制御盤の年次点検票には、たいてい「端子ねじの増し締め確認」という一項目が並んでいる。ところが、同じ盤の中に混在するばね式(プッシュイン式)端子台の列には、この項目がそもそも存在しない。どちらも「電線を固定する」という同じ仕事をしているはずなのに、なぜ片方だけが点検リストに載り、もう片方は最初から除外されているのだろうか。
答えの手がかりは、固定する力のつくり方そのものにある。
ねじ式とばね式——力のつくり方が違う
ねじ式端子台は、ねじの締付トルクによって導体を押さえつける。この方式の弱点は、力が「一度かけたら、あとは維持されるだけ」という性質にあることだ。通電・停止を繰り返すヒートサイクルや振動が加わると、締結面のわずかな凹凸が押し潰されて沈み込み、締付力はじわじわと目減りしていく。だからこそ、力が減っていないかを人間が定期的に確かめ、足りなければ締め直す——増し締めという作業が必要になる。このメカニズムの詳細は別記事で扱っているが、要は「かけた力は自然に減る」という前提に立った運用がねじ式には組み込まれている。
一方、ばね式は板ばねの弾性そのものが接触圧を生み出す。ねじのように「一度締めて終わり」ではなく、ばねが常に導体を押し続ける構造だ。振動でねじが回転して緩む、という現象自体が原理的に起こりようがない。JIS C 8201-7-1でも、この方式は「ねじなし締付具タイプ」として、ねじ式と並ぶもう一方の対象方式に位置づけられている(kikakurui.com掲載情報による)。
ここまでは、電気工事に関わる人なら一度は聞いたことのある説明かもしれない。だが、もう一歩踏み込むと、あまり知られていない事実に行き当たる。
ばね自体は、経年でへたらないのか
締結力が「かける力」ではなく「ばねの弾性」で決まるなら、そのばね自体が金属疲労でへたってこないのか、という疑問は当然出てくる。実はこの点、WAGOの技術資料が具体的な数字で答えを出している。同社のケージクランプ(スプリングクランプ)方式は、30年以上に及ぶ連続使用試験でも接触破損・摩耗・腐食の兆候が見られず、最大2,000Hz・20gの振動加速度を与えても接触が途切れないという評価結果が示されている(WAGO公式サイトによる)。
さらに興味深いのは、この資料が挙げるもう一つの特性だ。導体である銅は、圧力を受け続けると極めてわずかながら「流動」し、時間とともに形状がなじんでいく性質がある。ねじ式の場合、この導体側の微小な変形は、締付力が目減りする一因にもなる——一度決まった締付力は、導体が動いた分だけ帳尻が合わなくなるからだ。ところがばね式では、スプリング圧そのものがこの導体の流動変形を追いかけて補償し、接触状態を一定に保つ構造になっている(WAGO公式サイトによる)。つまりばね式が緩まないのは、単に「ねじが物理的に存在しないから振動で回らない」という消極的な理由だけではない。導体側のわずかな変形にすら追従し続けるという、能動的な仕組みが働いているからだ。この一点は、「ねじ式は緩む、ばね式は緩まない」という結果だけを覚えている実務者でも、案外説明できない部分ではないだろうか。
各社の位置づけ——両輪型と専業型
締結方式の構造がわかったところで、次に気になるのは「では各メーカーはどちらに強いのか」という点だ。
| メーカー | ねじ式 | ばね式(プッシュイン/スクリューレス) | 立ち位置 |
|---|---|---|---|
| フェニックス・コンタクト | UKシリーズ(2.5〜95mm²対応) | CLIPLINEシリーズ | 両方式を主力に据える総合型。DINレール取付端子台の先駆けとされる |
| ヴァイドミュラー | Klippon Connect(WDUシリーズ) | ZDUシリーズ | フェニックス・コンタクトと同様、両方式を併存させる総合型 |
| WAGO | (周辺製品として展開) | 221・2273・TOPJOB S各シリーズ | スプリングクランプ技術を核とするばね式専業に近い立ち位置 |
| 日東工業 | TBFシリーズ(ブレーカ用・経済形) | — | 分電盤・制御盤筐体メーカーとして、ブレーカ接続部材の文脈で端子台を展開 |
(各社公式サイト・製品情報を参考に整理)
フェニックス・コンタクトとヴァイドミュラーは、ねじ式・ばね式のどちらも自社の主力シリーズとして持つ「両輪型」だ。対してWAGOは、社名を聞けば多くの実務者が真っ先に「スプリングクランプ」を思い浮かべるほど、ばね式に軸足を置いた展開をしている。日東工業は、そもそも比較の土俵が少し異なる。DINレール取付の信号・制御用端子台ではなく、ブレーカと外部配線をつなぐ盤メーカー系の端子台という文脈で登場する会社だ。なお、オムロンのリレーやセンサーも同じ制御盤内でDINレールに実装される部品であり、端子台とは同じ盤内で隣り合う関係にある機器として選定時にあわせて検討されることが多い。
選定基準——現場条件から逆算する
方式選びの実務は、規格上の優劣ではなく、現場条件から逆算するのが基本になる。
- 振動環境: 鉄道車両・産業機械・屋外設備など振動が常態化した設備では、ねじの緩みという概念自体が存在しないばね式が有力な選択肢になる
- 保守体制: 定期点検の頻度が高く、増し締め要員を確保しやすい現場ではねじ式の実績とコストパフォーマンスが活きる。逆に遠隔地・無人化設備ではばね式が保守負担を減らす
- 配線本数: Weidmullerの公式情報によれば、プッシュイン接続はねじ締め・ケージクランプ接続と比べて配線時間を最大50%短縮できるとされ、配線点数の多い盤ではこの差が工期に直結する
- 電流容量: 大断面積・大電流の幹線ではねじ式の選択肢が伝統的に厚いが、WAGOのTOPJOB Sのように大断面積対応のばね式品番も拡大している。方式名だけで対応電流を判断せず、品番ごとのカタログ値を確認する
注意点——「全部ばね式に統一」の落とし穴
ばね式の緩みにくさばかりが強調されると、「盤内をすべてばね式に統一すればよい」という発想に流れがちだが、これには2つの落とし穴がある。一つは、大電流・特殊形状の回路では対応品番がねじ式ほど揃っていない場合があること。もう一つは、盤内の一部だけをばね式に置き換えても、残ったねじ式端子の増し締め管理が不要になるわけではないことだ。方式を混在させる盤では、どの列がどちらの方式かを図面・ラベルで明確にしておかないと、点検担当者が「増し締め対象かどうか」を現場で判断に迷う原因になる。
まとめ
ねじ式とばね式の違いは、単なる工具の要不要ではなく、締結力を「一度かけて維持する」方式か「ばねが能動的に追従し続ける」方式かという構造の違いに行き着く。フェニックス・コンタクトとヴァイドミュラーは両方式を主力として抱え、WAGOはばね式に軸足を置き、日東工業はブレーカ接続という別の文脈で端子台を展開する——この位置づけを踏まえたうえで、振動環境・保守体制・配線本数・電流容量という現場条件から方式と品番を逆算するのが、実務としてもっとも手戻りの少ない選び方になる。
各メーカー製品の購入・見積りについて
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、フェニックス・コンタクト、WAGO、ヴァイドミュラー、日東工業をはじめ複数メーカーの端子台を取り扱っています。
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