友人から相談された。「キッチンにコンセントを1つ増やしたいんだけど、業者を呼ぶと出張費だけで高くつくらしい。材料はホームセンターで買ってきたから、工具さえあれば自分でもできそうだよね?お礼はちゃんとするから、お願いできない?」
たしかに、コンセントを1つ増やすだけの作業に見える。壁の中の配線を延長してつなぐだけ、道具さえあれば難しくなさそうだ。しかも今回は「お礼はする」と言われているだけで、正式に報酬を受け取る仕事ではない。この程度なら、資格がなくてもやってしまってよいものだろうか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、その答えがはっきり説明できるようになっている。
電気工事士法は、電気工事の安全性を確保するために、工事の種類ごとに必要な資格を定めている法律だ(第3条)。
- 第一種電気工事士: 自家用電気工作物(大規模な工場・ビルなど)の電気工事に従事できる
- 第二種電気工事士: 一般用電気工作物等(一般住宅・小規模店舗など、600V以下で受電する場所の電気工作物。小規模事業用電気工作物を含む)の電気工事に従事できる
- 特種電気工事資格者: 自家用電気工作物のうち、ネオン工事・非常用予備発電装置工事という特殊な工事に従事できる(第一種電気工事士の免状を持っていても、この資格がなければこの2つの工事はできない)
- 認定電気工事従事者: 自家用電気工作物のうち、電圧600V以下で使用する部分の「簡易電気工事」(電線路に係るものを除く)に従事できる。第二種電気工事士の免状取得後、3年以上の実務経験を積むか、認定講習(1日・6時間程度)を修了することで取得できる
つまり第二種電気工事士は「一般用電気工作物等」が守備範囲であり、工場やビルの自家用電気工作物の工事は原則として行えない。この境界線を問う問題が繰り返し出題される。
電気工事士法第3条に違反して、必要な資格を持たずに電気工事の作業に従事した場合、同法第14条により3月以下の拘禁刑又は3万円以下の罰金という罰則が定められている(刑法改正で懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されたため、古い教材では「3月以下の懲役」と書かれている。条文番号も改正で動くことがあるため、「無資格工事には罰則がある」という原則をまず押さえておきたい)。この罰則は、報酬を受け取ったプロの仕事かどうかで区別されているわけではない。
また、電気工事士免状は国ではなく都道府県知事が交付する(第4条)。電気工事士がこの法律や電気用品安全法の規定に違反したときは、都道府県知事はその免状の返納を命じることができる。免状は取得して終わりではなく、違反があれば取り消されうる資格であることも覚えておこう。
「それは受けられない」と根拠つきで言えるようになる
この線引きが頭に入っていると、現場で言葉に詰まらなくなる。工場の受電設備の改修を頼まれたとき、断る理由が「自信がないので」ではなく「自家用電気工作物なので第一種の範囲です」に変わる。逆に、自分がどこまで受けられるかもはっきり見える。第二種のあと実務経験を積むか認定講習を受ければ認定電気工事従事者になり、600V以下の簡易電気工事まで手が届く。資格の区分は、そのまま受けられる仕事の区分だ。
今日できることがある。身のまわりで「頼まれそうな作業」を3つ書き出し、それぞれが電気工事にあたるかを仕分けてみるといい。エアコンの取り付け、コンセントの増設、照明器具の交換。並べてみると、線がどこを通っているかが実感になる。
この法律が「無償でも違反」と言い切るのは、厳しすぎるからではない。壁の中の接続が1か所緩んでいるだけで、何年も経ってから発熱し、火事になることがある。施工した本人はとうに忘れている。だから対価ではなく、作業そのもので線を引いた。太陽光も蓄電池もEV充電設備も、住宅の側に増えていく設備ばかりだ。一般用電気工作物等に手を入れられる人の出番は、これから細っていく方向にはない。
冒頭の友人の頼み、引き受けてよいものだったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。