本記事の事例は、安全啓発を目的として典型的な事象を再構成したものです。特定の現場・企業を指すものではありません。
制御盤の更新工事が終わり、新しいインバータが指令どおりにモーターを滑らかに立ち上げていく。担当者はその様子に満足して現場を後にした。異変が報告されたのは、それから数週間が過ぎた頃だった。稼働には何の問題もない。ただ、キュービクルの中の進相コンデンサから、これまで聞いたことのない高い音が漏れている。開けてみると、ケースがわずかに膨らんでいた。
コンデンサ自体には、誰も手を触れていない。配線も変えていない。変わったのは、その回路の外側に新しいインバータが一台増えたことだけだ。それだけで、何年も静かに働いていた設備が悲鳴を上げ始めた理由は、コンデンサという部品の中にではなく、その部品が置かれている回路全体の性質の中にある。
1.【現場のやらかし事例】力率改善のためだけに置かれたコンデンサに、高調波源が接続される
工場の設備更新では、老朽化したモーターを可変速駆動のインバータ仕様に置き換える工事がよく発生する。省エネと精密な速度制御を目的としたこの更新は、多くの場合「動力設備の更新」という枠組みで計画され、実行される。
一方、キュービクルの中で力率改善のために稼働している進相コンデンサ設備は、別の枠組みの話だと考えられがちだ。電気料金の力率割引を得るために設置された、電力会社との契約に紐づく設備であり、工場の生産設備を更新する担当者から見れば、直接の関係はないように映る。
ところが電気的には、この二つは同じ配電系統の上でつながっている。インバータは、交流を一度整流する回路構造の性質上、電源側に特定次数の高調波電流を流出させる代表的な機器だ。そしてこの高調波電流が流れ込む先には、もとから存在していた進相コンデンサ回路が待っている。「動力設備の更新」のつもりで進めた工事が、「電気室の高調波環境を変える」工事でもあった、という事実に気づく機会は、担当が分かれているほど失われやすい。
2. なぜコンデンサだけが標的になるのか——並列共振という仕組み
進相コンデンサと、その上流にある変圧器・配線のインダクタンス(コイル成分)は、電気的に見ると常に並列に接続された回路を形作っている。日本電気技術者協会(JEEA)の技術解説は、この構成についてこう述べている。「電源側の誘導性リアクタンスとこの進相コンデンサとが並列に接続されていることになり、この両者の並列共振作用によって電源側への高調波流出電流が増加する現象が生ずる」。
共振とは、特定の周波数においてコイルとコンデンサのリアクタンスが釣り合い、回路のインピーダンスが極端に小さくなる現象を指す。インピーダンスが小さいということは、同じ電圧のひずみに対して、より大きな電流が流れ込むということでもある。この並列共振の周波数が、たまたまインバータの発生する高調波の次数と近ければ、その次数の高調波電流だけが選択的に、しかも本来の何倍にも拡大された形で、コンデンサとその周辺の回路に流れ込む。JEEAの試算では、直列リアクトルを持たない回路では、コンデンサの定格容量が大きくなるほど電源系統への高調波流出比率が100%を超え、負荷設備が実際に発生させた高調波電流よりも多い電流が電源側へ流出する、という逆転現象まで起こり得るとされている。
日本電機工業会(JEMA)は、この現象を「高調波引込現象」と呼び、これが生じると設備の異常過熱及び異常音が発生すると注意を促している。冒頭の膨張・異音は、この引込現象が実際に起きたことの、目に見える結果だったということになる。
3. 直列リアクトルは、共振点を「ずらす」ための部品である
この危険を防ぐ標準的な対策が、直列リアクトルだ。三菱電機FAの製品資料は、直列リアクトルの特長を「高調波(特に第5調波)に対して回路を誘導性にし、高調波の拡大を防止します」と説明している。回路全体を誘導性側に倒しておけば、コンデンサ単体が持っていた「特定周波数で共振してしまう」という性質が現れなくなる、という理屈だ。
具体的にどれだけのリアクタンスを足せば誘導性側に倒せるかは、計算で導ける。回路が誘導性を保つための条件式を第5次高調波について解くと、リアクトルの容量はコンデンサ容量のおよそ4%以上あればよいという値が出て、これに余裕を見て6%が標準品として採用されている。同じ式を第3次高調波について解くと必要な値は約11%となり、余裕を見て13%が採用される。高圧の進相コンデンサ関連設備では、JIS規格が1998年に一本化されて以降、このリアクトルを取り付けて使用することが原則とされ、内線規程・高圧受電設備規程でも設置が義務的事項に引き上げられている。
