たとえば、新築ビルの屋上で、空調機まわりの配管を据え付ける日。屋上の端の先は、地上まで6mほど落ちていて、端にはまだ囲いがない。職長が言う。「今日は端まで行く。何を設けてから始める?」
作業床、手すり、足場の板の幅、はしご、上から物を落とすときの監視人。条文を開くと、2m、3m、5m、8m、10m、85cm、40cm、30度と、数字が並んでいる。どれも「高さ」の話に見える。では、これらは同じ物差しなのか。それとも、1つずつ別のものを測っているのか。
読み終えるころには、数字を丸暗記するのではなく、「その数字は何を測っているか」から、使う条文を選べるようになっている。
まず一言で
労働安全衛生規則(以下「規則」)の墜落防止は、階段になっている。高さ2m以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く)で墜落のおそれのある作業には、まず作業床(作業を行うための床)を設ける(518条1項)。作業床の端や開口部には、囲い・手すり・覆い等を設ける(519条1項)。それが困難なときの措置として、防網(落ちる人や物を受け止める網)を張り、要求性能墜落制止用器具(墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具)を使わせる等の措置が出てくる(518条2項、519条2項)。
足場、通路、はしご、物の投下は、別の条が別の数字を持つ。数字が多く見えても、条ごとに測る対象が違う。覚える前に、「何の高さ・長さか」を読む。
選任の体制は労働安全衛生法①、工事の計画の届出は申請書・届出、危険の見つけ方と措置の優先順位は安全管理で読んだ。条文は、2026年11月4日に e-Gov で取得した版(施行日2026年10月1日)だ。本稿のかっこ内の語釈は、要求性能墜落制止用器具(規則130条の5)を除き、一般的な意味で、条文の定義ではない。
仕組み — なぜ?
なぜ① 墜落防止の措置の数字は、法律ではなく規則に書かれているのか
法21条2項は、事業者は「労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない」と書くだけで、高さも寸法も書かない。措置の中身は、法27条1項が「厚生労働省令で定める」と委ねている。その省令が規則で、墜落は第2編第9章、通路と足場は第10章に置かれている。作業主任者を選ぶ作業や、就業制限の業務を決める5mや10mの数字は、法14条・61条が委ねた政令(令6条15号、令20条15号)にある。
労働者が守る事項も、同じ仕組みで規則にある。法26条は、労働者と、同じ場所で仕事の作業に従事する労働者以外の作業従事者に、事業者が講ずる措置に応じて必要な事項を守る義務を課し、その事項を27条1項が省令に委ねる。規則520条は、518条2項・519条2項で要求性能墜落制止用器具等の使用を命じられた労働者は、使用しなければならないと定める。物体の投下も同じで、536条2項は、1項の措置(投下設備、監視人等)が講じられていないとき、労働者は3m以上の高所から投下してはならないと定める。
なぜ② 数字ごとに、測っているものが違う
2mは「作業をする場所の高さ」(518・519・522・523条)、3mは「物体を投下する高所」(536条)、5mは「足場の構造の高さ」(令6条15号)、8mは「登り桟橋(傾斜をつけた仮設の通路)の高さ」(552条1項6号。踊場は通路の途中の平らな場所)。図で挙げた10mは2つあり、足場の高さ(計画の届出)と、高所作業車の作業床の高さ(運転の就業制限)は、別の話だ。
なぜその値なのか(なぜ2mで、なぜ5mなのか)は、条文に書かれておらず、本稿では確認できていない。
なぜ③ 作業床が先で、器具は次なのか
518条2項は「設けることが困難なとき」、519条2項は「著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすとき」の措置として、防網と器具を挙げる。器具は、作業床や囲いを設けられないときの次の手として置かれている、と読める(当サイトの読み。条文は理由を書いていない)。安全管理のトピックで見た、保護具を最後に置く措置の優先順位と同じ向きだ。
