竣工から数年後、電気室の温度計が夏場になるたびに40℃を超える。原因を探ると、増設のたびに変圧器を大容量のものへ載せ替えてきたのに、壁の換気口だけは新築当初のまま一度も見直されていなかった——という話は、電気設備の更新現場で決して珍しくない。
制御盤の中の放熱であれば、盤メーカーの技術資料に頼れる情報が多い。ところが、変圧器室や電気室という「部屋そのもの」の換気となると、扱う対象は盤よりずっと大きく、発熱源も配置も建物ごとに違う。おまけに、この手の設計判断は竣工時に一度決めたら終わり、という性質のものではない。変圧器を更新するたびに、換気量も本当は再計算されているべきなのだ。
換気量は「発熱量」から逆算するものだという原則
電気室の換気をどう設計するかについて、国土交通省が官庁施設向けに定める建築設備設計基準(令和6年版)には、次のような規定がある。
電気室の換気は、機器の発熱等を考慮して、適切に行うものとする。(第2編電力設備 第8章受変電設備 第6節)
熱源機械室、電気室、エレベーター機械室、駐車場等の換気量は、機器からの放熱量、燃焼空気量、排気ガスの発生量等に基づき算定する。(第4編空気調和・換気設備 第4章換気設備 第5節)
書いてあることはシンプルだ。電気室の換気量は、居室のように人数やCO2濃度から決めるのではなく、室内に置く機器がどれだけ熱を出すかから逆算しなさい、ということである。裏を返せば、変圧器の容量や台数が変わって発熱量が変わったのに換気の条件を据え置くのは、この原則からすればそもそも設計の手順が抜けている状態だということになる。
ではその「発熱量」は、どこから引っ張ってくればいいのか。
変圧器の発熱量は「損失」としてメーカー資料に載っている
変圧器は電力を右から左へ流すだけの箱ではない。鉄心と巻線を通過する過程で、必ずいくらかの電力が熱に変わって逃げていく。この逃げた分が「損失」であり、そのまま変圧器室の発熱源になる。損失には二種類あって、負荷の有無にかかわらず鉄心から出続ける無負荷損(鉄損)と、電流が流れることで巻線から発生し、負荷の大きさの2乗に比例して増える負荷損(銅損)とがある。
三菱電機の配電用油入変圧器カタログでは、この二つを足し合わせた全損失を次の式で表している。
WT = Wi + (Pe / 100)² × Wc
WT:変圧器の全損失(W)
Wi:無負荷損(W)
Wc:負荷損(W)
Pe:等価負荷率(%)
負荷率の2乗が効いてくる、という点が実務上は肝心だ。同じ変圧器でも、常時ほぼフル稼働させている設備と、ピーク時だけ高負荷になる設備とでは、発熱量が大きく変わる。カタログ値の「全損失」は特定の負荷率(多くは500kVA以下で40%、それを超えると50%)を基準に示されているため、実際の稼働パターンとかけ離れた使い方をする設備では、そのまま鵜呑みにせず自施設の負荷率で計算し直す必要がある。
具体例が分かりやすい。同カタログが挙げている試算では、三相1000kVA・60Hzの油入変圧器を、約30年前の旧型から現行のEX-βシリーズへ更新した場合、負荷率50%における全損失は無負荷損390W・負荷損5770Wから算出して1833Wになる。旧型の全損失は無負荷損1880W・負荷損11140Wから算出して4665W。同じ容量・同じ負荷率でありながら、実に半分以下まで下がっている計算になる。
この差は電気代の話にとどまらない。変圧器室の発熱量が半分になるということは、その熱を薄めるために必要な換気量も、理屈のうえでは同じ比率で小さくて済むということだ。老朽化した変圧器を更新する工事は、単に本体を新しくするだけでなく、電気室の換気設備を見直す好機でもある。逆に言えば、更新時に換気の再計算を省略すると、実際には不要になったはずの過大な換気能力を、そのまま使い続けることにもなりかねない。
なお、同カタログの損失値には「保証値」と「代表値」の区分があり、保証値はJIS C 4304:2013またはJEC-2200-2014といった規格に準拠した裕度を見込んだ上限値、代表値はそれより実測に近い数値とされている。発熱量の見積もりに保証値を使うか代表値を使うかでも結果は変わってくるため、どちらの数値を根拠にした計算なのかは、資料を読む段階で確認しておきたい。
