キュービクルの年次点検報告書を開いた設備担当者が、指を止める。並んだ項目の中に「OCR整定値:150%」「GR整定値:200mA」という行がある。数字と単位はわかる。だが、それが具体的に何を意味しているのか、この設備の何を守っている数字なのか、説明できる自信がない。
継電器という言葉自体は知っている。事故があったときに電気を止めてくれる機器、という程度の理解だ。だとすれば「整定値」とは、いったい何を決めている数値なのか。継電器そのものの性能表なのか、それとも何か別のものなのか。
保護継電器とは何か——CTとZCTの信号を受け取る「判断装置」
保護継電器は、電流を直接遮断する機器ではない。高圧回路に流れる電流をCT(計器用変流器)やZCT(零相変流器)で電気的に小さな信号に変換し、その信号を受け取って「これは正常か、異常か」を判定し、異常だと判断した場合にだけ遮断器へトリップ指令を送る、いわば判断装置だ。
実際に電流を遮断するのは遮断器の役目であり、継電器はあくまで検出と指令に専念する——chief-engineer.infoの解説はこの役割分担を明確に示している。CT・ZCTという「センサー」、継電器という「判断部」、遮断器という「実行部」の三段構成で、初めて保護という機能が成立する。継電器単体を見て「これが設備を守っている」と考えるのは半分正しく、半分は見落としだ。判断の中身、つまり何をもって異常とするかという基準は、継電器の外側から与えられている。
OCR(過電流継電器)の役割——短絡事故を検出する
OCR(Over Current Relay、過電流継電器)は、電源側から事故点に向かって流れ込む異常な大電流を検出する継電器だ。高圧ケーブルの絶縁が破壊されて相間や相地間が直接つながる短絡事故、あるいは負荷設備の異常で流れ続ける過負荷電流を、CTが捉えた電流値をもとに判定する。
OCRには性質の異なる二つの要素がある。限時要素は過負荷を、瞬時要素は短絡を担当する。電気設備の知識と技術の解説によれば、限時要素はCT比を基準にした「タップ」と、タップ値の何倍でどれだけの時間をかけて動作させるかを決める「レバー」の組み合わせで整定される。瞬時要素は、限時要素のタップ値から算出される電流の倍数で決まる。けんちくせつび.techの整理では、限時要素はおおむね負荷電流の120〜150%、瞬時要素はおおむね負荷電流の1,000〜1,500%が実務上の目安とされる。同じOCRという一つの機器の中に、じわじわ来る異常向けと、いきなり来る異常向けの、二段構えの判定基準が仕込まれているわけだ。
OCGR(地絡過電流継電器)の役割——ZCTと連動し地絡事故を検出する
短絡がわかったところで、次に気になるのは別の事故の形だ。電線の被覆が劣化して、相の電流の一部が大地に漏れ出す——地絡である。これを検出するのがOCGR(Over Current Ground Relay、地絡過電流継電器)で、GRとほぼ同じ意味で使われる。
OCGRが受け取る信号はOCRとは別のセンサーから来る。ZCT(零相変流器)は、同一回路の全相導体をまとめて貫通させる形で設置され、健全な状態では各相の電流のベクトル和がちょうどゼロになるよう作られている。JEEAの解説の通り、地絡が発生すると行きと帰りの電流に差が生じ、その差分がZCTに磁束を誘起して二次側に電流が流れる。OCGRはこの微小な漏れ電流の信号を受け取って地絡の有無を判定する。
なお、地絡電流の大きさだけを見るOCGR(GR)には弱点がある。構内の事故なのか、それとも隣接する系統の事故に反応してしまっているだけなのか、大きさだけでは区別がつかない場合がある。この「もらい事故」を避けるため、電流の大きさに加えて電圧の位相まで見て事故の方向を判別するDGR(地絡方向継電器)が使われることもある。OCR・OCGR・DGRは、同じ「保護継電器」という括りの中で、見ている物理量も守っている事故の種類も異なる、別の役割を持った機器だ。
整定値とは何か——継電器に教え込む「異常の基準」
ここまでの説明で、点検報告書の「OCR整定値150%」「GR整定値200mA」という数字の意味は、もう半分見えている。整定値とは、継電器が「これ以上の電流が、これだけの時間流れたら異常とみなす」と判断するための、電流値と時間の基準そのものだ。
