制御盤を一回り小さくしてほしい――そう言われて端子台のピッチを一段階詰めた盤で、実際に配線をしたことがあるだろうか。カタログ上は同じ電線サイズに対応しているはずなのに、ドライバーの刃先を差し込もうとした指が隣の端子に当たる。圧着端子の丸い舌部が、隣の端子のねじ頭とわずかに重なる。一つの端子で余分にかかる数十秒は大した時間ではない。だが、それが20点、30点と積み重なったとき、当初の工程表はとうに崩れている。
盤は確かに小さくなった。その代償を払っているのは、盤ではなく配線をする手のほうだ。
この違和感の答えは、端子台のピッチを「詰めれば詰めるほど良い」という単純な小型化志向のままでは見えてこない。
なぜ狭ピッチ化が求められるのか――小型化ニーズと配線点数増加という二つの圧力
端子台のピッチを詰めたくなる理由は、突き詰めれば二つしかない。一つは、制御盤そのものを小さくしたいという圧力だ。設置スペースの制約、盤の輸送コスト、省エネ・省資源の要請など、盤を小さく作る動機は年々増えている。オムロンが「Value Design for Panel」という枠組みで打ち出しているのも、対応するコネクタ端子台を業界最小サイズに揃え、縦横どちらの向きにも取り付けられるようにすることで、デッドスペースを削減し、制御盤の小型化と機能追加を両立させるという発想だ。小さくするだけでなく、空いた分だけ別の機能を詰め込める盤にする、というのがこの発想の核心になる。
もう一つの圧力が、配線点数そのものの増加だ。PLCやセンサーがネットワーク化され、盤の中を通る信号線の本数は昔より確実に増えている。盤のサイズは変えられない、あるいはむしろ小さくしたいのに、端子の数だけは増えていく。この二つの圧力がかけ合わさった結果として、「同じ幅の中により多くの端子を並べたい」という要求が生まれる。ピッチを詰めるというのは、この要求に応えるための最も直接的な手段だ。
だが、ピッチを詰めるという操作は、単に部品を小さくするだけでは済まない。隣り合う端子の間には、絶縁を保つための表面距離が必ず存在しているからだ。
狭ピッチ化がもたらす制約――沿面距離という予算を先に使い切る
端子台の沿面距離・空間距離という考え方については、汚損度・過電圧カテゴリ・材料グループという3つの変数が距離の必要量を決めるという話を、別記事で詳しく扱った。ここで押さえておきたいのは、その必要量が「距離の下限」であるという一点だ。下限である以上、端子台のピッチを詰めるという操作は、この下限に対してどれだけの余裕(あるいは不足)を残すかという勝負になる。
たとえば、汚損度3・材料グループⅠ・定格絶縁電圧250Vという、端子台では珍しくない条件で必要とされる沿面距離は3.2mmだった。一方、オムロンのプッシュインPlus端子台XW5T-Pは最小幅3.5mmという省スペース設計を実現している。単純な引き算をすれば、規格が求める沿面距離の下限と、製品として実現されている最小ピッチの差は、わずか0.3mm程度しか残らない計算になる。もちろん実際の沿面距離は端子の中心間隔であるピッチと完全に一致するわけではなく、絶縁物表面のリブ構造や樹脂の配置次第で経路長は変わってくる。だが、この数字の近さは、狭ピッチ製品が「規格の下限ぎりぎりまで攻めた設計」であることを物語っている。標準ピッチの端子台のように、樹脂の厚みや形状で余裕を持たせる作り方とは、そもそもの設計思想が違うということだ。
この「余裕のなさ」が表面化しやすいのが、仕切板・絶縁バリアの要否だ。別記事で扱った通り、仕切板は隣接端子の沿面距離を物理的に迂回させて延ばすための部材であり、リブと同じ発想を独立した部品として実現したものだった。標準ピッチの端子台なら樹脂ハウジングの形状だけで足りていた沿面距離が、ピッチを詰めた瞬間に足りなくなり、仕切板という追加の一手を挟まないと規格を満たせなくなる――狭ピッチ化とは、こうして沿面距離という「先に使い切ってしまった予算」を、仕切板や樹脂の工夫で事後的に埋め合わせる作業でもある。
作業性への影響――工具の入るスペースと圧着端子のサイズ制限
もう一つの制約は、規格の話ではなく、人の手と工具の話だ。
JEMA(日本電機工業会)とNECA(日本電気制御機器工業会)が共同で作成した技術資料は、端子の締付具を大きく「ねじ式」「ねじなし式(ケージ式・プッシュイン式)」に分類したうえで、興味深い一文を残している。「丸形端子を使用しない締付具は、丸形端子を使用する締付具に比べ、狭ピッチ化、省スペース化ができる」というものだ。
