは、原因の見え方が普通の摩耗と紛らわしいところにもある。オリエンタルモーターの製品資料は、ファンをインバータに接続したり高周波機器の近くに設置したりすると、電磁ノイズによって軸受内部に電流が流れ、軌道面に波状の損傷が生じ、異音や軸受寿命の低下を招くとしている。同社がMRS・MREシリーズでセラミック玉軸受を採用しているのは、玉自体を電気的に絶縁性の高い材料に替えることで、この電流の経路そのものを断つためだ。
一方で、福田交易の診断資料は別の角度からの注意を促している。軸受を損傷させるのは、軸受に印加される電圧そのものではなく、軸受に実際に流れる電流によって決まる。そして軸受のインピーダンス(電気的な通しにくさ)は、油膜の厚さ・粘度・温度・回転数・荷重といった潤滑状態に依存する。新しいグリスはインピーダンスが高くなりやすく、結果として軸電圧のピーク値も高くなり、初期段階ではむしろ高エネルギーの放電によるピッティングが形成されるとされる。潤滑が劣化してインピーダンスが下がってくると、今度は放電の開始電圧自体が下がっていく。つまり、グリスの状態がどう変化しても、電圧が接地されていない限り放電そのものはなくならない。グリスアップという保守作業が、電食という電気的な原因の解決にならないのはこのためだ。
現場でどう見分けるか
分解して軌道面を見るだけでも、洗濯板状の筋や噴火口状のピットが確認できれば電食を疑う根拠にはなる。ただし、外観だけで機械的なフレーキング(金属疲労による剥離)と確実に切り分けられるとは限らない。福田交易の診断資料が案内しているのは、軸電圧そのものを時間軸の波形として測定する方法だ。軸受を損傷させるのは印加電圧ではなく実際に流れる電流だが、運転中の電流を直接測るのは難しいため、代わりに電圧の変化を追う。
この波形は、潤滑の状態によっても姿を変える。前述のとおり、潤滑が新しいうちはインピーダンスが高く軸電圧のピークも大きくなりやすい一方、潤滑が劣化してくると軸受インピーダンスが下がり、放電の開始電圧自体が下がってくる。同じモーター、同じ運転条件でも、軸受の状態次第で波形が変わりうるということだ。分解時の外観確認と、稼働中の軸電圧測定を組み合わせれば、単なる勘に頼らずに判断しやすくなる。
対策の骨格──絶縁とアース、二つの方向
ジェイテクトのFAQは、電食への対策を「軸受に電流を通過させないようなバイパスを設置する」ことと「軸受の絶縁を行う」ことの二方向に整理している。この二つは、名前は違っても目指す先は同じで、放電が起きる場所を軸受以外に用意するか、軸受まで電流が届く前に経路を絶つか、という選択だ。
現場で使われる具体的な部材にも、この二方向が対応している。
| 対策の方向性 | 代表的な部材 | ねらい |
|---|---|---|
| バイパス(アース) | シャフトアースリング、導電性ブラシ | 軸電圧を軸受より先に接地へ逃がす |
| 絶縁 | 絶縁軸受、絶縁ブラケット、セラミック玉軸受 | 軸受内部を電流が通れないようにする |
福田交易の資料は、バイパス側の部材としてカーボンブラシとメンテナンスフリーのアースリング(イージス®アースリング等)を、絶縁側の部材として絶縁ブラケットや絶縁被膜軸受を挙げている。カーボンブラシは摩耗が避けられず高周波成分を除去しきれないという弱点があり、絶縁側は静電容量による電流には効いても、循環電流に対しては前述のとおり別の考慮が必要になる。単体の部材で全種類の電流をまとめて解決できるわけではなく、モーターの容量や配線構成に応じて組み合わせを検討するのが実務の要点だ。
見積り・発注で確認しておきたいこと
新設でインバータとモーターをセットで選ぶ場合、モーターメーカーのカタログで軸受仕様(標準軸受か絶縁軸受か)とシャフトアース対応の有無を確認しておくと、あとからの手戻りが少ない。悩ましいのは、既設のモーターへ後付けでインバータを追加する改修だ。そのモーターがもともと商用電源への直入れ運転を前提に設計されていた場合、軸受は絶縁もシャフトアースの機構も持たない標準品であることが多い。インバータ化によって新たに軸電圧という条件が加わるのに、モーター側の対策が追いついていない組み合わせがここで生まれる。
改修計画の段階で、モーターの型番と軸受仕様、既設か新設かを整理しておけば、絶縁軸受への交換とシャフトアースリングの後付けのどちらが現実的か、部材の選定を含めて相談しやすくなる。
あわせて読みたい
- インバータ駆動モーターのノイズ(EMI)対策とシールドケーブル(CV-S)の正しい接地方法
- 真空遮断器(VCB)はなぜ開閉サージを起こしやすいのか|電流裁断・再点弧の仕組みとサージアブソーバの必要性
- モーターの絶縁クラス(耐熱区分)E種・B種・F種・H種とは|記号が示す『温度の上限』とインバータ駆動での注意点
- オリエンタルモーター完全ガイド|ステッピング・ACモーター・ブラシレスの使い分けと『脱調』の正体
関連するインバータ・モーター・軸受・電食・軸電圧・フルーティングの品種・型番をお探しですか?
電材サーチでは、メーカー横断で目的の型番を素早く見つけ、そのまま見積もりを依頼できます。