臨時に外す例外も、同じ形をしている。架設通路(作業のために仮に設ける通路。552条2項・3項)と足場(563条3項・5項)で、手すり等を臨時に外すときは、3つが揃う。
- 要求性能墜落制止用器具を安全に取り付けるための設備等を設けて使わせる(又は同等以上の効果の措置)
- 関係する作業従事者以外の立入りを禁止する
- 必要がなくなったら、直ちに原状に戻す
「外してよい」ではなく、「外している間の代わりと、戻す約束を、セットで求める」書き方だ(当サイトの読み)。
数と条文で追う
高さ2m以上のセットと、その周り
- 作業床(518条)、囲い・手すり・覆い等(519条)。器具を使わせるときの、取り付ける設備等の設置と、随時の点検(521条)
- 強風・大雨・大雪等で危険が予想されるときは作業を行わせない(522条)。作業に必要な照度の保持(523条)
- 昇降は別の物差しで、高さ又は深さが1.5mを超える箇所の作業には、安全に昇降するための設備等を設ける(526条1項。作業の性質上著しく困難なときを除く)
- 物体が落下するおそれがあれば、防網の設備や立入区域の設定(537条)
足場の作業床 — 図で寸法を読む
建地は足場の垂直の柱、床材は作業床をつくる板などだ。
足場(一側足場を除く)の高さ2m以上の作業場所には、作業床を設ける(563条1項)。つり足場の場合を除き、寸法は2号が定める。
| 測るもの | 数字 | 条文 |
|---|---|---|
| 作業床の幅 | 40cm以上 | 563条1項2号イ |
| 床材間の隙間 | 3cm以下 | 同号ロ |
| 床材と建地の隙間 | 12cm未満 | 同号ハ |
墜落のおそれのある箇所には、足場用墜落防止設備を設ける(3号。例外は同条3項)。わく組足場以外は「手すり等及び中桟等」で、手すり等だけで中桟等が不要にはならない。563条はこの2語に数字を書かず、552条1項4号の定義を引くと読める(当サイトの読み。552条の定義は、519条の「囲い等」のように「この条において」と限らず、規則でこの2語を定義するのはここだけだ)。手すり等は高さ85cm以上、中桟等は35cm以上50cm以下だ。わく組足場(妻面に係る部分を除く)は書き方が別で、交さ筋かいと、高さ15cm以上40cm以下の桟(又は高さ15cm以上の幅木)か、手すりわくのどちらかだ(前者は、これらと同等以上の機能を有する設備でもよい)。3号イのかっこ書きは「ロにおいて同じ」とあり、妻面に係る部分は手すり等と中桟等の側に入る。85cmの数字は、この3号イには出てこない。物体が落下するおそれのあるときは、高さ10cm以上の幅木、メッシュシート、防網等も設ける(6号。ただし書の例外あり)。
そのほか、幅1m以上の箇所では本足場を使う(561条の2。つり足場を使うとき等を除く)。作業床の最大積載荷重を定め、超えて積載しない(562条)。鋼管足場のうち、一側足場・本足場・張出し足場の壁つなぎ・控えの間隔は、単管足場なら垂直5m以下・水平5.5m以下、わく組足場(高さ5m未満を除く)なら垂直9m以下・水平8m以下(570条1項5号。取り外す場合等の例外は同条2項、569条3項)。
これで、足場の測定値から、作業床の寸法が1項2号に適合するかどうかを判定できる。
通路・はしご・物体の投下
| 条 | 求めること | 数字 |
|---|---|---|
| 543条 | 機械間又は機械と他の設備との間の通路の幅 | 80cm以上 |
| 542条 | 屋内通路の通路面から、障害物を置かない高さ | 1.8m以内 |
| 552条1項2号・3号 | 架設通路の勾配。15度を超えると踏桟等の滑止め | 30度以下 |
| 552条1項5号 | たて坑内の架設通路(長さ15m以上)の踊場 | 10m以内ごと |
| 552条1項6号 | 建設工事の登り桟橋(高さ8m以上)の踊場 | 7m以内ごと |
