「電圧もコイルの形も同じだから、これで代用できるはずだ」——古くなった電磁弁のコイルを取り寄せる際、現場からそう聞かされたことが何度かある。型番の末尾だけが違う交換品を差し込んで通電したところ、数時間後にコイルが異常な熱を持ち、樹脂部分が変色していたという相談も受けたことがある。電圧表示は確かに同じだった。しかし、片方は交流(AC)駆動、もう片方は直流(DC)駆動のコイルだった。
電磁弁のコイルは、電圧という一つの数字さえ合わせれば互換が取れる部品だと思われがちだ。だが実際には、AC駆動とDC駆動という、電流の流れ方そのものが違う二つの仕組みが同じ姿をして並んでいる。この違いを知らずに選定すると、連続通電時の発熱量やコイルの寿命が、想定とはまるで違う結果になる。
電磁弁のコイルは、電圧をかけるだけの部品ではない
電磁弁は、コイルに電流を流すと磁力が発生し、その磁力が可動鉄心(プランジャ)を引き寄せることでバルブを開閉する。ここまでは、AC駆動でもDC駆動でも変わらない。可動鉄心が動けば、それに連動して弁体が動き、空気や油の流路が切り替わる——原理としては単純だ。
問題は、その「電流を流し続ける」部分にある。バルブが一瞬だけ動作して終わるなら、AC駆動とDC駆動の違いはさほど気にならないかもしれない。しかし電磁弁は、工場の生産ラインで数分から数時間、場合によってはほぼ常時、コイルに電流を流し続けたまま使われることが珍しくない。この「動作したあと、電流を流し続ける時間」の中で、AC駆動とDC駆動は決定的に違う顔を見せる。
動作の瞬間に何が起きているか——可動鉄心という可変部品
電気設備の知識と技術の解説によれば、ACソレノイドの最大の注意点は、可動鉄心の位置によってコイルのインピーダンス(電流の流れにくさ)が大きく変化することにある。可動鉄心が吸着する前、つまりバルブがまだ動作していない状態では、磁気回路の空隙(エアギャップ)が大きく開いているため、コイルのリアクタンス(交流特有の電流を妨げる性質)が小さい。リアクタンスが小さいということは、電流が流れやすいということだ。この状態でコイルに電圧をかけると、定格の数倍から十数倍という大きな突入電流が瞬間的に流れる。
そして可動鉄心が磁力に引かれて吸着位置まで動くと、空隙が閉じてインピーダンスが急激に大きくなる。電流の流れにくさが増した結果、コイルを流れる電流は突入時の値から大きく下がり、バルブを開いた状態を維持するだけの、比較的小さな保持電流に落ち着く。三興バルブ継手の解説が示す具体的な目安では、交流コイルの起動時に流れる電流は定格電流のおよそ3倍とされている。つまりACコイルは、「動く瞬間だけ大電流、動き終えたら省電流」という、鉄心の位置に応じて自らブレーキをかける構造を持っている。
直流コイルには、この「自動減速」がない
ではDC駆動のコイルはどうか。直流には交流のようなリアクタンスという概念がそもそも存在しない。電気設備の知識と技術の解説にあるとおり、DCソレノイドを流れる電流は、コイル自体の抵抗値だけで決まる。可動鉄心が動く前でも、吸着したあとでも、コイルの抵抗値が変わらない限り、流れる電流はほぼ一定のままだ。
ここに、AC駆動とDC駆動の本質的な非対称がある。ACコイルは動作完了とともに電流が下がるが、DCコイルは動作が完了しても、コイルへ電圧をかけ続けている限り、動作開始時とほぼ同じ電流が流れ続ける。高砂電気工業の解説が「DC(直流)ソレノイドでは電流は少しずつ増えていく」と表現するように、DCコイルの電流上昇はACのような桁違いの跳ね上がりこそ持たないものの、いったん定常状態に達した後は下がらない。バルブを開けたまま数時間放置するような連続通電の用途では、この「下がらない電流」がそのままコイルの持続的な発熱量になる。
「同じ電圧・同じ形」が見落とさせるもの
冒頭の相談を思い出してほしい。電圧表示だけを頼りに交換品を選んだ結果、コイルが異常発熱した——起きたことを、ここまでの構造で説明できる。仮に元がAC駆動用に設計された取り付け穴・外形を持つコイルで、代替品がDC駆動だったとすれば、連続通電時にコイルへかかる負荷はAC駆動の想定より重くなる。逆に、常時通電を前提にAC駆動品からDC駆動品へ意図的に変更する設計変更であればまだ理解できるが、「電圧が同じだから」という理由だけで無自覚にAC/DCをまたいで代替してしまうと、選定時に想定していた発熱量やコイルの電気的寿命の前提そのものが崩れる。
保護対策の設計にも同じ非対称が及ぶ。高砂電気工業の解説によれば、DC駆動のソレノイドは電源を切った瞬間に発生する逆起電力に対してダイオードを並列に接続し、電流を安全に逃がす方式が一般的とされる。一方、AC駆動のソレノイドは電源投入のタイミングによって大きな突入電流が流れることがあり、抵抗やコンデンサを組み合わせたサージ吸収回路(CR方式)で保護される。SMC株式会社の共通注意事項にも、AC仕様とDC仕様とではコイルの許容漏洩電圧の基準そのものが異なる(DC仕様は定格電圧の15%以下、AC仕様は5%以下)という記載がある。つまりコイルをAC/DCの区分をまたいで入れ替えるということは、発熱量の前提だけでなく、そのコイルを守るために組まれている保護回路の前提まで一緒に入れ替えることを意味する。
焼損という、もう一段先のリスク
