古いモータのコイルを解いていくと、絶縁テープの下から品名タグが出てくることがある。手書きに近い印字で「KMK-20E」。担当者はこれをそのまま発注書に書き写そうとして、ふと手が止まる。KMKという記号の後ろに「-20E」と続く数字とアルファベットは、線の太さでも色でもなさそうだ。だとすれば、これは何かの仕様を表しているに違いない――そう当たりをつけて品番を検索にかけても、多くの通販ページは「KMK-20E」という文字列をそのまま一つの固有名詞として扱っていて、数字とアルファベットがそれぞれ何を意味するのかまでは教えてくれない。
結論から言えば、この型番は分解できる。プロテリアル(旧日立金属)が公開しているマグネットワイヤの総合カタログ(CAT.NO.KM001E、2023年1月発行)には「エナメル線 種類・記号・仕様書番号・特長」という一覧表があり、KMK-20E・KMK-22A・KMKED-20E・KMKED-22Aの4品について、記号と温度指数(絶縁層が長期間耐えられる基準温度)が並記されている。数字の「20」「22」は、この温度指数を10で割った値と正確に一致していた。ただし、同じKMKの仲間として最近カタログに登場したKMKDF-24Iについては、この規則を機械的に当てはめてよいかどうか、正直なところ言い切れない部分が残った。以下、その裏付けと、裏付けが取れなかった部分の両方を書いておく。
型番は「シリーズ名+温度指数の数字+皮膜材質の記号」の三段構成
プロテリアルのカタログでKMK系の型番として確認できたのは、次の5つである。
- KMK-20E(KOMAKI-20E線)
- KMK-22A(KOMAKI-22A線)
- KMKED-20E(耐インバータサージ性エナメル線)
- KMKED-22A(耐インバータサージ性エナメル線)
- KMKDF-24I(高PDIVエナメル線)
このうち最初の4つは、カタログ本体の一覧表に品名・記号・標準仕様書番号・皮膜の種類・サイズ範囲・温度指数がすべて明記されている。表を突き合わせると、規則性は次のように読める。
まずシリーズ名の部分。「KMK」はKOMAKIシリーズ、高い占積率(コイルの断面に対して銅線が占める割合)で巻線できる高強度耐熱自己潤滑線を指す。「KMKED」は耐インバータサージ性エナメル線、「KMKDF」は高PDIVエナメル線という、それぞれ別の製品群の記号として使われている。実際、これら3つの記号は横に並列するのではなく、カタログの目次でも「KOMAKI シリーズ」「KMKED / KMKDF」という別々の見出しの下に置かれていた。KMKED・KMKDFはKMKの派生型番というより、KMKと同じ土台の上に別の性能を追加した、独立に近いシリーズと考えたほうが実態に近い。
次に数字の部分。KMK-20Eの温度指数は200℃、KMK-22Aは220℃、KMKED-20Eは200℃、KMKED-22Aは220℃――一覧表にはこう書かれている。数字を10倍すると温度指数の℃表記に一致するという対応が、4品すべてで揃っていた。これは偶然にしてはできすぎている。少なくともKMK系・KMKED系という2つのシリーズに関しては、型番中の2桁の数字が絶縁層の温度指数を表す、と言い切ってよいだけの裏付けがある。
最後に末尾のアルファベット。「E」はKMK-20E・KMKED-20Eの両方に付き、この2品の皮膜材質はどちらも「ポリエステルイミド/ポリアミドイミド系」と表記されていた。「A」はKMK-22A・KMKED-22Aの両方に付き、皮膜材質は「ポリアミドイミド系」――ポリエステルイミドを含まない、単一の系統だ。E系は200℃クラス、A系は220℃クラスとも重なっているので、末尾の1文字だけを見ても「E=低いほうの温度クラスで使われる皮膜材質」「A=高いほうの温度クラスで使われる皮膜材質」という当たりはつけられる。もっとも、この英字がEster(エステル)やAmide(アミド)の頭文字だと公式にうたわれているわけではない。あくまで一覧表を4行分突き合わせたときに、皮膜材質と英字が一対一で対応していた、という観察にとどめておく。
実機に当てはめると、こうなる
ここまでの規則を、確認できた品名一つずつに当てはめてみる。
- KMK-20E:KOMAKIシリーズ、温度指数200℃、皮膜材質はポリエステルイミド/ポリアミドイミド系。標準仕様書番号はSP70-90062。標準サイズ範囲は0種・1種が0.32〜2.0mm、2種が0.32〜1.0mm。カタログの特性グラフでは、比較対象のAMW-XV線(従来の200℃クラス自己潤滑エナメル線)よりもコイル挿入力が小さく、挿入後のピンホール数も少ないというデータが示されている。高占積率モータ・冷媒用モータ・電装用モータ向けとされる一方、「皮膜剥離が困難である」という使用上の注意も一覧表に明記されていた。
- KMK-22A:温度指数220℃、皮膜材質はポリアミドイミド系。標準仕様書番号はSP70-90063。比較対象はAIW(アイメック線)で、耐摩耗性(一方向式)はAIWの15.0Nに対しKMK-22Aは16.5N、往復式ではAIWの452回に対し1500回超という数値が特性例表に載っている。高占積率モータ・冷媒用モータ・電装用モータに加え、電動工具モータでも用途として挙げられている。