| 556条1項5号 | はしご道の上端を床から突出させる | 60cm以上 |
| 527条・528条 | 移動はしごの幅。脚立の脚と水平面の角度 | 30cm以上・75度以下 |
| 536条1項 | 高所から物体を投下するときは、投下設備と監視人等 | 3m以上 |
架設通路にも、墜落の危険のある箇所には、手すり等と中桟等を設ける(552条1項4号)。
例題 — 屋上の端を、条文で追う
仮の場面。屋上の端(地上から6m)で、作業床はあるが、端に囲いがない。機器を搬入するため、搬入口の手すりを数時間取り外したい。
- 6mは2m以上。作業床の端には、囲い・手すり・覆い等を設ける(519条1項)
- 搬入のため臨時に取り外すときは、防網を張り、要求性能墜落制止用器具を使わせる等の措置(519条2項)。器具を使わせるなら、取り付けるための設備等を設け、随時点検する(521条)
- 使用を命じられた労働者は、器具を使用する(520条)
- 強風・大雨・大雪等で危険が予想されるときは、作業を行わせない(522条)。必要な照度も保つ(523条)
- 搬入口から不要な梱包材を下へ投下するなら、6mは3m以上。投下設備を設け、監視人を置く等(536条)
これで、場面を読んで、どの条を引くか選べる。
やってみよう ①:足場の高さで、何が変わるか
墜落のおそれがあるものとして、次の3つで、規則564条の措置と作業主任者の選任が要るかを考える。
(a) 高さ4mの構造の足場(つり足場でも張出し足場でもない) 564条の措置は要る(2m以上)。作業主任者は要らない(5m未満)。代わりに、529条の「作業を指揮する者」を指名する。
(b) 高さ7mの構造の足場(同上) 564条の措置は要る。作業主任者も要る(令6条15号は5m以上)。529条は、作業主任者を選任しなければならない作業を除くので、当たらない。
(c) つり足場(ゴンドラのつり足場を除く。高さ3m) つり足場は高さに関係なく、564条にも令6条15号にも入る。措置も作業主任者も要る。
足場の組立て・点検と、人の区分
足場の組立て・解体・変更は、つり足場、張出し足場、高さ2m以上の構造の足場で、次の措置が要る(564条1項)。
- 時期・範囲・順序を、作業に従事する労働者に周知する
- 関係する作業従事者以外の立入りを禁止する
- 強風・大雨・大雪等で危険が予想されるときは、作業を中止する
- 足場材の緊結・取外し・受渡し等では、幅40cm以上の作業床と、器具を使わせる措置(困難なときや同等以上の措置を除く)
- 材料・器具・工具を上げ下ろすときは、つり綱、つり袋等を使わせる(落下しても危険のおそれがないときを除く)
点検は、2つに分かれる(567条)。1つ目は、足場(つり足場を除く)で作業を行う日の、作業開始前。足場用墜落防止設備の取り外し・脱落を点検する。2つ目は、強風・大雨・大雪等の悪天候、中震以上の地震、組立て・一部解体・変更の後で、作業を開始する前に、床材・緊結部・脚部・補強材など9項目を点検する。つり足場の点検は568条が別に定める。2つ目の点検は、結果と点検者の氏名、補修の内容を記録し、足場を使用する作業を行う仕事が終了するまで保存する。
人に関わる区分は、似た名前で3つある(作業主任者・特別教育・就業制限)。比べるために、資格でなく指名で足りる529条も表に並べる。
| 区分 | 足場・高所の例 | 条文 |
|---|---|---|
| 作業主任者を選任 | つり足場(ゴンドラを除く)、張出し足場、高さ5m以上の足場の組立て等 | 令6条15号、規則565条 |
| 作業を指揮する者を指名 | 上の作業を除く足場等の組立て等(墜落のおそれがあるとき) | 規則529条 |
| 特別教育 | 足場の組立て等の業務(地上等の補助作業を除く) | 規則36条39号 |
| 特別教育 | 高さ2m以上で作業床が困難な箇所の、フルハーネス型を用いる作業(ロープ高所作業を除く) | 規則36条41号 |
| 特別教育 | 作業床の高さ10m未満の高所作業車の運転 | 規則36条10号の5 |
