事務所ビルの改修現場。同じ低圧幹線から、2本の電線が分岐している。行き先はどちらも、分岐点から7.5m先に新設した小さな盤で、そこに過電流遮断器(ブレーカー)を取り付ける設計だ。距離も経路もほぼ同じ、図面の上ではそっくりの2本。ところが検査で、片方はそのまま通り、もう片方だけ「遮断器を分岐点から3m以内に移すか、電線を太くすること」と指摘された。
2本の違いはただひとつ、電線の太さだけ。遮断器を置いてよい場所が、電線の太さで決まるのはなぜか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、7.5mという距離の合否を、電線の許容電流から自分で判定できるようになっている。
幹線は建物の電気の幹であり、幹線そのものは幹線用の過電流遮断器が守っている。問題は、幹から枝を出した瞬間に始まる。枝——分岐回路へ向かう電線——は、幹線より細いのが普通だ。そして細い枝は、幹線用の大きな遮断器では守れない。
たとえば定格100Aの遮断器で保護された幹線から、許容電流27Aの細い電線を分岐したとする。この枝に40Aが流れ続けたら、許容電流のトピックで見たとおり、被覆は温度の限界を超えてじわじわ劣化していく。ところが幹線の遮断器にとって40Aはただの正常な電流で、落ちる理由がない。親は大物すぎて、子の悲鳴が聞こえないのだ。
だから枝には、枝の細さに見合った専用の過電流遮断器が要る。これが分岐回路の3点セットで見た分岐用ブレーカーだ。本トピックの主役は、その遮断器を「どこに置くか」である。電技解釈第149条はこう定めている。
低圧幹線との分岐点から、電線の長さで3m以下の箇所に過電流遮断器を施設すること(通常は配線用遮断器を使うので、回路を切る開閉器の役割も同時に果たす)。
分岐点から遮断器までの区間は、幹線の遮断器にも分岐用の遮断器にも守られていない、いわば無保護区間だ。原則は「その区間をできる限り短く」。3mというのは、分電盤の近くで配線を取り回すのに必要な、ぎりぎりの遊びである。
太い枝は、親でも守れる
ところが第149条には続きがある。分岐する電線の許容電流が一定以上なら、3mを超えた場所に遮断器を置いてよい。
| 分岐する電線の許容電流 | 過電流遮断器を置ける位置 |
|---|---|
| 下の2条件に満たない | 分岐点から3m以下(原則) |
| 幹線を保護する過電流遮断器の定格電流の35%以上 | 分岐点から8m以下 |
| 同じく55%以上 | 距離の制限なし |
なぜ太さで距離が変わるのか。枝が十分に太ければ——幹線の遮断器の定格電流の55%以上を流せる体力があれば——その枝は、親の遮断器でも守れる範囲に入ってくる。過大な電流が流れたとき、枝が熱で壊れる前に親の遮断器が動作する見込みが立つ。つまりこの枝には、そもそも無保護区間が存在しない。だから距離を制限する理由も消える。35%以上・8m以下はその中間の線引きで、親の保護が完全には届かないぶん、区間の長さを8mまでに限って釣り合いを取っている。
注意したいのは割合の分母だ。35%・55%は、幹線の許容電流に対する割合ではなく、幹線を保護する過電流遮断器の定格電流に対する割合である。守れるかどうかを決めるのは遮断器の感度だから、比べる相手も遮断器の定格になる。試験のひっかけは、たいていここに仕込まれる。
計算はかけ算1回で済む。定格100Aなら、35%は35A、55%は55A。分岐する電線の許容電流をこの2つの数字と見比べて、3m・8m・無制限のどこに入るかを読むだけだ。電線の太さから許容電流を引くには、許容電流のトピックの表がそのまま使える。
「盤を増やしたい」の相談は、太さと距離の交換から始まる
工場に機械を1台増やす、テナントの奥に分電盤を足す、駐車場の照明用に小さな盤を置く——既設の幹線から分岐して新しい盤へつなぐ仕事では、この地図がそのまま設計の入口になる。分岐点の近くに遮断器を置けるなら電線は細くて済む。遠くに置きたいなら、8m以内に収めて35%の太さを用意するか、55%まで太くして距離の制限を外すか。太さと距離を交換するこの感覚は、配線ルートと電線サイズを見積もりの段階で同時に決めていく、実務の骨格そのものだ。
今日確かめられることもある。ビルや工場で、大きな分電盤のすぐ脇に小さなボックスが寄り添うように付いていたら、中身はたいてい分岐用の遮断器で、分岐点からの距離は驚くほど短いはずだ。3mという数字を知ってから見ると、盤の配置が「規定に合わせて寄せてある」ことに気づく。この線引きは、遮断器のない裸の区間で電線が焼けてきた事故の歴史の上に引かれたものであり、EV充電器のように駐車場の遠端へ新しい負荷を伸ばす仕事が増えるこれからは、8m・55%の側の出番もいっしょに増えていく。
冒頭の2本の電線に検査で下された判定の答え合わせは、理解度チェックの最後の問題でしてみよう。