見積依頼書やお客様の古い図面に、「SL 3.5/2/180G3.2」という一続きの文字列が書かれていたとする。ピッチが3.5mmで、2極で、というところまではなんとなく読める。だが「180G3.2」の部分になると、急に判断がつかなくなる。これは角度が180度で、そのあとの「G3.2」がひとつの製品仕様コードなのだろうか。それとも、180と「G」と「3.2」はそれぞれ別のことを言っているのだろうか。
答えを急ぐ前に、ヴァイドミュラーの公式eShop——自社の製品カタログデータベースそのもの——で、この型番が指す実物の仕様を一つずつ確認していく。確認した範囲で言えるのは、この文字列は思ったより細かく分解できる、ということだ。
結論から言うと
型番「SL 3.50/02/180G 3.2SN OR BX」は、次の要素が順に並んだものである。
- SL ── 製品シリーズ名(基板実装用プラグインコネクタ、オス側ヘッダー)
- 3.50 ── ピッチ(端子間隔)。単位mm
- 02 ── 極数(2桁表記)
- 180G ── ピンの出口角度(Outgoing elbow)が180°であることと、ハウジングが「クローズドサイド」(側面に壁のある形状)であることを示す複合記号
- 3.2 ── はんだピンの長さ(mm)。角度やピッチとは別の独立した仕様値
- SN ── 接点表面処理(すずめっき)
- OR ── ハウジングの色(オレンジ)
- BX ── 梱包形態(箱入り)
つまり「180G3.2」は、詰めて書かれているだけで、実際には「180G」(角度+形状)と「3.2」(ピン長)という別の情報が連結されたものだ。この後、実際の3品番でこの分解が成立することを確認していく。
型番の分解 ── 公式データが示す5つの層
ピッチと極数は、そのまま数字が仕様値になる
公式eShopで品番1604470000のページを開くと、Type欄に「SL 3.50/02/180G 3.2SN OR BX」とあり、System specifications欄には「Pitch in mm (P): 3.5 mm」「Number of poles: 2」という項目がそのまま並ぶ。型番の「3.50」がピッチ3.5mm、「02」が極数2極であることは、ここまでは想像どおりだ。極数が2桁で表記される点だけ、実務上は覚えておいたほうがいい。4極なら「04」、14極なら「14」で、1桁の極数でもゼロが前に付く。
「180」と「90」は、角度ではなく出口方向、ただし結果的に角度でもある
問題はここからだ。「180G」の「180」が何を意味するか、公式データのSystem specifications欄を見ると「Outgoing elbow: 180°」という項目名が付いている。直訳すれば「出口の曲がり」で、はんだピンが基板に対してどちらへ抜けるかを表す値だ。
これだけだと言葉の上の話に見えるかもしれない。だが、同じ2極・同じピッチ・同じピン長でOutgoing elbowだけが90°に変わった品番1605070000の寸法データを並べると、違いが数字にはっきり出る。180°版(品番1604470000)は奥行7.5mm・高さ14.3mmで、ピンが基板から垂直に立ち上がるストレート形状。90°版(品番1605070000)は奥行11.1mm・高さ10.7mmと、奥行と高さの数値がほぼ入れ替わっている。90°版はピンが横向きに出てから直角に曲がり、コネクタ本体が基板に対して寝そべるような低いプロファイルになる。つまり「180」「90」は抽象的な角度呼称ではなく、実際にコネクタが基板の上でどんな姿勢を取るかを、そのまま数字で言っている。
「G」は角度の一部ではなく、ハウジング形状を示す独立した記号
ここでもう一つ、見落としやすい仕掛けがある。「180G」という並びを見ると、「G」まで含めて一つの角度コードだと思ってしまいそうになる。だが公式eShopのパンくずリストをたどると、「SL 3.50/180」という上位カテゴリの下に、「SL 3.50/180G」という別のカテゴリが枝分かれしている。同じ180°でも、Gが付くものと付かないものが、そもそも別系統として扱われているわけだ。
実際に、Gが付かない品番(例: SL 3.50/11/180 3.2SN OR BX、品番1604860000)の説明文を確認すると「male header, open side」とある。一方、G付きの品番1604470000・1605070000・1605190000は、いずれも説明文が「male header, closed side」だ。openとclosedの違いは、ハウジングの両脇にピンを囲う壁があるかどうかにある。Gは角度の修飾語ではなく、「側面に壁のあるクローズドサイド仕様である」という、角度とは独立したもう一つの情報を運んでいる記号だった。
「G」の直後の数字は、ピッチでも極数でもなく、はんだピンの長さ
「180G」のすぐ後ろに続く「3.2」も、同じように読み違えやすい位置にある。ピッチの「3.50」とだけ見比べると数字が近く、四捨五入した値か何かのように見えるかもしれない。ただ、これもSystem specifications欄を見れば別の項目だとわかる。「Solder pin length (l): 3.2 mm」——基板の裏側に突き出す、はんだ付け用のピンの長さだ。