発熱量の違いは、正常に動作している限りは「寿命が縮む」という緩やかな形で現れる。しかし、電気設備の知識と技術の解説はさらに踏み込んだ指摘をしている。ACコイルは、異物の噛み込みなどで可動鉄心が完全に吸着しきれない状態が続くと、本来なら吸着後に下がるはずの大きな電流——つまり突入電流に近い値——が流れ続け、コイルが過熱して短時間で焼損に至ることがあるという。動作完了によって電流が下がる仕組みは、裏を返せば「動作が完了しなければ、大電流が流れ続ける」という弱点でもある。
これに対してDCコイルは、電流が鉄心の位置に依存しない構造ゆえに、同じ原因(鉄心の吸着不良)による突発的な過電流焼損は起こりにくいとされる。ただし、これはDCコイルが発熱と無縁ということではない。三興バルブ継手の解説が示す数値では、通常の交流コイル通電時でもコイル外側の最も熱い部分は75〜80℃、側面でも60℃前後に達するとされ、耐熱クラスB品の許容最高温度130℃、耐熱クラスH品の180℃という余裕の中で運用されている。DCコイルであっても、連続通電を前提としない仕様のものに長時間電圧をかけ続ければ、同じように温度上昇の余裕を使い切ってしまう可能性は当然ある。「DCだから安全」ではなく、「DCは鉄心の吸着不良という特定の原因では急激な過電流になりにくい」という限定された話だと理解しておく必要がある。
メーカーはこの前提を織り込んで製品を作っている
ここまでの内容は、電磁弁メーカーにとって織り込み済みの前提でもある。SMC株式会社の共通注意事項は、1回の通電が30分以上、あるいは1日の稼働時間の中で通電時間が非通電時間より長くなるような使い方をする場合には、低消費電力仕様のバルブを使うよう推奨している。長時間の連続通電はコイルアッセンブリの発熱による温度上昇でバルブの性能低下・寿命低下を招き、近接する周辺機器にも悪影響を与える場合があるためだ。
興味深いのは、この対策がDC24V品にも用意されている点だ。SMC株式会社の技術資料によれば、節電回路付のバルブは、通電開始から数十ミリ秒の間だけ定格電力を印加してバルブを確実に動作させたあと、内部のPWM制御回路で高速にスイッチング動作させることで、保持時の消費電力を標準品に対しておよそ1/3まで低減する。動作の瞬間には十分な電力を与え、動作が完了したら電力を絞る——これは、AC駆動のコイルが可動鉄心のインピーダンス変化によって「自動的に」実現している挙動を、DC駆動のコイルで電子回路によって人工的に再現している設計だと捉えることができる。裏を返せば、標準的なDC駆動コイルにはこの機構が備わっていないため、連続通電での発熱を抑えたいのであれば、節電回路付・長期連続通電対応をうたう仕様を明示的に選ぶ必要があるということだ。同資料は、複数弁を隣接させて同時に長期連続通電する場合はさらに温度上昇が大きくなるとして、連続通電時間が3時間を超えるような用途ではメーカーへの問い合わせを推奨してもいる。
選定・発注で確認すべきこと
ここまでの構造を踏まえると、電磁弁のコイルを選ぶ・交換する場面で確認すべき点は次のように整理できる。
- AC駆動かDC駆動かを、電圧表示と合わせて必ず確認する。銘板に周波数(50/60Hz)の記載があればAC駆動、直流電圧のみの表記であればDC駆動である。既設設備の更新では、電圧の数値が一致していてもAC/DCの区分まで現物の型番で照合する。
- 通電時間(デューティ)を伝えて選定する。一瞬だけ動作させて閉じるのか、数十分から数時間にわたって開いたままにするのかで、必要なコイル仕様は変わる。長時間の連続通電が見込まれる場合は、節電回路付・長期連続通電対応の仕様をメーカーまたは商社に相談する。
- 保護回路も一体で見直す。コイルをAC/DC間で変更する場合、逆起電力・サージ対策の方式(ダイオード方式かCR方式か)も合わせて設計し直す必要がある。コイルだけを交換して既存の保護回路をそのまま流用すると、保護が機能しない組み合わせになる恐れがある。
- 周波数(50Hz/60Hz)も別軸の確認事項として扱う。AC駆動コイルは対応周波数を誤ると正しく動作しない、あるいは焼損につながるとされており、東西で周波数が異なる国内特有の事情も踏まえた確認が必要になる。この点は東日本(50Hz)・西日本(60Hz)で電材はどう変わるかで扱っているので、あわせて参照してほしい。
例:「この電磁弁(現物型番)を、常時通電(1日8時間以上ON)で
使いたい。節電回路付の同等品はあるか」
「AC100Vコイルの代替品として、DC24Vへの変更を検討している。
保護回路もあわせて見直したい」
型番が分かれば型番検索から見積リストへ追加できる。型番が分からない場合も、現物の写真と使用条件(通電時間・電圧・周波数)を伝えてもらえれば、AC/DCの区分や連続通電対応の要否から照合を進められる。
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電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、SMC・CKD・コガネイをはじめとする電磁弁・空気圧機器の選定にも対応している。使用条件(通電時間・AC/DCの別・周波数)を伝えていただければ、現物の型番が分からない状態からでも照合を進められる。
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