制御盤の中でモーターがガツンと止まる。設備更新の打ち合わせで、そんな話を聞くことがある。原因を追っていくと、たいてい行き着くのは過負荷でも配線ミスでもなく、電源側の遮断器が投入・遮断された瞬間だったという展開だ。しかも、遮断器そのものは規格通りに正しく動作している。むしろ「よく効きすぎた」結果として、モーターの巻線にダメージが残っていたというケースがある。
主役は真空遮断器(VCB:Vacuum Circuit Breaker)である。高圧受電設備の主遮断器や、高圧モーターの起動・停止を受け持つ遮断器として、いまや最も広く使われている機種だ。小形・軽量で保守の手間が少なく、遮断性能も高い。悪い話が出てくる余地はなさそうに見える。ところが、その「遮断性能の高さ」自体が、別の問題を生む種になることがある。
電流裁断——遮断が速すぎることの代償
交流回路の電流は、1秒間に何十回も自然にゼロを通過する。多くの遮断器は、このゼロ点を待ってから接点を引き離し、電流が自然に途切れるタイミングに合わせて遮断する。電流がすでにゼロなのだから、遮断そのものは静かに終わるはずだ。
VCBの場合、話はそう単純に運ばない。真空バルブの中で電極が離れると、電極間には金属蒸気によるアークが立つ。真空という消弧能力の高い媒体の中では、このアークが電流のゼロ点よりも早く、自ら消えてしまうことがある。電流をまだ流したがっている回路を、ゼロ点を待たずに強制的に断ち切ってしまう格好だ。この現象が「電流裁断(current chopping)」と呼ばれる。
電流裁断そのものは、悪さをする現象というより、VCBの消弧能力の高さが表に出た結果にすぎない。問題は、この先にある。モーターの巻線や変圧器のコイルのようなインダクタンス(コイル状の巻線が持つ、電流の変化を嫌う性質)を含む負荷では、電流を急に止めようとすると、その変化量に比例した高い電圧が誘起される。電流裁断によって生じる、この過渡的な過電圧が「開閉サージ」だ。水道の配管を勢いよく閉めたときに配管内で圧力の跳ね上がりが起きる、いわゆるウォーターハンマー現象に近い理屈だと説明されることもある。
三菱電機の高圧真空遮断器カタログには、低サージ形の真空バルブについて「新しく開発した接点材料で縦磁界を形成する構造とし、裁断電流が小さく、過電圧倍数の小さい低サージを達成した」という記述がある。裏を返せば、標準形のVCBでは接点材料の特性上、裁断電流や過電圧倍数がそれなりの大きさになりうるということだ。VCBという機種そのものが持つ、避けがたい設計上の特性だと考えたほうがいい。
インダクタンスを含む回路では、電流の変化の急しさに応じて誘起電圧が跳ね上がる。ゆっくり電流を絞るのであれば誘起電圧は小さいが、電流裁断のように瞬時にゼロへ落とすと、その分だけ誘起電圧は大きくなる。VCBが「速く、確実に」遮断するほど、この電圧変化はより急峻になりやすい。遮断器としての性能を追求した結果が、そのまま負荷側への負担につながっているわけだ。
再点弧という、もう一つの過渡現象
電流裁断だけでも十分に厄介だが、VCBの消弧特性にはもう一つの側面がある。真空バルブは絶縁回復の速度が非常に速く、電極間のギャップがわずかに広がっただけでも、高い絶縁耐力を取り戻す。通常はこれが長所として働き、短時間での確実な遮断を可能にする。
ただし、遮断のごく初期、まだ接点間の距離が十分でない段階で、回路側の過渡的な回復電圧の振動が絶縁耐力を上回ってしまうと、いったん消えたはずのアークが電極間で再び発生することがある。これが再点弧と呼ばれる現象で、電流裁断と並んで、VCB特有の開閉サージの要因として挙げられている。何度も繰り返し起きる場合には、電圧が段階的に積み上がっていくとされる。ここについては、機種や回路条件によって発生の程度が大きく異なるため、断定的な数値をこの記事で示すことは避けたい。重要なのは、電流裁断と再点弧という二つの経路のどちらもが、遮断器の「消弧が速く確実であること」そのものから生まれているという構造だ。
なぜモーターや変圧器の巻線が狙い撃ちされるのか
