制御盤の脇に置かれた蓄電池設備の更新見積もりを取ったら、数字が思ったより早く動いていた。「まだ5年しか経っていないのに」と担当者はつぶやいた。実際にはそうではない。据え置かれた盤の周囲は夏場に40℃近くまで上がる場所で、鉛蓄電池のカタログ寿命は「25℃で7〜9年」という条件付きの数字だったからだ。もう一つ見積もりを取り寄せた。今度はリチウムイオン電池への置き換え案だ。届いた金額を見て、今度は別の意味で担当者が固まった。同じ容量帯なのに、鉛蓄電池のおよそ4倍という数字が並んでいたからである。
高くても長持ちするなら得なのか、それとも単に高いだけなのか。この問いに答えるには、電池そのものの性質から見ていく必要がある。
鉛蓄電池——安価で実績豊富、しかし温度と時間に弱い
鉛蓄電池は、非常用照明の蓄電池設備・UPS・自家発電設備の始動用など、産業用途で長年使われてきた電池だ。GSユアサの制御弁式据置鉛蓄電池(MSEシリーズ)は、周囲温度25℃・標準的な使用条件で期待寿命7〜9年とされる。より長寿命な中・大容量のSNSシリーズでも13〜15年が上限の目安だ。
この「期待寿命」には前提条件がある。古河電池の解説によれば、鉛蓄電池は使用温度が10℃上昇するごとに寿命がおよそ半分になる。理想的な動作温度はおよそ20〜25℃で、この範囲を外れるほど劣化が加速する。冒頭の蓄電池設備が「5年で寿命扱い」になっていたのは、カタログの数字が間違っていたのではなく、設置環境がカタログの前提から外れていたからだ。
構造面では、制御弁式(シール型)は精製水の補充が不要で保守の手間が小さい。反面、電解液に硫酸を使う構造上、他の電池種に比べて重量がかさむ。同じ容量のリチウムイオン電池と比べると、鉛蓄電池はおよそ2倍以上の重量になることが珍しくなく、設置スペースや床の耐荷重を圧迫しやすい。
価格面での強みは明快だ。材料(鉛・希硫酸)が古くから安定して調達でき、製造技術も成熟しているため、同じ容量帯であればリチウムイオン電池よりはるかに安く導入できる。「とりあえず鉛蓄電池」が長年の標準であり続けてきたのは、この初期費用の安さと、電池単体としての実績・交換部材の入手性が理由だ。
リチウムイオン電池——軽量・長寿命だが、保護回路が生命線
リチウムイオン電池の強みは寿命と重量に集約される。GSユアサの産業用リチウムイオン電池LIM30HLシリーズは、フロート寿命15年(容量保持率75%以上)、サイクル寿命30,000回以上をうたう。オムロンが2018年に発売したリチウムイオン電池搭載UPS「BLシリーズ」では、期待寿命10年(周囲温度25℃)という、鉛蓄電池のおよそ2倍にあたる数字を公表している。同社の比較によれば、鉛蓄電池搭載の同等品と比べて体積は53%、質量は30%まで小型・軽量化されている。
つまり同じ設置スペースに収めるなら、より大容量の電池を積める。同じ容量でよいなら、設置面積と床荷重の両方を減らせる。データセンターやサーバールームのように床面積の制約が厳しい現場で、リチウムイオン電池への置き換えが進んでいる理由はここにある。
ただし、リチウムイオン電池には鉛蓄電池にはない前提条件が一つ加わる。過充電・過放電の状態が続くと、電池内部でリチウムが析出して内部短絡を起こしたり、電極構造が破壊されて再充電できなくなったりする。いずれも発熱・発火につながりうる特性であり、これを防ぐためにBMS(バッテリーマネジメントシステム)と呼ばれる保護回路が、セルの電圧・電流・温度を常時監視し、異常があれば自動的に充放電を止める。鉛蓄電池が「多少の過放電には鈍感に耐える」電池だとすれば、リチウムイオン電池は「保護回路と一体になって初めて安全に使える」電池だと言える。この保護回路のコストも、購入価格が高くなる一因になっている。
用途別の使い分け——非常照明・UPS・太陽光でなぜ違うのか
同じ「産業用蓄電池」でも、非常用照明・UPS・太陽光発電では選ばれ方に差がある。
