深夜の改修工事を終え、盤の主電源を落として翌朝また入れる——たったそれだけの操作のはずだった。ところが朝一番、片方のラインは警報ブザーとともに「原点復帰運転」を要求してくる。オペレーターが手動ボタンを押し、軸をゆっくり基準位置まで戻してやらないと、生産はいつまでも始まらない。もう片方のラインは、電源が入った瞬間から何ごともなかったかのように前日の続きの位置から動き出す。どちらのモータにも「エンコーダ」と呼ばれる位置検出装置が付いているはずなのに、この差はどこから生まれるのか。
「エンコーダが付いているなら、位置くらい覚えているに違いない」と思うのは無理もない。エンコーダはモータの軸に直結され、軸がどれだけ回転したかを電気信号に変換して出力する部品だ。オリエンタルモーターの技術用語解説でも、エンコーダは大きく「インクリメンタル形」と「アブソリュート形」の2方式に分類されると説明されている。ところが、この「覚えている」という言葉の中身は、方式によってまるで別物になる。
インクリメンタル型——数えているのは「量」であって「位置」ではない
インクリメンタル型エンコーダは、円盤に刻まれたスリットを光や磁気で読み取り、軸が回転するたびにパルスを発生させる方式だ。制御装置はそのパルスを数え続け、数えた量から「基準点からどれだけ動いたか」を割り出す。
ここで見落としやすいのが、DigiKeyの技術解説が指摘する点だ。この方式では「既知の固定位置を参照する必要」があり、「位置を把握する前にシャフトを回転させる必要」がある。つまりインクリメンタル型が扱っているのは、常に相対量でしかない。電源を入れた瞬間、制御装置は軸が現在どこにあろうと、それを暫定的に「ゼロ」として扱ってしまう。実際の機械原点とその暫定ゼロが一致している保証はどこにもない。
だから電源投入直後には、リミットスイッチや近接センサといった外部の基準検出器を使って一度実際の原点まで軸を動かし、そこで初めてカウンタをリセットし直す動作——原点復帰——が必要になる。パルスのカウンタそのものが揮発性で、電源が切れた瞬間に積み上げてきた数値は失われる。これは壊れているのではなく、この方式が最初からそう設計されているというだけのことだ。
厄介なのは、原点復帰が完了するまでの間、制御装置は軸の実際の位置を知らないまま動作の指令を出しかねないという点だ。DigiKeyの解説も、起動時に位置情報がすぐ必要な用途では「誤った方向回転による機器損傷リスク」があることをアブソリュート型を推す理由の一つに挙げている。原点復帰運転を安全な速度・安全な範囲で行うシーケンスをきちんと組んでおかないと、位置が定まらないまま軸を動かした結果、機構が可動端に突き当たるといった事態にもつながりかねない。
アブソリュート型——角度そのものを直接読み取る
一方のアブソリュート型は、発想の出発点が違う。円盤に複数のトラックでパターンを刻み、その組み合わせを読み取ることで、回転角度そのものを一意の値として直接検出する。パルスを数えて積算するのではなく、いま軸がどの角度にあるかを毎回コードとして読み出す方式だ。
DigiKeyの解説によれば、アブソリュート型は「電源が入ると直ちにコードを読み取り、有効な出力を生成」する。「センサに位置を決定させるためにリファレンスを設定したり、シャフトを回転させる必要はなく」、結果として原点復帰そのものが不要になる。安川電機のΣ-7シリーズ向けニュースリリースでも、絶対値エンコーダの採用によって原点復帰にかかっていた時間を省き、タクトタイムの短縮につながる点が導入メリットとして挙げられている。
ただし、話はここで終わらない。1回転の中の角度が分かっても、ボールねじで駆動するテーブルのように何回転もする軸では、「いま何周目の、何度の位置か」まで分からなければ絶対位置は確定しない。DigiKeyの解説では、マルチターン対応のアブソリュート型は「軸位置だけでなく回転数も出力できる回転カウンタ」を内部に持つとされている。1回転内の角度は円盤のパターンから直接読み取れても、何周目かという情報は別途数え続けなければならない——この「多回転(マルチターン)」の情報をどう保持するかが、アブソリュート型の実装を分ける分岐点になる。
