冒頭の場面・会話は、内容の理解を助けるための例示です。特定の現場・企業・案件を指すものではありません。
改修工事で溶接ロボットのアーム配線を交換したとき、ちょうど倉庫に転がっていたCVV制御ケーブルで代用した——という判断が、半年後にとんでもない形で跳ね返ってきた現場がある。ロボットの手首(第6軸)が動くたびにケーブルは同じ箇所で曲げられ続け、外観上の破れはなかったにもかかわらず、内部の導体はいつの間にか断線していた。原点復帰のたびに信号を取りこぼすようになり、原因不明のエラーとして数週間放置されたのち、ようやく配線内部の断線にたどり着いた。同じ銅・同じビニル系の被覆に見える電線でも、「固定して使う」ことを前提に設計されたケーブルと、「動かし続ける」ことを前提に設計されたケーブルは、中身の構造がまるで違う。
ロボットケーブルとは——「動き続ける」ことに特化した電線
固定配線用のケーブルは、一度敷設したら動かさないことを前提に設計されている。一方でロボットケーブル(可動配線用ケーブル)は、産業用ロボットの腕や手首のように同じ箇所を繰り返し曲げ・ねじられる用途のために専用設計された電線だ。大電株式会社の技術資料は、ロボットケーブルに「屈曲性・捻回性」が求められる一方、一般的な標準ケーブルはこうした過酷な繰り返し動作に耐えられず断線してしまう、と説明している。専用設計とは柔らかい被覆を使うという話ではなく、導体・絶縁・シース(外装被覆)のそれぞれの層に、屈曲疲労に耐えるための設計判断が積み重なっている、という意味だ。
何が違うのか——導体・絶縁・シースの三層構造
導体:極細線を二段階に撚り合わせる
大電の資料は、ロボットケーブルの導体構造を「髪の毛程の大きさの極細線を複数本撚り合わせ、さらにその束を撚り合わせた構成」と説明している。細い線を束ねるだけでなく、束自体をもう一段撚り合わせる二段階構造だという。
具体的な数値も確認できる。住友電工の耐屈曲ケーブル「F-2PNCT」(特殊移動用2種EPゴム絶縁クロロプレンキャブタイヤケーブル)を扱う泉州電業の製品情報では、導体構成が「45/0.32」「70/0.32」と表記されている。0.32mmという極細の素線を45本、あるいは70本撚り合わせているという意味だ。同じ導体断面積でも、素線1本あたりが細いほど、同じ曲げ半径で生じるひずみは小さい。ひずみが小さければ、疲労破壊——金属が繰り返し変形することで微小な傷が進展し、最終的に破断する現象——に至るまでの屈曲回数は伸びる。労働安全衛生総合研究所のワイヤロープ素線切れの資料も、繰り返し曲げによる疲労破壊(フレッティング疲労)は同じ仕組みで進行すると説明している。制御用のCVVがロボットケーブルほど素線を細く多段に撚っていないのも、盤間の固定配線を主用途としているためだ。冒頭の断線は、動かない前提の電線を動かし続けたことで素線1本あたりのひずみが大きいまま繰り返し屈曲を受け、疲労破壊までの時間が縮んだと考えれば筋が通る。
絶縁体:柔らかければいいわけではない
意外に思われるかもしれないが、大電の資料は各心線を覆う絶縁体について「かたくてすべりのよいもの」を選定していると説明し、特殊エラストマーやETFE(絶縁性・耐薬品性に優れたフッ素樹脂の一種)を採用しているとしている。理由は明快で、絶縁体が柔らかすぎると屈曲時に局所的に曲がり、そこに応力が集中して早期断線につながるからだ。曲げやすさと屈曲寿命は必ずしも一致しない。「柔らかい素材=屈曲に強い」という感覚的な思い込みは、ここで裏切られる。
シース・導体材質:用途に応じた作り分け
外装のシース材は難燃・耐油性PVCが基本で、大電は用途に応じて薄肉耐摩耗PVC・滑性PVC・ポリウレタン・低アウトガスPVC(発生ガス量を通常品比で約1/3に低減)といった特殊シースも用意する。海外メーカーにはTPE系シースの例もあり、選択肢は洗浄環境や耐油環境など設置条件で分かれる。導体材質にも段階があり、標準のスズメッキ軟銅線に対して銅合金導体は耐屈曲性が大幅に向上するという。長寿命が求められる用途では、導体材質のグレードアップも選択肢に入る。
型式表記から読み取れること
大電の型式解説を整理すると、次の対応関係になる。
| 記号の位置 | 表す内容 |
|---|---|
| 用途 | RM=可動部配線、HR・SCL=固定部配線 |
| 絶縁材 | FE=ETFE、D=特殊エラストマー、C=架橋ポリエチレン |
| シース材 | V=PVC、H=薄肉耐摩耗PVC、S=滑性PVC、U=ポリウレタン |
| 導体種類 | 記号なし=軟銅線系、「Ⅱ」あり=銅合金線 |
| シールド | -SB=編組、-SBX=耐屈曲編組、-SW=横巻 |
型式の頭に「RM」のような可動用途の記号が入っているかは、可動部を想定した設計かどうかを見分ける最低限の目印になる。こうした記号を持たない一般的なケーブル(VCT・VCTF・CVVなど)は、外観やサイズが同じでも、繰り返し屈曲を前提とした設計ではない。
屈曲寿命は「保証値」ではなく「参考値」
屈曲寿命は素線構成や被覆材質だけで決まらない。大電は屈曲試験機(26台、±90°)・捻回試験機(29台、±45°〜360°)・U字曲げ試験機(22台)を保有し、蓄積した試験データをもとにした寿命シミュレーションソフトで屈曲寿命を算出するサービスを提供しているが、同社はこの結果について「保証値ではなく参考値」であると明記している。実際の曲げ半径・屈曲速度・周囲温度・配線経路によって、現場ごとの寿命は変動するからだ。カタログ上の数字を鵜呑みにするのではなく、実際の使用条件を伝えたうえでメーカーに寿命算出を相談するのが、遠回りに見えて確実な進め方になる。
発注前に確認したいこと
可動部への配線を発注するときは、次の3点を確認しておくと選定のやり直しを防げる。
- 可動条件:曲げ半径・屈曲角度・屈曲速度・1日あたりの動作回数のおおよそ
- 環境条件:油・薬品・粉じん・洗浄水などへの暴露の有無
- 心数・サイズ:既設の電源線・信号線・シールド線の構成に合わせる
既設のロボット配線を更新するだけなら、現物の型式をそのまま踏襲するのが最も確実だ。型式が読み取れない、あるいは廃番の場合は、可動条件を伝えたうえで代替品を相談するとよい。
ロボットケーブル・可動配線用ケーブルの購入・見積りについて
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)でお見積り・ご購入いただけます。型式が分かればその型式で、分からない場合は可動条件・心数・サイズをお伝えいただければ、法人・施工業者様向けに迅速に見積り対応します。
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