- KMKED-20E/KMKED-22A:どちらも「耐部分放電性」を冠したポリエステルイミド/ポリアミドイミド系(またはポリアミドイミド系)皮膜で、標準仕様書番号はSP70-90064・SP70-90065、サイズ範囲は0.6〜1.6mmと、KMK無印よりも狭い径帯に絞られている。用途はインバータ駆動モータ・高電圧モータ・電装用モータ。カタログの課電寿命特性グラフ(1.1kVp・10kHz・正弦波)を見ると、無印のKMK-20E・KMK-22Aが1.3時間・0.9時間で寿命に至るのに対し、KMKED-20E・KMKED-22Aはいずれも1,000時間を超えている。数字の桁が2つも3つも違う。
- KMKDF-24I:高PDIV(部分放電開始電圧)ポリイミド皮膜。特性例表では、導体径0.800mm・皮膜厚さ0.036mmの条件で、PDIVが935Vp。比較対象のAIW(同条件で831Vp)より高い。耐軟化温度も500℃とAIWの427℃を大きく上回っている。
「24」を240℃と決め打ちしていいのか――ここだけは言い切れない
KMK-20E・KMK-22A・KMKED-20E・KMKED-22Aの4品で確認できた「数字×10=温度指数」という規則を、そのままKMKDF-24Iに当てはめれば、「24」は240℃を意味することになる。皮膜材質が「高PDIVポリイミド」であることも、この推測を後押しする材料ではある。同じカタログの一覧表には、イメージワイヤ(IMW、ポリイミド線)という製品が温度指数240℃で載っており、ポリイミド系の皮膜が240℃クラスに位置づけられていること自体は確認できるからだ。
ただ、ここで一度立ち止まりたい。KMKDF-24Iを紹介しているカタログのページを見返しても、そこに「温度指数240℃」という数字そのものは書かれていない。書かれているのはPDIVや耐軟化温度、耐摩耗性といった特性例の数値であって、他の4品と並べて温度指数を明記した一覧表――KMKDF-24Iはそこには載っていないのである。つまりKMKDF-24Iは、このカタログの発行時点(2023年1月)では、まだ「エナメル線 種類・記号・仕様書番号・特長」という正式な一覧表に組み込まれる前の、比較的新しい製品として紹介されているに過ぎない可能性がある。
規則から逆算した「24=240℃」という読みは、筋は通っている。しかし、それを事実として断定できるだけの一次資料の裏付けは、少なくとも今回確認した範囲では見つからなかった。選定時にこの型番を見かけたら、240℃品だと決め打ちで発注するのではなく、実際の使用温度条件を伝えたうえで仕様を確認したほうが安全である。
現場で間違えやすい点
- KMKDF-24Iの「24」を無条件に240℃と読み替えない。他の4品で成立していた規則から類推はできても、カタログ上の直接の裏付けはない。
- KMK-20EとKMKED-20Eは、どちらも温度指数200℃で皮膜材質の系統も同じポリエステルイミド/ポリアミドイミド系だが、インバータサージへの耐性はまったく別物である。課電寿命特性はKMK-20Eが1.3時間、KMKED-20Eが1,000時間超と桁違いに開いており、インバータ駆動モータの巻線に無印のKMKを流用すると、早期の絶縁破壊につながりかねない。旧コイルの型番に「ED」が付いているかどうかは、必ず確認する。
- 末尾の「E」「A」は温度クラスの上下(200℃か220℃か)に対応しているだけで、性能の優劣を表しているわけではない。用途上必要な温度指数に合わせて選ぶものであり、Aのほうが常に上位というわけではない。
- 標準仕様書番号(SP70-90062など)の末尾には改訂時にアルファベットが更新される旨がカタログに注記されている。古い品名タグに書かれた型番と、現行カタログに載っている仕様書番号のアルファベットが完全に一致しない場合がある点は、念のため頭に入れておきたい。
- KMK・KOMAKI・AMW-XVはいずれもプロテリアルの登録商標である。社内資料や図面で「コマキ線」とだけ書かれている場合、正式な発注型番(KMK-20EまたはKMK-22A)まで確認しないと、温度クラス違いを取り違える恐れがある。
実務上の注意点
巻替えや新規設計でKMK系エナメル線を選定・発注する際は、型番の記号だけを手がかりにするより、次の情報を合わせて伝えたほうが照合が早い。使用するモータ・トランスの設計温度(何℃クラスの絶縁が必要か)、インバータ駆動かどうか(サージ耐性が必要かどうか)、必要な線径とサイズ範囲、そして高占積率設計かどうか(自己潤滑エナメル線を選ぶ理由になっているか)。とくにKMKDF-24Iのように、まだカタログの正式な一覧表に組み込まれていない新しい品番については、型番の見た目から性能を類推するより、実際の仕様(PDIV・耐熱クラス・寸法)を個別に確認してから見積りに進んだほうが手戻りが少ない。
プロテリアルKMKシリーズの型式確認・見積りについて
電設資材専門商社の松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、プロテリアルのマグネットワイヤについて、旧コイルの品名タグや図面の型番からKMK・KMKED・KMKDFの各シリーズ・温度指数を照合したうえでのお取り寄せ・お見積りに対応している。KMKDF-24Iのように温度指数がカタログ上で明記されていない品番の場合は、使用温度条件や現物の写真を添えてもらえると、確認がスムーズに進む。
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