なお通信面にも違いがある。DigiKeyの解説によれば、インクリメンタル型は位相が90度ずれた2つの矩形波(パルス列)を出力するだけの信号のため、そのパルスを追跡して数値化する外部回路(直交デコード回路)が別途必要になる。対してアブソリュート型は、読み取った位置情報をシリアルバスを介してデジタルのまま伝送できる方式が主流だ。サーボアンプとエンコーダの対応方式が食い違うと通信そのものが成立しないため、更新工事で機種を替える際は、この通信方式の一致も確認すべき項目になる。
バッテリーバックアップと、バッテリーレスという解法
多回転量を数え続けるには、主電源が切れている間も回転検出の仕組みを動かし続ける必要がある。従来の一般的な解法は、エンコーダ内部にバックアップ用のバッテリーを積み、主電源が断たれてもバッテリーの電力で回転量のカウントを維持し続けるというものだった。多摩川精機のアブソリュート方式(マルチターン)製品ページでも、バッテリー搭載モデルは通常駆動時に50〜125mA程度の消費電流が必要になると案内されている。
この方式には、現場で地味に効いてくる保守項目が一つ付いて回る。電池は消耗品であり、いずれ切れる。多くのサーボアンプには電池電圧の低下を知らせる警告機能が備わっており、警告が出た段階で交換すれば位置情報は保持されたまま済む。しかし警告を見過ごしたまま電池が完全に切れると、積み上げてきた多回転量は失われ、結局そこで原点復帰をやり直す羽目になる。「アブソリュート型だから原点復帰と無縁」と思い込んでいた現場が、電池切れの瞬間だけはインクリメンタル型と同じ状態に戻ってしまうわけだ。
この電池管理の手間を嫌って生まれたのが、バッテリーレス方式である。安川電機のニュースリリースでは、エンコーダ内部の磁石とコイルによって多回転動作そのものを自己発電のエネルギー源とし、検出した回転量を不揮発性メモリに書き込む仕組みが説明されている。多摩川精機のバッテリーレスモデルの消費電流が数十マイクロアンペア程度とされている数値からも、バッテリー搭載型とは電力の使い方の設計思想そのものが異なることが読み取れる。電池交換という保守作業そのものをなくしつつ、電源断からの位置保持というアブソリュート型の利点だけを残す方向への進化と言える。
朝、警報とともに原点復帰を要求してきたラインと、前日の続きから何ごともなかったように動き出したライン——その差は、方式の名前の違いというより、電源が切れている間「位置」という情報がどこにどう保管されていたか、そしてそれを保つための電力(バッテリーであれ自己発電であれ)が途切れなかったかどうかの違いだったことになる。
どこでどう使われているか
| 現場・用途 | 選ばれやすい方式 | 理由 |
|---|---|---|
| コンベアの搬送速度制御 | インクリメンタル型 | 絶対位置より回転量・速度の把握が主目的でコストを抑えやすい |
| ボールねじ駆動の位置決めテーブル | アブソリュート型 | 電源再投入のたびに原点復帰していてはタクトタイムが伸びる |
| 産業用ロボットの関節軸 | アブソリュート型 | 複数軸が同時に原点復帰すると干渉・安全確認の手間が大きい |
| 汎用ポンプ・ファンの速度制御 | インクリメンタル型 | 位置決め精度が不要で、原点復帰の概念自体が関係しない |
選定・発注で注意すべきこと
- 既設設備の更新は方式をまず確認する:モータ単体ではなく、サーボアンプ(ドライバ)側もエンコーダ方式・通信方式に対応している必要がある。方式を変える更新は配線・パラメータ設定まで含めた一式での検討になる。
- バッテリー搭載型は電池の管理計画も含めて選ぶ:交換周期や在庫確保まで含めて考えないと、警告を見落として原点復帰が必要になる事態を招く。
- 原点復帰にかかる時間がボトルネックかどうかで判断する:タクトタイムに余裕がある設備では、構造がシンプルで安価なインクリメンタル型で十分なことも多い。DigiKeyの解説でも、アブソリュート型は構造が複雑な分「通常はより高価」とされている一方、その価格差は縮小傾向にあるとも述べられており、コストと原点復帰の手間のどちらを優先するかで選定が分かれる。
新規設備の設計でも、既設設備のモータ交換・更新でも、方式を取り違えると発注し直しになりやすい部分です。型番が分かっている場合はもちろん、現物の銘板や既設アンプの仕様書だけが手元にあるという状態からでも、松本電業株式会社(電設資材専門商社)で仕様確認からお見積りまで対応しています。
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