理由は単純だ。丸形端子(リング状の圧着端子)は、ねじに引っ掛けるための舌部の幅がある程度固定されている。ピッチをどれだけ詰めても、この舌部の幅より狭くはできない。詰めようとすれば、隣り合う端子の舌部同士が物理的に重なってしまう。ケージ式やプッシュイン式は、丸形端子を挟まずに導体そのものをばね状の金具で挟み込むため、この「舌部の幅」という下限そのものが存在しない。狭ピッチ化の主役がプッシュイン式であるのは、締結方法が優れているからというより先に、丸形端子という制約から解放されているからだ。
この構造は、使える電線の種類も規定する。同じ技術資料によれば、丸形端子ではなく専用の圧着端子を使う方式のうち、平形接続端子は「制御盤内の3.5mm²程度以下の比較的細い電線」向け、棒端子やフェルール端子は「制御盤内の5.5mm²程度以下の比較的細い電線」向けとされている。狭ピッチ製品が扱う電線は、最初からこの範囲の細い電線に絞られているということだ。加えて、フェルール端子は丸形端子と圧着部の構造そのものが異なるため、丸形端子用の圧着工具をそのまま流用できず、専用の圧着工具が必要になる。ピッチを詰めるという設計上の判断が、現場の工具箱の中身まで変えてしまうというわけだ。
工具そのものの取り回しにも制約が及ぶ。ケージ式の端子は、先端が細く剛性のあるマイナスドライバー形状の工具を挿入口に差し込んで電線挿入口を開く構造になっている。ピッチが狭い盤では、この挿入口へ工具を差し込む角度そのものが制限され、隣の端子や配線済みの電線に工具の柄が当たりやすくなる。冒頭で触れた「指が入らない」という違和感の正体は、まさにこの、規格上は問題なくても身体の動作としては窮屈だという一点に集約される。
狭ピッチ製品での対応策――工具レス接続と、配置そのものの工夫
こうした作業性の窮屈さに対して、メーカー各社は締結方式そのものと、端子の配置という2つの方向から手を打っている。
一つは、そもそも工具を使わずに配線を終わらせるという発想だ。フェニックス・コンタクトが自社のPush-in技術を紹介する特設サイトでは、「配線作業は工具不要、電線を挿し込むだけで完了」し、配線工数を最大50%削減できるとしている。ドライバーを狭い隙間に差し込む動作自体が要らなくなれば、ピッチの狭さが作業性に与える影響もその分小さくなる。同サイトは、業界初とする幅6.2mmのリレーやタイマーといった製品も紹介しており、狭ピッチ化が端子台単体にとどまらず、盤内機器全体の設計思想として広がっていることがうかがえる。
この効果は感覚の話にとどまらない。JEMA/NECAの資料は、JSIA(日本配電制御システム工業会)が実施した検証結果として、20か所の接続点を持つ端子台に電線を1本ずつ接続する所要時間を、接続方式ごとに比較したデータを紹介している。実務経験6年の熟練者では、丸形端子を使うセルフアップ方式で526秒かかったのに対し、ケージ式とフェルール端子の組み合わせでは399秒(24%減)、ケージ式と端末未処理導体の組み合わせでは361秒(31%減)まで短縮された。実務経験2年の非熟練者ではその差がさらに開き、733秒から575秒(22%減)、そして350秒(52%減)にまで縮んでいる。狭ピッチ化と相性の良い締結方式への切り替えが、単なる感覚ではなく、作業時間という数字の上でも裏付けられているということだ。
もう一つの方向が、端子そのものの並べ方を工夫するというやり方だ。フェニックス・コンタクトの側面Push-in式端子台PTVは、2段構成の端子をあえてオフセット(千鳥状)に配置することで、すべての接続点が配線済みの状態になっても、解除ボタンへの自由なアクセスを維持できるようにしている。ピッチを均等に詰めて隙間なく並べるのではなく、段ごとに位置をずらすことで、指や工具が入る経路を確保する――狭ピッチ化を、詰め込みの発想だけでなく、配置の発想でも解決しようとしている例だ。
標準ピッチと狭ピッチの使い分けの判断基準
ここまでを踏まえると、狭ピッチ製品をどこに使い、どこで標準ピッチのままにするかの判断基準が見えてくる。
まず、扱う電線が細い信号線・制御回路であるかどうかだ。JEMA/NECAの資料が示す通り、平形接続端子や棒端子・フェルール端子が想定する電線サイズは5.5mm²程度以下の細い電線であり、ねじなし式・プッシュイン式もまずは小電流の制御回路系で先行して普及してきた。逆に、電線サイズが太くなる主回路や、丸形端子・スタッド式のような大きな締結構造が前提になる箇所では、狭ピッチ化のメリットよりも、標準ピッチが持つ余裕――工具の入れやすさ、絶縁材料の厚み、大きな圧着端子への対応――のほうが実務上重要になる。主回路向けのねじなし式対応機器も2018年頃から市場に登場し始めているが、これは制御回路系に比べればまだ新しい動きだ。
