見積依頼のメモに「キャブタイヤ 0.75sq 2芯 30m」とだけ書いてある。VCTか、VCTFか。どちらも灰色のシースに丸い断面で、メモの書き方だけでは区別がつかない。実際、住友電工の標準品で0.75sqを比べると、導体はどちらも直径0.18mmの銅線30本で、まったく同じです。違うのは導体の外側で、その違いが使える電圧と場所を分けます。
VCTもVCTFも「移動用」の電線なのに、メーカーの技術資料では、ケーブルキャリア(ケーブルベア)への配線に×が付いています。動かすための電線を、なぜ動き続ける場所には勧めないのか。
VCTとVCTFは、導体が同じで「着ている服」が違う
キャブタイヤは、作業現場で移動しながら通電できる電線の総称です。パナソニックの用語辞典は、名前の由来を「タイヤのようにゴムで被覆(シース)されていること」と説明し、職人用語として「CTケーブル」の呼び方も載せています。VCTとVCTFは、そのビニル版です。
- VCT: JIS C 3312「600Vビニル絶縁ビニルキャブタイヤケーブル」。600V以下の移動用電気機器の電源回路などに使う。1956年制定
- VCTF: JIS C 3306「ビニルコード」に含まれるビニルキャブタイヤ丸形コード。屋内で交流300V以下の小形電気器具に使う。1950年制定
どちらも電気用品安全法の特定電気用品です。施行令の別表第一は、定格電圧100V以上600V以下の電線のうち「コード」と「キャブタイヤケーブル(導体の公称断面積が100mm²以下及び線心が7本以下のものに限る)」を挙げています。住友電工の仕様書から、同じ0.75mm²・2心で並べると違いがはっきりします。
| 項目 | VCTF(コード) | VCT(ケーブル) |
|---|---|---|
| 規格 | JIS C 3306 | JIS C 3312 |
| 使用電圧 | 屋内・交流300V以下 | 交流600V・直流750V以下 |
| 試験電圧 | 2000V・1分 | 3000V・1分 |
| 導体(0.75mm²) | 30本/0.18mm | 30本/0.18mm |
| 絶縁体の厚さ | 0.6mm | 0.8mm |
| シースの厚さ | 1.0mm | 1.7mm |
| 2心の仕上外径 | 約6.6mm | 約8.8mm |
| 最小絶縁抵抗(20℃) | 5MΩ・km | 50MΩ・km |
| 住友電工標準品のサイズ | 0.3〜2mm² | 0.75〜60mm²(2心) |
※住友電工 ビニルキャブタイヤコード・ケーブル 標準仕様書より。導体最高許容温度はどちらも60℃。
使える場所は「電圧」と「熱を使う機器か」で決まる
定格電圧だけで選ぶと、法令の線を踏み外します。電気設備の技術基準の解釈第171条は、低圧の移動電線の断面積を0.75mm²以上とし、使える電線の種類を171-1表で決めています。ビニル系に関係する部分を抜き出すと次のとおりです。
| 電線の種類 | 屋内・300V以下 | 屋側・屋外・300V以下 | 300V超 |
|---|---|---|---|
| ビニルキャブタイヤコード(VCTF) | △(乾燥した場所に限る) | △(屋側で雨露にさらされない場合に限る) | 使えない |
| ビニルキャブタイヤケーブル(VCT) | △ | △ | ▲ |
| 2種以上のキャブタイヤケーブル(2PNCT等) | ○ | ○ | ○ |
△は、電気を熱として利用しない電気機械器具(解釈の例示は、差込み接続器を介さないで直接接続される放電灯・扇風機・電気スタンド)、電気温水器のように高温部が露出せず接続部が80℃以下で外面が100℃を超えない電熱器、移動点滅器に附属する移動電線に限る、という印です。▲は、電気を熱として利用しない電気機械器具に附属する移動電線に限ります。
モータで動くポンプのように電気を熱として使わない機器ならビニル系も候補になりますが、電気ヒーターや乾燥炉のように電気を熱として使う機器の移動電線には、条件に合う電熱器を除いてVCT・VCTFを使えません。そこは2種以上のゴムキャブタイヤ(2PNCT等)の出番です。400V級の移動機器にVCTを使えるのも、▲の条件の範囲だけです。
選び方:3つの質問で品種が決まる
| 質問 | 答え | 選ぶ電線 |
|---|---|---|
| 使用電圧は300Vを超えるか | 超える(400V級) | VCT(熱を使わない機器に限る)か、2種以上のゴムキャブタイヤ |
| 電気を熱として使う機器か | ヒーター・乾燥炉など | 2種以上のゴムキャブタイヤ(解釈の条件に合う電熱器を除く) |
