台風情報が流れ始めると、社内で一度は「うちも何か備えたほうがいいのでは」という話が出る。そして大抵は、防災用品リストをひととおり確認して終わる。懐中電灯はある。非常食もある。工場や施設の設備担当者として、それで備えは足りていると思っていないだろうか。
実際のところ、台風で工場や施設が止まる原因の多くは、懐中電灯の有無とは関係のないところにある。制御盤に組み込んだUPSのバッテリーが、実は3年前に寿命を迎えていた。非常用発電機の始動用バッテリーは、点検記録上「異常なし」のまま、実際にはクランキングできない状態だった。避雷器(SPD)はちゃんと付いているのに、接地抵抗を測ったことは一度もない。——こうした経年劣化した電材は、平常時には何の問題も起こさない。問題を起こすのは、台風で商用電源が瞬断したり、落雷でサージが飛び込んだりした、まさにその瞬間だけだ。
そしてその瞬間は、思っているより頻繁にやってくる。
なぜ今、この確認が必要なのか
気象庁が公表している台風の平年値(1991〜2020年の30年平均)によれば、日本に接近する台風は年間11.7個、上陸する台風は年間3.0個にのぼる。「台風」は特別な年だけの出来事ではなく、毎年当たり前に発生する現象として設備計画に織り込む必要がある数字だ。
問題は、その中に必ず数個、老朽化した設備の限界を超えてくる規模のものが混ざることだ。
令和元年(2019年)9月の房総半島台風(台風15号)では、東京電力管内で最大93万戸以上が停電し、地域によっては復旧まで2週間以上を要した。経済産業省がまとめた検証によれば、この台風で鉄塔2基が倒壊し、電柱1,996本が倒壊・損傷しており、停電が長期化した最大の原因は大量の倒木による配電設備の損壊だったとされる。続く台風19号(令和元年東日本台風)でも、東北・東京・中部・北陸・関西・中国の6つの電力会社管内で最大約52万戸が停電した。
これらは電力会社側の送配電設備の話であり、工場や施設の構内設備そのものではない。しかし構造は同じだ。ふだんは何の問題もなく動いている設備が、暴風・倒木・浸水・落雷という「非日常の負荷」がかかった瞬間に、経年劣化していた箇所から壊れる。電力会社の鉄塔や電柱で起きたことは、規模を変えれば、工場の制御盤やキュービクル、屋外分電盤の中でも起きうる。
しかも工場・施設側の構内設備は、送配電設備のように毎年一律の点検義務が課されているとは限らない。UPSのバッテリー、非常用発電機の始動用蓄電池、SPDの接地抵抗——これらは「壊れて初めて気づく」部類の劣化であり、台風が来る前に自分から点検予定へ組み込まない限り、誰も教えてくれない。
このチェックリストの使い方
以下は、台風・停電シーズンを前に、工場・施設の設備担当者が確認すべき項目を4つのカテゴリーに整理したものだ。各項目の技術的な背景・点検方法・選定基準は、それぞれの深掘り記事に譲っている。このページでは、自社にとって当てはまる項目はどれか、どこを深掘りして確認すべきかを洗い出してほしい。
カテゴリー1:停電時の電源バックアップ
台風による停電は、瞬停で済むこともあれば、房総半島台風のように2週間以上に及ぶこともある。「何分・何時間を、何の電源で守るか」を先に決めておかないと、いざというときに守れない。
- 制御盤内のUPSは、給電方式・容量(VA/W)・バックアップ時間が現在の負荷に合っているか → UPS(無停電電源装置)の選び方
- UPSのバッテリーは交換目安(鉛蓄電池で3〜5年程度)を過ぎていないか、交換時期を設備台帳に記録しているか → 同上
- 非常用発電機は、消防法上求められる負荷運転または内部観察等を実施しているか、実施周期を延ばす予防的な保全策を毎年継続できているか → 非常用発電機の負荷試験義務化ガイド
- 燃料タンクの容量は、消防法上の最低ラインではなく、実際に想定する停電の長さ(半日・1日)に足りているか → 非常用発電機の燃料タンク容量と連続運転時間
- 非常用発電機の始動用蓄電池は、コールドクランキングアンペア(CCA)の低下に気づける点検体制になっているか → 非常用発電機の始動用蓄電池ガイド
カテゴリー2:落雷・雷サージへの備え
台風本体の暴風だけでなく、台風の周辺や前後に発生しやすい落雷も、制御機器を破壊する主要因の一つだ。SPD(避雷器)は「付けてあるから安心」ではなく、接地とセットで初めて機能する部材である。
- SPDを設置しているだけで、接地抵抗を実測したことがないという状態になっていないか → 【現場のやらかし】SPDを付けていたのに制御盤が全損
- SPDの劣化表示(寿命マーク)を、日常点検の確認項目に含めているか → 同上
