制御盤の新設工事が一段落したあと、電気主任技術者の立会い検査で「このねじ、指で回りますよ」と指摘されることがある。作業した本人からすれば納得がいかない。ドライバーを握った手ごたえは十分にあったはずで、「しっかり締めた」という感覚に嘘はないからだ。それなのに、検査の当日にはもう緩んでいる。
締めたはずなのに緩んでいる。この食い違いは、作業が雑だったからではない。原因の多くは、締めた本人の「手ごたえ」という感覚そのものの側にある。
「力いっぱい」が個人差でしかない理由
同じM3.5の端子ねじを、同じドライバーで、10人の作業者に「しっかり締めて」と頼んだとする。出てくる締付トルクはおそらく一本の線には収まらない。体格、握力、その日の疲労度、さらには「しっかり」という言葉から各自が思い描く強さの基準そのものが違う。感覚を管理の手段にするというのは、こういうバラツキをそのまま許容するということだ。
もう一つ、見落とされがちな側面がある。「足りないよりは多いほうが安全だろう」という直感だ。ねじは締めれば締めるほど緩みにくくなる、という素朴な期待は自然に思える。ところが、この期待は途中から事実に裏切られる。ねじには降伏点があり、規定を超えて締め込めば、ねじ山がつぶれる、いわゆる「ねじバカ」を起こす。ねじ山が変形すれば、その後どれだけ丁寧に締め直しても保持力は戻らない。端子台本体が樹脂製であれば、締めすぎで座面が割れることもある。つまり、締付トルクには下限だけでなく上限もある。強さの一本道ではなく、範囲でしか語れない量だということだ。
トルク値が「範囲」で規定されている理由
端子ねじの締付トルクは、NECA C2811(日本電気制御機器工業会規格)で呼び径ごとの基準値が定められている。この基準値をもとに、各メーカーが自社製品のカタログにトルクの許容範囲を示している。範囲になっているのには理由がある。ボルト・ナットの表面状態や締付工具の精度によって実際に伝わるトルクは変動するため、規格値ぴったりを狙うのではなく、ある程度の幅を持たせて「この範囲に収まっていれば十分な接触圧が確保でき、かつねじ山や端子台を破損しない」という設計上の許容帯を示しているわけだ。
下の表は、NECA C2811が定める呼び径別の基準値である。
| ねじ呼び径 | 締付トルク基準値 |
|---|---|
| M3 | 0.5 N・m |
| M3.5 | 0.8 N・m |
| M4 | 1.2 N・m |
| M5 | 2.0 N・m |
| M6 | 2.5 N・m |
| M8 | 5.5 N・m |
| M10 | 10.0 N・m |
| M12 | 15.5 N・m |
これを丸暗記しても、現場ではあまり役に立たない。理由は次の節で数値そのものが教えてくれる。
同じ「M3.5」でも、製品によって数値は一つに決まらない
実際に手元にある端子台やリレーの型番でメーカーの技術資料を確認すると、上の基準値どおりの数字がそのまま載っていることは少ない。各社が自社製品の構造・接触面積・想定される導体の太さに応じて、独自の許容範囲を設定しているからだ。
| メーカー・製品 | ねじサイズ | 締付トルク | 備考 |
|---|---|---|---|
| YOSHIDA端子台(東朋テクノロジー) | M3 | 0.5〜0.75 N・m | 圧着端子接続時 |
| YOSHIDA端子台 | M4 | 1.2〜1.8 N・m | 圧着端子接続時 |
| YOSHIDA端子台 | M5 | 2.0〜3.0 N・m | 圧着端子接続時 |
| 日東工業 端子台 | M3 | 0.6〜0.8 N・m | 圧着端子接続時 |
| 日東工業 端子台 | M3.5 | 0.8〜1.2 N・m(銅バー2〜3 N・m) | 圧着端子/銅バー |
| 日東工業 端子台 | M4 | 1.2〜1.8 N・m(銅バー4〜5 N・m) | 圧着端子/銅バー |
| 日東工業 端子台 | M5 | 2.5〜3.5 N・m(銅バー8〜13 N・m) | 圧着端子/銅バー |
| フェニックスコンタクト UT2,5-3L | M3 | 0.5〜0.6 N・m | 積層式端子台 |
| フェニックスコンタクト UT16 | M5 | 2.5〜3.0 N・m | 大電流用端子台 |
| パナソニック 4点ユニットリレー AY3 | M3 | 0.3〜0.5 N・m | 小形リレー |
| パナソニック SPリレー AR1922/AR1942 | M3.5 | 0.78〜0.98 N・m | リレー端子 |
| パナソニック HEリレー | M3.5/M4 | コイル端子0.78〜0.98 N・m/接点端子1.176〜1.37 N・m | 同一リレー内でも端子の役割で異なる |
見るべきは個々の数値ではなく、幅の出方だ。同じM3でも、小形リレーの0.3〜0.5N・mから汎用端子台の0.6〜0.8N・mまで開きがある。同じM3.5でも、リレー端子の0.78〜0.98N・mに対して、銅バーの締結になると2〜3N・mへ跳ね上がる。ねじの太さは同じでも、締め付けている相手が薄い圧着端子なのか、厚みのある銅バーなのかで、必要な締付トルクはまるで別物になる。さらに興味深いのは、パナソニックのHEリレーの例だ。一つのリレーの中で、コイル用の端子と接点用の端子という役割の違いだけで、指定トルクが別に設定されている。ねじの呼び径だけを頼りに「M3.5だから0.8N・mでいいはずだ」と決め打ちするのは、この段階でもう危うい。
もう一段深い理解——JIS規格の数値は「推奨トルク」ではない