3品番すべてで、ピッチ3.5mm・ピン長3.2mmという組み合わせは共通していた。だが同じ「Pitch 3.50 mm - Series BL/SL 3.50」のファミリー内には、ピン長だけが1.5mmや3.5mmに変わったSMT版の品番も並んでいる。ピッチとピン長は、たまたま数字が近いだけの、まったく別の仕様値だ。
末尾のSN・OR・BXは、接点仕上げ・色・梱包という付帯情報
ピン長のあとに続く「SN OR BX」は、ここまでの4層(シリーズ・ピッチ・極数・角度+形状+ピン長)とは性格が違う。品番1604470000の説明文「tinned, orange, Box」がそのままこの並びに対応しており、SNが接点のすずめっき仕上げ、ORがオレンジ色のハウジング、BXが箱入りの梱包形態を示す。同じファミリーには黒色(BK)やリール梱包(RL)のバリエーションもあり、色と梱包だけが変わって残り4層は共通、という組み合わせが成立している。
実機への当てはめ ── ヴァイドミュラー・ジャパンが例示する3品番
ここまでの分解を、実際にヴァイドミュラー・ジャパンの製品情報が挙げている3つの型番に当てはめておく。
| 型番 | 品番 | ピッチ | 極数 | 出口角度 | 形状 | ピン長 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| SL 3.5/2/180G3.2 | 1604470000 | 3.5mm | 2極 | 180°(ストレート) | クローズドサイド | 3.2mm |
| SL 3.5/2/90G3.2 | 1605070000 | 3.5mm | 2極 | 90°(ライトアングル) | クローズドサイド | 3.2mm |
| SL 3.5/14/90G3.2 | 1605190000 | 3.5mm | 14極 | 90°(ライトアングル) | クローズドサイド | 3.2mm |
3品番を横に並べると、変化しているのは「極数」と「角度」の2箇所だけで、ピッチ・ハウジング形状・ピン長は3品番とも共通している、という構造が見えてくる。型番の中で「どこが固定で、どこが可変か」を見抜けると、同じシリーズの別サイズを探すときにも、変えるべき桁がどこかで迷わずに済む。
現場で間違えやすい点
一つめは、すでに触れた「180G3.2」の塊読みだ。詰めて書かれた型番だけを見ると、角度とピン長の境目がどこにあるのか一見してわからない。公式のType表記が「180G 3.2SN」とスペースを挟んでいることに気づけば、境目は見える。だが取引先からの依頼書やFAXでは、このスペースが省略されて「180G3.2」と続けて書かれることが多く、境目を意識しないまま数字だけを追ってしまいやすい。
二つめは、Gの有無を単なる表記ゆれだと思い込むことだ。同じ角度・同じピッチの製品が「open side」と「closed side」で別カテゴリに分かれている以上、Gの有無は製品そのものの違いであって、書き方の揺れではない。古い図面に残る型番にGが付いているかどうかを見落とすと、側面の壁がある前提で設計された基板に、壁のない製品を持ち込んでしまう、といった行き違いが起こりうる。
三つめは、極数が増えるとピン1本あたりの電流容量が下がる、という点だ。14極版(品番1605190000)の公式データを見ると、「Rated current at min. number of poles (Tu=20°C): 17 A」に対し、「Rated current, max. number of poles (Tu=20°C): 12 A」という項目がある。極数の少ない構成では1極あたり17Aまで見込めるが、極数を最大まで積んだ構成では1極あたり12Aまで下がる、という意味だ。型番の極数の桁は、単に接続できる線の本数を示すだけでなく、実際に流せる電流の目安にも関わってくる。
実務上の注意点
図面や過去の発注履歴に残る型番から同等品を選定するときは、角度(180/90)とハウジング形状(Gの有無)を、まず別々に確認したほうがいい。角度は基板のどちら側にどれだけの高さの余裕があるかで決まり、Gの有無は接触保護や誤挿入防止の要件に関わる。この2つを一括りにして「G3.2」のような塊のまま照合すると、どちらか一方だけが違う品番を見落とす。
また、はんだピン長(3.2mmなど)は、基板の板厚やスルーホールのめっき仕様によって適正値が変わりうる項目だ。同じピッチ・同じ極数・同じ角度でもピン長違いのバリエーションが存在するため、既存基板からの置き換えでは、ピン長が同じかどうかも型番の中で確認しておきたい。
色(OR/BK)や梱包(BX/RL)は機能に直接関わらないことが多いが、発注時に型番の末尾まで一致させないと、意図しない色違い・梱包違いの製品が届く可能性がある。型番の読み方に迷ったら、現物の刻印や図面の型番をそのまま伝えたうえで見積もりに進むのが確実だ。
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