非常用照明・誘導灯では、まず区別しておきたい点がある。誘導灯や非常灯の器具に内蔵された小容量の電池は、ニカド電池・ニッケル水素電池が使われるのが一般的で、この記事で比較している鉛蓄電池・リチウムイオン電池とは別系統だ。東芝ライテックの案内によれば、この内蔵電池の寿命は4〜6年、器具本体の交換目安は8〜10年、耐用の限度は12年とされている。一方、大規模施設で採用される電源別置型の非常用照明では、器具本体に電池は入っておらず、別置きの蓄電池設備(多くは制御弁式鉛蓄電池)がまとめて電力を供給する。ここで比較しているのは、この蓄電池設備側に入っている電池のことだ。
UPSは、鉛蓄電池が長らく標準だったが、前述のオムロンBLシリーズのように、近年はリチウムイオン電池搭載機が増えている。データセンターやサーバー室など設置スペースが限られる現場ほど、軽量化のメリットが効きやすい。逆に、設置スペースに余裕があり初期費用を抑えたい現場では、依然として鉛蓄電池搭載機が有力な選択肢になる。
太陽光発電の蓄電システムは、住宅用・産業用を問わずリチウムイオン電池がほぼ標準になっている。京セラの解説にもある通り、蓄電池には鉛・リチウムイオン・NASなど複数の種類があるが、太陽光発電と組み合わせる用途では、日々の充放電を繰り返すサイクル運用に強く、深い放電深度まで使い切れる特性が評価され、リチウムイオン電池が主流になった。非常用照明の蓄電池設備が「たまにしか使わない、しかし長時間の信頼性が要る」用途であるのに対し、太陽光蓄電は「毎日サイクルを回す」用途であり、この使われ方の違いが、電池選定の重心を鉛からリチウムイオンへ移した一因になっている。
設置環境が寿命を左右する仕組み
電池の寿命は、カタログスペックだけで決まるものではない。設置環境が現実の寿命を左右する。
温度:鉛蓄電池は10℃の温度上昇でおよそ寿命半減という目安があり、理想は20〜25℃。古河電池の資料では、小形制御弁式鉛蓄電池の推奨放電温度範囲は5〜35℃とされている。屋外キュービクルや空調のない機械室に設置された蓄電池設備が、カタログ上の期待寿命より数年早く交換時期を迎えるのは、決して珍しい話ではない。リチウムイオン電池も高温に弱い点は同じだが、BMSが温度異常を検知して保護動作に入るため、劣化の進み方に対する挙動が鉛蓄電池とは異なる。
過放電:鉛蓄電池は深い放電を繰り返すと極板の劣化が進みやすく、放電深度を浅く抑えた運用のほうが長寿命につながりやすい。リチウムイオン電池は放電深度を深く取れる特性があるが、それでもBMSによる下限電圧の管理なしに過放電状態を放置すれば、電極構造の破壊につながる。
設備規模と法令:もう一つ見落とされがちなのが、蓄電池設備の容量規模による法令上の扱いだ。東京消防庁の資料によれば、火災予防条例上の蓄電池設備の規制は、蓄電池容量が10kWh超(出火防止措置を講じたものは20kWh超)の設備を対象とする基準に見直されている。ここでの容量換算は、鉛蓄電池が2V/セル、リチウムイオン電池が3.7V/セルという電圧の違いを踏まえて行われる。同じAh・セル数の設備でも、電池の種類が違えばkWh換算値が変わり、規制対象になるかどうかの境界線をまたぐことがある。大容量の蓄電池設備を計画する際は、電池の種類そのものが法令上の扱いに影響しうる点を、設計の早い段階で確認しておく必要がある。
交換サイクルとコストの総合比較——初期費用だけで判断しない
ここまでの内容を踏まえると、「鉛蓄電池は安いが短命、リチウムイオン電池は高いが長命」という単純な対比が浮かぶ。しかし現場の意思決定に必要なのは、購入時点の価格差ではなく、設備の使用年数を通じた総コストの比較だ。
鉛蓄電池は初期費用こそ安いが、期待寿命7〜9年(環境次第ではさらに短い)という前提に立てば、15〜20年設備を使うなら少なくとも1〜2回は電池交換工事が発生する。交換のたびに、電池本体の費用に加えて、施工費・停止時間・搬出入の手間が積み上がる。一方でリチウムイオン電池は、初期費用こそ鉛蓄電池のおよそ4倍という水準になりうるが、期待寿命10〜15年という数字が実現すれば、設備の使用年数によっては交換工事そのものを1回減らせる。
つまり、購入単価だけを見れば鉛蓄電池が有利に見えても、交換工事の回数・停止時間・搬出コストまで積み上げたライフサイクルコストで比較すると、両者の差は縮まり、設置環境や運用年数によっては逆転することがある。冒頭の担当者が見た「4倍」という数字は、1回きりの購入判断としては確かに重い。しかし、その蓄電池設備が今後何年使われ、更新のたびにどれだけの工事費と停止時間が発生するのかを合わせて計算しない限り、その数字が高いのか妥当なのかは判断できない。