次に、設置環境の汚損度と過電圧カテゴリだ。狭ピッチ製品は沿面距離の余地を切り詰めた設計である以上、粉じんや湿気の多い環境、あるいは引込口に近く過電圧カテゴリの高い位置に置く場合は、標準ピッチ品のほうが安全側に倒れた選定になりやすい。この2条件をどう確認するかは、沿面距離・絶縁距離を扱った別記事の枠組みがそのまま使える。
最後に、増設・改修のしやすさだ。狭ピッチ製品はもとの電線を丸形端子から棒端子・フェルール端子へ端末処理し直す必要が出てくることが多く、既設の盤に後から混在させると、電線の端末処理方法自体がその1点だけ異なる盤になってしまう。新規の盤で最初から狭ピッチ・プッシュイン式に統一するのと、既設の標準ピッチ品に部分的に狭ピッチ品を足すのとでは、必要な検討の量がまるで違う。どちらを選ぶにせよ、ピッチを詰めるという判断は、沿面距離・作業性・電線の端末処理という3つの制約を同時に引き受けるという判断でもある。
よくある質問
狭ピッチの端子台は沿面距離の点で不利になりませんか?
ピッチを詰めるということは、隣接端子までの表面距離の余地そのものを削ることなので、何もしなければ不利になります。ただし製品として販売されている以上、メーカーはリブ構造や仕切板、絶縁材料のグレードアップなどの手当てをしたうえで、必要な沿面距離・空間距離を満たすように設計しています。選定時に確認すべきは「狭ピッチだから危険」ということではなく、その製品がどの汚損度・過電圧カテゴリを前提に沿面距離を確保しているかという点で、この3変数の詳細は沿面距離・絶縁距離を扱った別記事で解説しています。
狭ピッチの端子台に丸形圧着端子を使ってもよいですか?
推奨されません。JEMA/NECAの技術資料でも、丸形端子を使用しない締付具のほうが丸形端子を使用する締付具に比べて狭ピッチ化・省スペース化ができるとされています。丸形端子は舌部の幅が固定されているため、ピッチを詰めると隣の端子と物理的に干渉しやすくなります。狭ピッチ製品では、平形接続端子(3.5mm²以下)や棒端子・フェルール端子(5.5mm²以下)など、細い電線向けの端子形状が前提になっている場合が多いです。
狭ピッチ化とプッシュイン式(工具レス接続)は必ずセットですか?
セットとまでは言えませんが、実務上は強く結びついています。狭ピッチ化を可能にしている本質的な要因は締結方式そのものではなく、丸形端子を使わない構造にできるかどうかです。ケージ式・プッシュイン式はどちらも丸形端子を前提としないため狭ピッチ化に向いており、その中でも工具を使わずに配線できるプッシュイン式が、狭ピッチ製品の主流として展開されています。
主回路(太い電線・大電流)にも狭ピッチ・ねじなし式は使えますか?
JEMA/NECAの資料によれば、ねじなし式(プッシュイン式等)はまず小電流の制御回路系で先行して普及し、主回路系への対応機器も2018年頃から市場に展開され始めた段階だとされています。主回路は電線サイズ自体が太く、丸形端子や大きな締付具が前提になりやすいため、狭ピッチ化の恩恵を最も受けやすいのは信号線・制御回路であり、主回路は用途に応じて標準ピッチとの使い分けを検討するのが実務的です。
既設の標準ピッチ端子台を、増設のために狭ピッチ品へ置き換えても問題ありませんか?
電圧・電流が同じだからといって単純に置き換えるのは避けたほうが安全です。ピッチを詰めるということは沿面距離の余地を削ることであり、置き換え先の製品がどの汚損度・材料グループを前提に設計されているかを確認する必要があります。また接続する電線が丸形圧着端子仕様のままだと、狭ピッチ製品の端子形状に物理的に収まらないことがあるため、電線の端末処理方法から見直しが必要になる場合があります。
端子台・盤内機器の選定について
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、フェニックス・コンタクト、WAGO、ヴァイドミュラー、オムロンをはじめ複数メーカーの端子台を取り扱っています。盤の目標サイズ、配線点数、扱う電線の太さ・端末処理方法をお伝えいただければ、標準ピッチ品と狭ピッチ品のどちらが適するかも含めてご提案します。
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