また、電気室に置かれる発熱源は変圧器だけとは限らない。高圧受電盤・低圧配電盤・進相コンデンサなど、同じ室内に複数の機器が同居していれば、必要換気量はそれらすべての発熱量を積み上げた合計から算定することになる。変圧器1台分の損失だけを見て室全体の換気を決めてしまうと、実際の総発熱量を過小に見積もる恐れがある。
必要換気量をどう見積もるか
発熱量が分かったら、次はその熱を室外へ逃がすために、どれだけの空気を入れ替える必要があるかという話になる。ここで一般的に使われる考え方は、空気が熱を運ぶ能力(比熱と密度で決まる)をもとに、発熱量を室内外の温度差で割るというものだ。
必要換気量 ≒ 発熱量 ÷(空気が単位体積・単位温度差あたりに運べる熱量 × 室内許容温度と外気温度の差)
この「空気が単位体積・単位温度差あたりに運べる熱量」は、空気の密度と比熱から決まる物理的な性質であり、換気工学の分野では発熱を伴う室(電気室に限らず、機械室や発電機室なども含む)の換気量算定に広く使われている考え方である。ただし、この式に当てはめる係数の取り方や、室内で許容する温度の上限(電気室の室温上限としてしばしば40℃前後が参照される)は、参照する資料や設計者の判断によって幅がある。本記事では、その具体的な数値を断定できる一次資料までは確認できなかったため、実際の設計にあたっては、設置する変圧器・受電機器のメーカー仕様と、設備設計者の判断を優先してほしい。
数字を当てはめる前段階として押さえておきたいのは、この計算が「発熱量」と「温度差」という二つの変数だけで決まるという構造そのものだ。発熱量を左右するのは変圧器の容量・型式・負荷率であり、温度差を左右するのは室内で許容する温度と、その地域の夏場の設計外気温度である。つまり、同じ変圧器を置いても、沿岸部の温暖な地域と内陸の冷涼な地域とでは、必要な換気量が違ってくる。逆に言えば、換気量の妥当性は、変圧器の仕様書だけを見ていても判断できず、設置地域の気象条件とセットで検討する必要がある、ということでもある。
自然換気で足りるか、機械換気が必要か
必要換気量の見当がついたら、その空気の入れ替えを自然対流(給気口・排気口の高低差や温度差による自然換気)でまかなうか、換気扇による機械換気に頼るかを決めることになる。発熱量が小さく、室の配置上十分な開口面積を確保できるのであれば、動力を使わない自然換気は保守の手間もランニングコストも小さい。一方、都市部のビルのように電気室を建物内部に配置せざるを得ず、外壁に十分な開口を取れない場合や、発熱量そのものが大きい場合は、機械換気を組み込まざるを得ない。
ここで見落とされがちなのが、竣工時に自然換気で成立していた電気室が、増設・更新を経て発熱量が増えたことで、いつの間にか自然換気の限界を超えているケースだ。制御盤の放熱設計と同様、電気室の換気も「一度決めたら終わり」ではなく、機器構成が変わるたびに条件が変わりうる設計対象として扱う必要がある。
まとめ——発熱量が変われば、換気の条件も変わる
変圧器室・電気室の換気設計は、「その室にどれだけの熱源を置くか」を起点に、必要な空気の入れ替え量を逆算するという、建築設備設計基準が示す原則に基づいている。発熱量の実体は変圧器の損失であり、これはメーカーのカタログから容量・負荷率ごとに読み取ることができる。老朽化した変圧器を効率のよい現行品に更新すれば、発熱量そのものが下がり、必要な換気量も理屈のうえでは小さくなる。
具体的な換気量の計算式に使う係数や室内許容温度は、案件・設置環境によって幅があるため、本記事では踏み込んだ数値を断定せず、設備設計者への確認を前提とした整理にとどめている。ただし「発熱量を先に押さえ、そこから換気量を逆算する」という考え方の骨格そのものは、電気室の設計に共通する土台であり、変圧器の更新や増設を検討するタイミングでは、必ず立ち返って確認したい視点である。
変圧器・電気室機器の見積りについて
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