廃棄・リサイクルの違い
寿命を迎えた電池の扱いにも、鉛蓄電池とリチウムイオン電池では大きな差がある。
鉛蓄電池は、電池工業会が案内する広域認定制度に基づき、回収・解体・製錬までの体制が確立しており、高いリサイクル率を維持している。産業用蓄電池についても、電池工業会会員を含む蓄電池製造者等が広域的な処理を担う仕組みが整っており、既存ルートに乗せれば適正処理が完結しやすい。
リチウムイオン電池は勝手が違う。環境省の案内にある通り、破損や不適切な廃棄によって、廃棄物処理施設等での発火・火災事故につながる例が報告されている。事業所から出る使用済みリチウムイオン電池は、一般ごみとして扱わず、産業廃棄物処理業者への委託や、電池・電機メーカー等が出資するリサイクル団体を通じた適正な回収ルートに乗せる必要がある。導入時にコストと寿命だけを見て、廃棄段階の手間とリスクを織り込んでいない現場は少なくない。設備更新の計画には、交換後の電池をどう処分するかまで含めておきたい。
選定チェックリスト
- 設置環境の想定温度は20〜25℃の範囲に近いか、それとも高温・屋外を想定しているか
- 用途は「たまに使う長時間バックアップ」か「毎日サイクルを回す」か
- 設置スペース・床荷重に制約があり、軽量化のメリットが効くか
- 蓄電池容量がkWh換算で法令上の規制対象に該当しないか(電池種による電圧換算の違いに注意)
- 購入単価だけでなく、設備使用年数における交換工事回数までの総コストで比較したか
- 交換後の電池の廃棄・リサイクルルートを導入時点で確認したか
電材サーチでは、蓄電池設備の更新(鉛蓄電池の後継品選定、リチウムイオン化の検討)から新設まで、用途・容量に応じてご相談いただけます。
よくある質問
非常用照明・UPS・太陽光では、結局どちらの電池が主流ですか?
電源別置型の非常用照明の蓄電池設備とUPSは、実績とコストの面で鉛蓄電池(制御弁式)が長らく主流だったが、近年はUPSを中心に小型・軽量・長寿命を理由にリチウムイオン電池を採用する機種が増えている。太陽光発電の蓄電システムは、サイクル寿命と設置スペースの両面でリチウムイオン電池がほぼ標準である。なお誘導灯・非常灯の器具に内蔵された小容量電池はニカド電池・ニッケル水素電池が使われており、この記事で比較する鉛蓄電池・リチウムイオン電池とは別の系統である。
初期費用が高いリチウムイオン電池を選ぶメリットはどこにありますか?
1回あたりの購入費用は鉛蓄電池より高くなるが、期待寿命が2倍前後長く、交換工事の回数そのものを減らせる。設備の使用年数を通算した交換工事費・停止時間・廃棄費用まで含めたライフサイクルコストで見ると、設置環境や運用年数によっては鉛蓄電池を上回るコスト差が縮まる、あるいは逆転する場合がある。単純な購入単価の比較だけで判断しないことが重要である。
鉛蓄電池は温度にどのくらい敏感なのですか?
古河電池の資料によれば、鉛蓄電池は使用温度が10℃上昇するごとに寿命がおよそ半分になる目安があり、理想的な動作温度はおよそ20〜25℃とされている。設置環境の温度がこの範囲から外れるほど、カタログ上の期待寿命より早く交換時期が来ると考えておく必要がある。
リチウムイオン電池には保護回路が必須なのですか?
はい。リチウムイオン電池は過充電・過放電の状態が続くと内部でリチウムが析出したり電極構造が壊れたりして、発熱・発火のリスクにつながる特性がある。そのためBMS(バッテリーマネジメントシステム)と呼ばれる保護回路で電圧・電流・温度を常時監視し、異常時には自動的に充放電を止める仕組みが標準的に組み込まれている。
産業用蓄電池はどこで購入できますか?
松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)の見積フォームからお見積りいただける。既設設備の更新(鉛蓄電池からの後継品選定、リチウムイオン化の検討)から新設まで、用途・容量に応じてご相談いただける。
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