継電器という機械は、それ自体では「正常」と「異常」を知らない。同じ回路構成、同じ製品を使っていても、整定値の設定次第で、ある工場では平時の負荷変動にすぎない電流を「異常」と判定し、別の工場では実際の短絡電流すら「正常範囲内」として見過ごすことが起こり得る。継電器の性能は製品ごとにほぼ一定だが、その継電器が実際に何を守れるかは、整定値という設定にかかっている。「継電器を設置すればあとは自動で守ってくれる」という理解が半分しか正しくないのは、この一点による。
なぜ整定値を電力会社と協議するのか——上位系統との保護協調
では、自社の設備なのだから、自社の判断だけで整定値を決めてよいかというと、そうはいかない。
三菱電機FAのFAQは、整定値の決定には電力会社の配電変電所から需要家までの送電線の過電流特性、受電点以下の保護機器、高圧変圧器の過負荷特性、変圧器投入時の励磁突入電流まで、すべてを検討する必要があり、あらゆる受電設備に共通する標準値は存在しないと述べている。理由は単純だ。需要家の構内で短絡事故が起きたとき、需要家のOCRよりも先に電力会社側のOCRが動作してしまうと、事故と無関係な周辺一帯まで停電させる波及事故になる。けんちくせつび.techの解説にある通り、事故点に最も近い遮断器だけを動作させ、それより上位の遮断器は動作させないという「選択遮断」の考え方が保護協調であり、需要家側のOCRは、電力会社の配電用変電所のOCRよりも確実に速く動作するよう整定しなければならない。
つまり整定値は、自社の設備をどう守るかだけの問題ではなく、電力系統全体の中で自社の設備がどの順番で切り離されるべきかという、階層構造の一部を担っている。だからこそ、整定値の決定・変更には電力会社との協議・確認が実務上避けて通れない。
整定値が不適切だとどうなるか——動かなさすぎる、動きすぎる
整定値のズレは、二つの正反対の方向に問題を生む。
一つは、整定値が実情に対して敏感すぎる、あるいは前提条件を誤ったことによる不必要動作だ。雇用・能力開発機構の資料は、地絡継電器の不必要動作の要因を、ケーブル遮へい層の接地施工不良やZCT二次配線でのノイズ混入といった回路条件の問題と、継電器自体の特性劣化とに大別している。同資料が示す構内充電電流に応じた整定値の目安——充電電流50mA以下なら200mA程度、50〜100mAなら400mA程度、100mAを超えるなら600mA程度——は、この不必要動作を避けるための現実的な調整幅でもある。事故が起きていないのに継電器が動作すれば、その分だけ不要な停電を発生させることになる。
もう一つは、その逆で、整定値が実情に対して緩すぎる、あるいは上位系統との協調が崩れていることによる不動作・遅延動作だ。本来なら遮断されるべき短絡電流や地絡電流が流れているのに、整定値の設定次第でその判定基準に届かなければ、継電器は「正常」と判断したまま動かない。あるいは動作はしても、電力会社側の保護装置より遅れて動作すれば、需要家の構内事故が周辺の系統を巻き込む波及事故に発展しかねない。どちらの方向にせよ、原因は継電器という機械の故障ではなく、整定値という設定が現場の実情と噛み合っていないことにある場合が多い。
定期点検で整定値を確認する理由
ここまでの話を踏まえると、定期点検で行われる保護継電器の動作試験の意味も変わって見えてくる。単に「継電器が壊れていないか」を確かめる作業ではない。今まさに設定されている整定値が、現在の設備構成・負荷状況・上位系統の保護協調の条件に照らして、なお適切かどうかを確かめる作業だ。
変圧器やコンデンサの増設・更新、負荷設備の入れ替え、ケーブルルートの変更があれば、以前に決めた整定値の前提条件そのものが変わる。継電器自体の経年劣化による特性変化も報告されている以上、整定値は一度決めて終わりにできる数値ではない。設備改修のたびに、整定値が今の設備に合っているかを見直す機会として、定期点検を位置づける必要がある。
保護継電器まわりの部材調達について
「キュービクルの改修に合わせてOCR・OCGRを更新したい」「既設の継電器から、対応するCT・ZCTの仕様を確認したうえで手配してほしい」「増設予定の変圧器容量に見合う継電器を選定してほしい」という電気管理技術者・設備工事ご担当者様へ。電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、OCR・OCGR・DGRを含む保護継電器と、CT・ZCTなどの関連資材を幅広く取り扱っている。整定値の検討・電力会社との協議自体は電気管理技術者や保安協会が担う領域だが、その協議結果に合った機器・仕様の手配は当サービスまでご相談いただける。
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