| 就業制限 | 作業床の高さ10m以上の高所作業車の運転 | 法61条、令20条15号 |
やってみよう ②:ちょうどの値は、足りるか
次の記述は、規則の定めに合うか。
(a) ちょうど40cm幅の作業床は、563条1項2号イの幅の定めに適合する。 → ○。40cm以上。
(b) 床材と建地の隙間がちょうど12cmのとき、563条1項2号ハの定めに適合する。 → ×。12cm未満なので、12cmちょうどは足りない(2項の措置を講ずる場合は別)。
(c) 高さがちょうど1.5mの箇所では、526条1項の昇降設備等の定めの対象にならない。 → ○。1.5mを超える箇所が対象。
(d) 勾配がちょうど15度の架設通路には、踏桟その他の滑止めが要る。 → ×。15度を超えるものが対象。
現場とつなぐ
- 足場を貸す側・使う側。足場の最大積載荷重は、事業者として労働者に周知する(562条3項)。さらに、建設業の仕事を自ら行う注文者が、足場を請負人の作業従事者に使わせるときは、最大積載荷重を定めて足場の見やすい場所に表示し、悪天候・中震以上の地震・組立て等の後に点検者を指名して作業開始前に点検させ、記録を残す(法31条1項、規則655条)。同じ足場について措置を講ずべき注文者が2以上いるときは、後次の請負契約の当事者である注文者には適用されない(法31条2項)。元請が組んだ足場に下請の作業員が乗る場面(仮の例)は、法31条1項と規則655条に当たりうる
- 高所作業車。高所作業車を用いて作業を行うときは、あらかじめ作業計画を定め(194条の9)、作業の指揮者を定める(194条の10)
- 電気との接点。架空電線や充電電路に近接する場所で、工作物の建設・解体・点検・修理・塗装等を行い、感電の危険のおそれがあるときは、充電電路の移設、囲い、絶縁用防護具の装着のいずれかを講じ、著しく困難なときは監視人を置く(349条)。鋼管足場を架空電路に近接して設けるときは、架空電路を移設し、絶縁用防護具を装着する等の措置を講ずる(570条1項6号)
試験での出方とワナ
出題の型
令和8年度の問題BのNo.11は、選択問題で、「建設工事における安全衛生管理」のうち、労働安全衛生法上、誤っているものを選ばせた。4つの記述は、通路、架設通路、高所からの物体の投下、登り桟橋の規定を取り上げ、数字が条文と合うかを見る型だった。どれも、このトピックの表の条文で確かめられる。同じ年度の問題BのNo.25も、このトピックの範囲の条文を取り上げている。主題と形式は安全管理のトピックで扱う。
解く手順
- 条の主題を決める(作業床、足場、通路、はしご、物体の投下)
- 数字が測る対象を決める(作業をする場所の高さか、足場の高さか、物を落とす高さか、長さか)
- 「以上」「以下」「未満」「超える」に印を付け、ちょうどの値で成り立つか確かめる
- ただし書・かっこ書き・例外の項(階段を設けたもの、つり足場を除く、わく組足場以外、563条2項など)を探す
- 主語を見る(事業者、注文者、労働者)
冒頭の問いの答え合わせ
屋上の端、地上から6m。何を設けてから始めるか。
- 例題のとおり、端には囲い等(519条1項)、臨時に取り外すなら防網と器具(519条2項)、物を落とすなら投下設備と監視人等(536条)
- 数字は、測る対象で分かれる。2mは作業をする場所、3mは物を投下する高所、5mは足場の構造、8mは登り桟橋、85cm・40cm・30度は手すりの高さ、作業床の幅、通路の勾配だ
答え合わせは、理解度チェックの問1・10(作業床と墜落防止設備)、問2・3・5・6・8・9(足場)、問4(通路)、問7・12(資格の区分)、問11(物体の投下)でしてみよう。
次の問い
足場の組立てや、高い所の作業は、誰でも就いてよいのか。18歳に満たない者を就かせてはならない業務には、高い所の作業や、クレーンの運転もあるのか。次のトピック(労働基準法)で読む。ここで見た「高さ」や「運転」の語が、別の法律でもう一度出てくるのかを、そこで条文から確かめる。