| 冬の屋外や熱源の近くで使うか | 使う | ゴム系(2PNCT等)を検討(下の温度の項を参照) |
| ケーブルキャリア・ロボットで常時動くか | 動く | 可動部用の移動用ケーブル(ロボットケーブル) |
| 上のどれにも当たらない、屋内の小形機器 | 300V以下 | VCTF(0.75mm²以上) |
| 上のどれにも当たらない、動力の移動機器 | 三相200Vのポンプ等 | VCT |
| そもそも動かさない | 固定配線 | VVF・CVなどの固定用 |
油や薬品にさらされる機械まわりは太陽ケーブルテックSUNLIGHTシリーズの選び方、キャブタイヤ全体の型番・外径・許容電流はキャブタイヤケーブルの品種ページにまとめています。
現場で間違いやすい点
余ったVVFを移動機器の電源にする
VVFの導体は1.6mmや2.0mmの単線で、壁の中で動かさない前提の電線です。仮設のポンプや移動する機械の電源にそのまま使うと、曲げ伸ばしが同じ箇所に集中して導体が疲労し、被覆の中で折れることがあります。移動電線は、法令上も171-1表のコード・キャブタイヤケーブルから選ぶものです。
VCTFの0.3sq・0.5sqを電源コードにする
住友電工の仕様書は、VCTFの0.3〜0.5mm²を「100V未満の回路にしか使用できない」としています。解釈第171条でも、低圧の移動電線は0.75mm²以上です。細いVCTFは、100V未満の回路(制御・信号など)に限られるサイズです。
冬の屋外でビニル系を引き回す
ビニルは寒さで硬くなります。太陽ケーブルテックの使用温度一覧では、VCT・VCTFの敷設可能最低温度は-10℃、固定配線の最低温度は-15℃です。ゴム系の2PNCT・3PNCTは固定配線の最低温度が-30℃、定格温度も80℃(ビニル系は60℃)なので、冬の屋外や熱源の近くではゴム系が有利です。
8心以上のVCTは、電気用品安全法の外にある
特定電気用品に入るキャブタイヤケーブルは、導体100mm²以下・線心7本以下に限られます(電気用品安全法施行令 別表第一)。特定以外の電気用品を並べた別表第二にも、キャブタイヤケーブルは挙がっていません。住友電工のVCTには10心・20心といった多心品がありますが、これらは別表の範囲の外です。多心のVCTにPSEの表示がないことは、それだけで不良の印にはなりません。
一段深い理解:動かすための電線でも、動き続ける場所には向かない
より線が曲げに強い理由は、素線1本が受けるひずみの大きさで説明できます。線を曲げたとき表面にかかるひずみは、材料力学の基本式で「線径÷曲げの直径」です。VVFの1.6mm単線と、VCTFの0.18mmの素線を同じ半径で曲げると、ひずみは線径に比例するので、素線1本のひずみは単線の約9分の1(0.18÷1.6)で済みます(計算)。ひずみが小さいほど、疲労で切れるまでの曲げ回数は伸びます。
それでも、より線は無敵ではありません。労働安全衛生総合研究所はワイヤロープの素線切れについて、撚った線を曲げると内側と外側の素線の間にずれが生じてこすれ合い、き裂が生まれる「フレッティング疲労」を説明しています。き裂は曲げのたびに少しずつ進み、やがて素線が切れる。素線切れの数は、シーブ(綱車)を通って曲げられる回数に依存します。鋼のワイヤロープについての説明ですが、撚った素線を同じ場所で繰り返し曲げるという条件は、より線の導体にもそのまま当てはまります。
ケーブルキャリアやロボットの関節は、同じ場所を繰り返し曲げ続けます。太陽ケーブルテックの許容屈曲半径一覧表で、キャブタイヤ類(VCT・VCTF・2PNCTなど)の欄が、固定部配線4Dに対して可動部のU字配線・ケーブルキャリアともに×になっているのは、この使い方を想定した構造ではないからです。同社は、VCTから進化したのがロボットケーブルだと説明しています。「時々動かす」ならキャブタイヤ、「動き続ける」なら可動部用の移動用ケーブル。境目はそこにあります。
注文するときに伝えること
注文は「品種+サイズ(sq)−心数+長さ」で伝わります。
例:「VCT 2sq-4C を 50m」
「VCTF 0.75sq-3C を 100m巻で 1巻」
- 使用電圧と、つなぐ機器が電気を熱として使うものか(ヒーター類か)を添えると、VCTか2PNCTかの判断を間違えません
- 屋外・寒冷地での使用や、ケーブルキャリアなど常時動く箇所に使う場合も、その旨を添えます
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