裏を返せば、この原則化より前に設置された設備、あるいは原則化後も更新されずに使われ続けている設備には、直列リアクトルそのものが付いていない可能性が残るということだ。工場の受変電設備は、モーターや制御盤のように更新サイクルが短い設備ではない。数十年単位で使われ続けているキュービクルの中に、原則化前の設計思想のまま残された進相コンデンサ設備が今も稼働している、という状況は珍しくない。長年トラブルなく稼働していたのは、危険がなかったからではなく、共振を実際に引き起こすだけの高調波源が、たまたま近くになかっただけかもしれない。
もう一段深い理解——6%のリアクトルが「効かない」場合もある
ここまでの説明だけを読むと、直列リアクトルさえ後付けすれば問題は解決する、という結論に飛びつきたくなる。だが、話はそこで終わらない。
直列リアクトルの6%・13%という数値は、それぞれ第5次高調波・第3次高調波を主な対象として導かれた値だ。標準的な6%品は第5次高調波に対して回路を誘導性に保つが、これはあくまで「その次数に対して」の話であって、あらゆる次数の高調波に万能に効くわけではない。増設する機器が第3次高調波を多く含む構成であれば、既設の6%リアクトルは想定していた仕事を果たせず、対策として不十分なまま高調波が拡大し続ける状況もあり得る。
さらに厄介なのは、この判断がコンデンサ単体を見ていても分からないという点だ。何次の高調波がどれだけ流れているかは、増設する機器側の仕様と、電気室全体の負荷構成を突き合わせて初めて見えてくる。東芝産業機器システムのインバータFAQが、インバータの入力側に力率改善用のコンデンサを直接接続できないと明言し、直列リアクトルやACL・DCLの設置を前提としているのも、インバータという機器がそれ自体で高調波対策込みの設計を要求する存在だからだ。新設のインバータであれば、この前提はメーカーの仕様書の中に織り込まれている。問題が起きやすいのは、インバータ自体は正しく設計・設置されていても、その電流を受け止める側——何年も前から盤の中にあった、力率改善のためだけのコンデンサ回路——が、この新しい前提を知らないまま据え置かれているケースだ。
増設・更新工事の前に確認しておきたいこと
インバータやその他の非線形負荷を新設・増設する計画があるとき、電気室の進相コンデンサ設備についても次の点を確認しておきたい。
- 既設のコンデンサ設備に直列リアクトルが付いているか——本体脇に専用の箱・端子台があるか、銘板の型式・製造年からJIS一本化前後のどちらの設計か
- 直列リアクトルが付いている場合、その容量(6%・13%)は何次の高調波を想定したものか
- 増設予定の機器が、主にどの次数の高調波を発生させる構成か——メーカーの技術資料・仕様書で確認する
- コンデンサ本体に膨れ・変色・異音といった予兆が既に出ていないか——工事着手前の現状点検として
これらは「動力設備の更新」の担当者だけでは判断がつかない項目が多く、電気室全体を見る視点との連携が欠かせない。設備更新の見積り段階では、インバータ本体の性能・価格ばかりに目が向きがちだが、その電流を最終的に受け止めるのは、盤の中で何十年も静かに働いてきたコンデンサ回路のほうだ。新しい機器を足す工事であっても、既設設備が置かれた回路全体の条件を変える工事でもある、という視点を、計画の初期段階から持っておきたい。
進相コンデンサ・直列リアクトルの選定・見積りは「電材サーチ」へ
「インバータを増設する計画があるが、既設の進相コンデンサ設備が対応できるか確認してほしい」「直列リアクトルの有無が図面から分からず、現物で確認したい」「6%品から13%品への更新を検討している」——こうしたご相談を、設備更新・電気設計のご担当者様からいただきます。
電材サーチでは、ニチコン・日新電機をはじめ各社の進相コンデンサ・直列リアクトルを取り扱っており、既設設備の型式・容量と増設予定の機器情報をお伝えいただければ、選定のご相談から見積もりまで対応いたします。
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