ここまで基準値と各社の実測値を並べてきたが、そもそもNECA C2811の数値自体、何のために定められているのか。東朋テクノロジーの技術資料には、この規格値が「温度試験をする為の条件としての値であり、推奨締付トルクを決めたものではない」という趣旨の説明がある。つまり基準値は、端子台の性能を試験する際に一定の条件を揃えるための数値であって、現場の作業者に「この力で締めてください」と勧める値として作られたわけではない。
端子台の現行規格であるJIS C 8201-7-1(銅導体用端子台)を確認すると、この構造がもう少し見えてくる。この規格はねじ式締付具の試験トルクを独自に定めず、親規格であるJIS C 8201-1の表4を参照する形になっている。しかもその表4の適用ルールでは、「規格表の値」と「製造業者が指定するトルクの110%」のうち大きいほうを試験トルクとして採用する、という規定になっている。試験の合格基準ですら、製造業者が自社製品向けに定めた数値を上回ることを前提にしているわけだ。規格の基準値は土台であって、実際に何N・mで締めるべきかの答えは、あくまで使用する製品本体の取扱説明書に書かれている数値にある。前節の表で数値が一つに決まらなかったのは、乱立しているのではなく、この規格構造がそもそも「製品ごとに決めてよい」という前提で組まれているからだ。
トルクドライバー・トルクレンチの使い方
数値が製品ごとに決まっている以上、締め付ける側の道具も、それに合わせて力を数値で止められるものでなければ意味がない。現場で使われるのは、あらかじめ目標トルクを設定しておく「プレセット型」のトルクドライバー・トルクレンチだ。
使い方の骨格はどのメーカーの製品でも共通している。まず、締める端子の規定トルクをダイヤルまたはスケールで設定する。次に、通常のドライバーと同じ動作で締め込んでいく。設定したトルクに達すると、内部の機構が「カチッ」という音や手に伝わる振動とともに空転し、それ以上力を伝えなくなる仕組みになっている。ここで肝心なのは、空転を感じた瞬間に手を止めることだ。空転を確認したあとにさらに力を加え続けると、機構によっては設定を超えたトルクがねじに伝わってしまい、せっかくトルクドライバーを使った意味がなくなる。
締め忘れ・締めすぎのどちらも防ぎたい工程では、締め終えたねじの頭に自動でマーキングを施すタイプの製品も使われている。設定トルクに達した瞬間にインクで印を付ける機構を持たせることで、後工程や出荷検査で「マークの有無」を目視するだけで締め忘れを検知できるようにする発想だ。締める作業とマーキングの作業を一体化することで、どちらか一方だけをやり忘れるという事態を構造的になくしている。
締め付け後の確認方法——マーキングで見ているのは「力」ではなく「動き」
締め終えたねじには、合いマーク(ねじの頭と周囲の部材にまたがる一本線)を入れておくのが基本の作法だ。ここで誤解しやすいのは、このマークが締付力の強さを示しているわけではないという点である。マークが教えてくれるのは、あくまで「締めたときの位置から動いたかどうか」という一点に尽きる。
点検のときにマークがずれていれば、それはねじが緩んだ証拠になる。逆にマークが揃っていれば、少なくとも締めた位置から回転していないことは分かる。トルクの絶対値を再測定しなくても、変化の有無だけを目視で追えるようにする——これが合いマークの役割であり、締付トルクという数値そのものを現場で毎回測り直す代わりに使う、簡便な代理指標になっている。
定期点検での増し締め、どこまでやるべきか
規定トルクで正しく締めたはずのねじでも、時間が経つと締付力がわずかに下がっていることがある。ねじの頭やナットの座面、端子の接触面には、目に見えないミクロン単位の凹凸が必ず残っている。締め付け後の振動や温度変化の繰り返しによって、この凹凸が少しずつ押し潰され、締結面がわずかに沈み込む。「初期ゆるみ」と呼ばれるこの現象は、施工不良でも規定トルク管理の失敗でもなく、ねじという締結方式そのものに備わった性質だ。だからこそ、稼働開始直後や年に一度の定期点検で「増し締め」を行う工程が、念のためではなく必須の作業として位置づけられている。
ただし、増し締めのやり方にも注意がいる。緩んでいるかどうかを確かめるつもりで、規定トルクを超えてまで力任せに締め直してしまえば、今度は締めすぎでねじ山を痛める側のリスクに踏み込むことになる。増し締めは「規定トルクまで再度きちんと締める」作業であって、「前より強く締め直す」作業ではない。トルクドライバーを規定値に設定し直し、合いマークのずれを確認したうえで、必要な箇所だけ規定トルクまで締め直す——この手順を外れないことが、上限と下限の両方を守り続けるということの中身になる。
盤内資材・トルクドライバー・トルクレンチの選定でお困りの担当者様へ。当サービス「電材サーチ」では、ねじサイズや接続する導体の太さに応じたトルク管理工具、各メーカーの端子台・圧着端子まで、まとめてお見積り対応いたします。
あわせて読みたい
- 【現場のやらかし】ネジの締め込み不足で端子台がドロドロに炭化!振動による「トルク抜け・ネジの緩み」が招く接触抵抗発熱トラブルと対策
- 圧着端子の種類と正しい選び方!R形・Y形の違いから圧着工具の使い方まで解説
- 制御盤の設計・製作・長寿命化!盤メーカーが選ぶ重要電設資材と調達効率化
関連する端子ねじ・締め付けトルク・規定値・一覧・N・mの品種・型番をお探しですか?
電材サーチでは、メーカー横断で目的の型番を素早く見つけ、そのまま見積もりを依頼できます。