開閉サージが問題になるのは、電圧の絶対値そのものより、電圧の立ち上がりが急峻であることが多い。急峻な過渡電圧が巻線に加わると、コイル全体で電圧を分担するのではなく、電源側に近い最初の数ターンに電圧が集中しやすい。フラットな抵抗負荷(ヒーターなど)であれば単純に電圧に耐えればよいが、コイル状の巻線ではこの偏りが絶縁設計上の弱点になりうる。
回転電気機械の固定子コイルについて定めた国際規格IEC 60034-15は、系統から流入する過渡的な電圧に対して、コイルがどこまでのインパルス耐電圧を持つべきかを規定している。裏を返せば、高圧モーターの巻線は最初から「電源側から過渡的な高電圧が飛び込んでくること」を織り込んで設計されている、ということでもある。VCBの開閉サージは、その想定される脅威の代表格の一つに当たる。
サージアブソーバは「常に必要」ではない
ここまでの話だけを聞くと、VCBを使う限りサージアブソーバは必須のように思えるかもしれない。実際には、そう単純でもない。
富士電機の技術資料には、開閉サージ保護装置の適用基準として、標準形VCBの場合は電動機・発電機に対して保護装置(C-Rサージアブソーバ)が「要」、モールド変圧器・油入変圧器は多くの場合「不要」(励磁突入電流を遮断する場合は避雷器が必要)とする表が示されている。低サージ形VCBであれば、これらの負荷に対する保護装置は原則として不要とされている。東芝の技術情報でも同様に、汎用の機種は回転機に対してCRサプレッサでの保護が必要とされる一方、低サージ形として位置づけられる機種は保護不要とされる区分がある。
三菱電機・富士電機・東芝という主要3社の資料が、揃って同じ構造の答えを出している。標準形のVCBはサージ対策を前提とし、低サージ形は接点材料の改良によってその前提そのものを取り除いている。どちらの機種を使っているかによって、サージアブソーバの要否は変わる。
| VCBの種類 | 電動機・発電機への保護装置 | 主な出典 |
|---|---|---|
| 標準形(汎用品) | 必要(C-Rサージアブソーバ等) | 富士電機・東芝の資料 |
| 低サージ形 | 原則不要(インチング運転が主体の回転機は要注意) | 三菱電機・富士電機の資料 |
注意したいのは、低サージ形であっても例外があることだ。三菱電機の資料は、クレーンやコンベアのようにインチング運転(起動・停止を短い間隔で繰り返す運転)を主とする回転機について、低サージ形でもCRサプレッサの使用を案内している。「低サージ形だから絶対に不要」と機械的に判断せず、負荷側の運転パターンまで含めて確認する必要がある。
サージは一度で壊すとは限らない
開閉サージが加わったからといって、モーターや変圧器がその場で焼損するわけではない。多くの場合、絶縁はその一回には耐える設計になっている。厄介なのは、この手のストレスが起動・停止のたびに繰り返しかかるという点だ。特にインチング運転のように投入・遮断の回数が多い用途では、一回あたりの負荷は小さくても、蓄積した先で絶縁劣化として表面化することがある。三菱電機がインチング運転主体の回転機に低サージ形でもCRサプレッサを求めているのは、この「積み重なり」を織り込んだ判断だと読める。
サージアブソーバ自体にも寿命がある。富士電機の資料では、サージ吸収用コンデンサ(CRサプレッサ)の推奨更新時期を15年としている。設置して終わりではなく、設置した機器自体も経年劣化の対象であり、遮断器や避雷器と同様に更新計画に組み込んでおく部材だという扱いだ。
現場での確認の進め方
既設設備の更新や新設の計画で気になった場合、まず確認したいのは次の3点だ。
- 使用しているVCBが標準形か低サージ形か——形式名や銘板、仕様書で確認する
- 負荷の種類——モーター・発電機なのか、変圧器なのか、コンデンサなのか
- 運転パターン——通常の起動・停止だけか、インチング運転を頻繁に行うか
この3点が揃えば、サージアブソーバの要否を、メーカーの技術資料に沿って判断しやすくなる。逆にいうと、この3点を確認しないまま「VCBだから」「モーターだから」といった単純な理由づけで要否を決めるのは避けたほうがいい。
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