- 接地抵抗の測定は、補助接地棒(P極・C極)の配置間隔を正しく取ったE-P-C法で行っているか → 接地抵抗測定(E-P-C法)の正しいやり方
- 「アース棒を打ってあるから大丈夫」ではなく、実測値が基準を満たしているか台帳で確認できるか → 【現場のやらかし】アース棒(接地極)の埋設不足・抵抗値オーバー
カテゴリー3:屋外設備の防水・耐風
屋外に設置された盤・架台は、暴風雨に直接さらされる。経年劣化したパッキンや、想定を超える風荷重は、台風のたびに毎年のようにニュースになる被害の典型だ。
- 屋外分電盤・キュービクルの扉パッキンは劣化していないか、電線引込口のコーキング・シーリングは切れていないか → 屋外分電盤・キュービクルの雨水浸入対策
- キュービクルは「年次点検に合格している」だけで安心せず、変色・異音・絶縁抵抗値の低下傾向といった更新サインが出ていないか → キュービクルの更新タイミング診断
- 太陽光パネル架台は、設置地域の基準風速に対して十分な耐風圧設計になっているか、ボルトの緩みなど施工不良の兆候がないか → 太陽光パネル架台の積雪荷重・耐風圧設計
カテゴリー4:保護機器そのものの経年劣化
停電・サージ対策の設備が万全でも、それを守る配線用遮断器自体が経年劣化していれば、いざというときに「切れるべき時に切れない」事態になりかねない。
- 配線用遮断器は、メーカーが示す標準的な使用年数の目安を超えていないか → 配線用遮断器の経年劣化と交換時期の目安
- 異音・異臭・変色といった劣化のサインを、目視点検の項目に含めているか → 同上
まとめて見直すことの意味
ここまでの4カテゴリーを見て、「うちはUPSは点検しているが、SPDの接地は測ったことがない」「キュービクルは大丈夫だが、非常用発電機の燃料タンクの容量は確認したことがない」といった、部分的な抜け漏れに心当たりが出てきたのではないだろうか。
これは自然なことだ。UPS・発電機・SPD・キュービクル・遮断器は、それぞれ別の担当者、別のタイミング、別の業者が関わってきた設備であることが多い。個々には点検されていても、「台風という一つの脅威に対して、施設全体としてどこまで備えられているか」を横断して見る機会は、意外なほど少ない。
チェックリストで気になった項目は、まとめて相談・見積もりを
チェック項目の中に一つでも「怪しい」と思うものがあれば、そこだけを個別に発注する必要はない。UPSのバッテリー交換、非常用発電機の点検・燃料タンクの見直し、SPDと接地の点検、屋外分電盤のパッキン交換——これらは扱うメーカー・カテゴリーがバラバラでも、電材商社に一度でまとめて相談・見積もり依頼できる。
複数カテゴリーをまとめて手配する最大のメリットは、担当者ごとに別々の業者・別々の商流を管理する手間がなくなることだ。台風シーズン前という限られた時間の中で、個別に問い合わせ先を探して回るより、気になった項目をまとめて一度に相談してしまうほうが、結果的に対応も早くなる。
よくある質問
台風対策は毎年やる必要がありますか?
気象庁の平年値(1991〜2020年の30年平均)では、日本に接近する台風は年間11.7個、上陸する台風は年間3.0個にのぼる。台風は特別な年だけの出来事ではなく、毎年発生することを前提に設備の点検サイクルへ組み込む必要がある。特にバッテリーやパッキンなど経年劣化する部材は、シーズン前の確認を毎年のルーティンにしておくことが望ましい。
UPSと非常用発電機は、どちらか一方があれば十分ですか?
役割が異なるため、代替関係にはない。UPSはバッテリーで数分〜数十分程度の瞬時のバックアップを担うのに対し、非常用発電機は消防法上、消火・避難活動が完了するまでのより長時間・大容量の電源供給を担う設備だ。想定する停電の長さに応じて、両方の組み合わせを検討する必要がある。詳細は非常用発電機の負荷試験義務化ガイドを参照してほしい。
このチェックリストの項目は、自社だけで点検できますか?
接地抵抗の測定や非常用発電機の負荷運転など、専用の測定器や有資格者が必要な項目も含まれる。まずは本記事のチェックリストで自社にとって気になる項目を洗い出し、専門的な点検・部材交換が必要なものは、見積もり依頼を通じて相談するとよい。
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- 電気設備の定期点検・法定点検ガイド|事業者が知っておくべき義務と周期
- UPS(無停電電源装置)の選び方|給電方式・容量計算・バックアップ時間を体系的に整理
- 非常用発電機(自家発電設備)の負荷試験義務化ガイド
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